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【見習い拷問官と教官】
『廃城の砂猫』 8 アンクの鍵 J地下神殿・脱走編

「ここは静かで…何時も優しく私を迎えてくれた…」

ダミアン、お前の言う通りかもしれないな…1名になってしまえば、この砦は静かだ、
これ程静かな場所は、確かに早々は無いだろうな…気に入りの場所になったのも頷ける
だが同時に…孤独を噛みしめる者には、ここの静けさは苦痛だったかもしれない
まだ顔合わせもしていない、そのスフィンクスの坊主にとっては特に

先程まで一瞬即発で緊迫状態だった事など嘘の様だ
砦を取り囲んだ招かれざる客が、居なくなってしまえば尚更

エースは煙草を吹かしながら、ダミアンが投げ渡してきたショルダーを漁る
成る程…対熾天使用の封印石に、各種強力な魔法具・封印具がこれでもかと入っている
下等な者であれば…神すらも拘束できそうなモノすら含まれているのを見れば
ただ…魔王宮の兵器庫から拝借した、と言うワケでは無く
この日の為に着々と準備はしていたのであろう事は、容易に想像出来た

その坊主を拘束する為では無い、万が一【瑠璃色の翼】が生えてきた場合
その肉体の進化を、親神への変化を、強引に止める為のモノだろう

俺に確認するまでも無いだろう?最初から手放すつもりなんて全然無いはずだ…
翼の色が赤だろうが、瑠璃だろうが、最初から悪魔にする気で、満々じゃないか
体裁もクソも無いのだろう?我等が馬鹿皇子様は?まぁ解ってはいた事だが

ダミアンはスフィンクス達と、地下神殿に行ってしまった

一名取り残され俺に、その装備の全てを寄越したと言う事は
アイツも思ったのだろう、その坊主は、親神達にも赤翼にも捕まらない
その前にきっとこの砦に戻ってくるはずだと…俺もそう思う…
その坊主が儀式を城を逃げ出す程、今の小さな肉体に未練があるならば

ならば…闇雲に砂漠を探し回る事は無い、待っていれば必ずココに戻ってくる
あの親神の言う通りに、行方不明なってからまだ24時間も経っていないのなら
その間、問題の坊主がここに立ち寄った形跡など、一切無かったのだから

ダミアンが大人しく地下神殿に赴いたのも、時間稼ぎの意味合いの方が強い
スフィンクスより先に、私に替わって対象者を確保しろ、そういう事なのだろ?

「そう言えば…目標は、ギターの音が好きだって言っていたな」

ならば…俺の音に誘われて出てきてくれるのか?ソイツは?
多分その効果も期待して、ダミアンは俺を共に共犯者に選んだのだろうから…
ただ…同族から逃げ回っているその坊主が、そんな事で近づいてきてくれるのか?
普通だったら有り得ないが…やってみる価値はあるのだろうな

なんと言っても、ダミアンの【色稚児兼養い子】の様なモノだろう?
それだけ長く時間を共にしているなら、あの【天然】さも感染してるに違い無いからだ

我ながら未来の大魔王陛下に、無礼千万もこの上無いな…と自嘲しながらも
部屋の隅にたてかけてあった、ダミアンのギターを拝借する

さぁ来い…スフィンクスの坊主、本当はどうしたいんだお前は?
ダミアンの代わりに俺が聞いてやるから

静かな砂漠の夜に、流れる柔らかな戦慄…
そうしてエースは目瞑り、四方の気配を探りはじめる、どんな小さな存在も逃さない様に

※※※※※※※※※※※※※※

「事情は大体飲み込めた…解った、協力してやるよ…」

ダミアンの話を聞き終えたエースは、静かにそう答えた

「おや…また嫌味やらお説教を繰り出してくるかと思えば、やけに素直に聞いてくれるのだね」

意外そうなダミアンに、エースは続けた

「翼の生えた時点で、ソイツの利用価値は無くなっているはずだ、魔神の連中にはな…
瑠璃色の方が生えてきたとしても…実質的に喜んだのは、血縁者くらいだろうな
選民思想が強い連中が、ソイツを【特権階級者】として認めるとは、到底思えないからな
寧ろ…既存の価値観と秩序を乱す【厄介者】として、排除する方向に向かうのが自然だ
ならばソイツを悪魔に連れ攫われた所で、体の良い後始末が出来たとしか思わないだろ?
自らの手を汚さずにすむなら尚更?今回は、条約違反と騒ぎ出す事も無いだろうよ…」

せいぜい騒ぎになったとしても、表向きは、事故で子供が死んだ、行方不明になった
その程度の事で終結するだろうよ…そこに悪魔が関わった事すら隠蔽されるかもしれない

魔神側も悪魔と王都サイドとは、衝突する気はないだろうからな

しかし、その坊主も運が無いな、せめて予想通りに【赤翼】とやらの方だったのなら…
そのまま群に、スフィンクスの社会に帰る事も、可能だったかもしれないが…

【危険因子】がそのまま【親神】になるなんて、奴等は絶対に認めないだろ
同じ様な経歴の奴が、あと2〜3匹いるなら話は別だが、
連中の排他主義を考えれば、ソレも望めないだろうに

それくらいなら、変異における肉体的な危険はあっても、
コレを機に転魔してしまった方がマシだろ?お前もそう思っているんだろ?

「ただ…強制的に転魔させる事を前提としても…そのガキの体力が持つのか?
それと砂漠でしか生きられない体質とやらも、変異するのか?それはどうなんだよ?」

「前例が無いだけに、確実とは言えないが、理論上は転魔は可能だ、私の血を使うなら
念のため事前に彼の血液を採取して、私の血液に過剰に反発しない事だけは、もう確認済みだ
神官長の見立てでは、翼が生えるまで肉体が成長すれば…耐えられるのでは無いかと
勿論…王都には彼専用の医療施設も用意はしてる、
例え体質変化が遅れても…ある程度の期間は、砂漠と同じ環境は作れるのだが…」

ただ…その前にあの子の最終意思確認もしたい
魔神として生きるのか?悪魔として生きるのか?

だいぶ前に約束はしている、どちらの色でも構わない、翼が生えそろったその時は
ただ【親神】か【赤翼】になるかだけじゃなくて、
【悪魔】になると言う選択肢も用意できると…話した事はあるのだが
でも明確な返事がもらえなかった、「その時になってみなければ解らない」と言われて

「差別を受けようが孤立しようが、彼もまた、間違い無くスフィンクスなのだ
【瑠璃色の翼】を授かった以上、或いは【親神】になる事を望むのかもしれない…
それが…この半年私を避け続けた理由かもしれないからな…」

そう言って自嘲義気に笑うダミアンは、王都を出た時から抱えている、小振りのショルダーを握り絞める

事情はあれど、長く時間を共にした相手が、必ずしも転魔を望まないかもしれない…
柄にもなくソレが確認が怖いのだろう…全くもってらしくないワガママ皇太子ともあろうお方が

何時もなら…天使であろうが、別の何某であろうが、コイツに気にいられたら最後だ、
無理矢理にでも、相手を捕まえ犯した挙げ句、場合によっては、自分の血を含ませてまで、
魔族に堕としてしまうクセに、相手の意思など関係無く、躊躇など持たないクセに

「それと…もう一つだけ確認するが、ソイツはお前の気しか、受け付けないのか?」

「そんな事は無いはずだ…私の留守中は、近隣の者もつまんで居た様だからな
最初こそは、影響が無いか焦ったが…結局は、常に充填されている私の気に、
下級悪魔のソレなど相殺かき消されてしまって…問題が起こった事はない
特に特定の属性に、アレルギー反応を起こした記憶も無いが?
それこそ、私に匹敵するくらいの強力な気の持ち主じゃないと………」

と、そこまで自分で言いかけて、ダミアンは気がついたのだろう
ギンと見開いた目で、此方を睨みつけてくる、エースはニヤニヤと笑った

「お前と俺の趣味が、変に被るのも何時もの事だろ?今更だろ?気にするなよ?
ついでに【お痛】がすぎる悪ガキなら、相手が1名増えたところで、どうって事ないだろ?」

「そういう問題では無いだろ…っっ」

「お前は、今迄の話を聞いていたのかっ!」と皇太子は詰め寄るのだが
魔界の色情魔神はどこふく風だ、いつも通りの軽い口調で、平然と言い放つ

「らしく無いんだよ、ワガママ馬鹿皇子、ちゃちゃっと掻っ攫えばいいだろ?何時も通りに?
これ以上お前が、グタグタ躊躇するなら、俺が引き取ってやるよ…お前の手に余るなら
話通りの美味そうな猫だからな…躾のしがいもありそうじゃないか?
それとも何か?俺の魅力の前では、また愛魔を取られるとか、ダサイ事考えてるのか?」

「誰を、何時、お前に取られたって?そんなつもりは露程も無いが…」

おーおーらしくなって来たじゃないか?そうでなければ面白くは無い
品行方正で、聞き分けの良すぎる皇太子など、気持悪くて仕様が無い
これからやろうとしている無茶を考えれば、何時も通りのゴリ押し加減は
取り戻してもらわねば、お話にもならないからな…

「で…その坊主は、必ずココには現れるんだよな」

単純な怒りと気恥ずかしさからか、顔を紅潮させてまくしたてるダミアンをよそに
俺がもう一度確認すれば、不機嫌そうにそっぽを向きながら答える

「あの子は、まだまだ虚弱なんだ…そう簡単にお前にくれてやる気なんて、全然無いからね
………まぁバステトで聞いた話では…頻繁にココには帰ってきてはいるみたいだ
単純に私を避けているだけで、以前の頻度と変わらないくらいは………」

たまたま今夜は、私達の方が先に到着していたみたいだけど…
私の気配を隠した上で、少し気長に時間を取れば、必ず現れるはずなんだ必ずね…

そう言って、暖炉の薪を足そうとした、ダミアンの動きは不意に止まる
俺も思わず窓の外を見渡す、ほぼ同時に感じ取ったのだろう、明確な敵意を
来る…無数の気配が、渦の様に、濁流の様に此方に向かってくる
これは悪魔の気配では無い、魔神…無数のスフィンクスの親神の気配だ…

※※※※※※※※※※※※※※

「ダミアン殿下、そこに居られるのであろう?」

砦を取り囲むのは、ざっと数えて20体ほどのスフィンクスの親神達だ
足下には…細かい従僕を従えている所を見れば、地下神殿の者達に間違いはなさそうだ
群れの中から進み出てきたのは、他のスフィンクスより、若干小柄な雄の親神だ
ソレを見たダミアンは、彼を庇う為に立ちはだかるエースを押しのけると
かなり慌てた様子で、バルコニーを飛び越えると、城門の外に走り出る

『お久しぶりですね…どうしたのですか?この有様は?』

その口ぶりからすると、顔見知りか?ああ…コレが問題の坊主の父親か?

『そこに…私の息子が居るのだろう?事を荒立てたくは無い…引き渡してもらおうか?』

意外な言葉が親神の口から飛び出した、ダミアンは、ただ驚いて答えた

『彼は…地下神殿にて儀式に入ったと、アイ殿から聞いているのですが…
貴方の側に居るのでは無いのですか?変異前に私もキチンと話をしたかったのですが
実は私も…もう半年も、彼の顔を見ていないのですよ
彼の保護者に加えさせて頂きながら、無責任でお恥ずかしい話なのですが
翼が生えてからは、一名で酷く悩んでいるようで、私を避けているのですよ………』

ダミアンはありのままを説明するのだが、父親は少しも納得しては居ない様だ

『隠さないでいただきた、息子もスフィンクスなら、親神に進化する事こそ最上なのだから』

強い口調で吠える父親に賛同して、口々にダミアンを此方をののしるのは
悪魔へ牽制の意味もあるのだろうが、やはり一部の保守派と言われる、頭の固い連中なのだろうか?
良く見れば…ヒートアップしているのは、父親に同調して騒いでるごく一部で
他の連中からは…行方不明の少年を心配する様な、
極当たり前の焦りの様なモノは、一切感じられなかった、寧ろその視線は冷ややかだ

だが…その反応も当然なのかもしれない…

【穢された異端】でありながら、ありがたくも、親神になる資格を与えられたと言うのに
どうやら、肝心の坊主は、神殿を逃げ出してしまった様だ
馴染みの無い地下神殿での生活が嫌だったのか?それとも…
此までの度重なる疎外感に、進化そのモノに嫌気がさした?とでも言った所か?

その様な不心得者に【神としての自覚の無い者】を、我々の列に加えてるのか?
【選民思想】が、極端に強い彼等ならば、逆にそう思う者の方が多いのも当然だ

こうやって頭数を繰り出して、形ばかりは、迷子の捜索に当たっているのも
家出をした子供を、取りあえず保護するべきだと言う、義務感だけなのだろう
後は…この興奮しきった口五月蠅い親神と、一部の支持者に付き合ってやっているだけ

そんな雰囲気が、ありありと伝わってくるのが、何とも不思議で滑稽なものだ

『それほどお疑いなら、家捜しして頂いても結構だ、その為に従僕をお連れになったのであろう?』

苛立ち紛れにダミアンが言い放つと、様々な獣の頭を持つ半獣半人の者達と
四つ足の黒犬の群れが、一気に砦の内部になだれ込んでくる 
その様は異様であり、それ以前に魔神側から【不可侵条約】に違反する行為である

一瞬身構える俺に、此方を振り返ったダミアンが、「手出しは無用だ」と叫ぶので、
エースは大人しくその場で待つ事にした、連中の家捜しが済むまで、気が済むまで

無遠慮な奴等は…ありとあらゆる場所をひっくり返し、嗅ぎ回っていったが
当然問題の坊主は発見出来ない…立ち寄った痕跡すら無い事が解ると
ようやく息子は、ココには居ないと、納得出来たのだろうか?
父親はその場にへたり込むと、大きく落胆の溜息と漏らし、落胆の表情を見せる

『納得いただけましたかな?我々も彼を探しているのですよ…きちんと話がしたくて
予想外の事とは言え、折角授かった瑠璃の翼だ、ちゃんとした親神になって欲しいと
我々からも説得する為にね…彼が親神になってくれれば、我々の肩の荷も下りる
魔神と悪魔の友好も、更に堅い結束になるでしょうからね…』

そんな事は欠片も考えてもいないくせに…歯の浮くような台詞
絶望的な表情を浮かべる、父親の顔を優しく覗き込むと、ダミアンは更に続ける

『私共も…彼の捜索に御協力いたしますよ、ソレには砂漠の王のお許しが必要でしょう?
貴方には申し訳無いのですが、私を地下神殿まで、連れていっては頂けないでしょうか?
何…ココにはあの男を残してゆきますよ、あの子がココに立ち寄ったら
すぐに私に連絡をよこすでしょう、忠実な私の側近中の側近ですから、御心配なく…
ところでアイ殿は?彼も当然あの子も探索に参加されているのでしょう?
なら…闇雲に砂漠を走り回るより、我々は神殿に戻り、対策を練り直すべきと考えますが』

ギラギラと光るダミアンの緑の目は、お得意のチャームが全快状態だな…これは
普通の状態なら、親神もソレに気がついたかもしれないが…
取り乱している彼は、ソレに気がつく事が出来ない…まんまと術中に填まっている事にも

『ああ…確かにアイは…赤翼が中心の別働隊と共に、他を探し回っている最中だ
取り乱していたとは言え、お恥ずかしい姿をみせましたな…謝罪いたしましょう
確かに殿下のおっしゃる通りだ、一度神殿に戻り、大王にお伺いを立てるべきでしょうな…』

抑揚力の無い口調で答える親神の目は、どんよりと霞がかかった様に曇っている

『ならば…急いで地下神殿に参りましょう…案内していただけますね…』

畳みかける様に囁くダミアンの言葉に、親神はフラフラと蹌踉けながら頷くと、
その背に素直に彼を乗せて翼を広げて、羽ばたきはじめる

『悪魔をそのまま地下神殿に連れてゆくなど、その場所を知らせるなど、とんでもない!』

と叫ぶ同胞達の声など、今の彼の耳には届かないのだろう
あっと言う間に飛び上がると、矢の様に、夜空の彼方に消えてゆく
慌てて彼を追いかける、他の親神達とその従僕達もソレに続く

気がつけば…騒然としていた砦の周りには、最早誰もいなくなっていた
先程の一瞬即発の喧噪など、まるで嘘だったかの様に

「後は…頼んだよ、エース…」

親神の背から、咄嗟に俺にショルダーを投げ寄越したダミアンは、それだけを言い捨てて消えた
俺もその場では、余計な返答等はしなかった、ただニヤリと笑って彼に答える

坊主を見つけたら、ダミアンに連絡をする?スフィンクスにも知らせる?
そんな事が、有るワケが無い…コレは時間稼ぎだ、皇太子自らが、勝手出た揺動作戦だ
俺の役目は、奴等より先に、速やかに対象者を確保して隠蔽する事

実際…坊主の最終意思確認などは…二の次だ、とりあえずダミアンと再び合流するまで…

※※※※※※※※※※※※※※

砂漠での大捜索と喧噪の少し前の事だ、
地下神殿で目を覚ましたジェイルは、眠っている間に、また少し大きくなった翼を見て、溜息をつく

もう…このまま【親神】になってしまうまで、ココを脱出出来ないのだろうか?
閉じ込められてから、ずっと考えていた、このまま【親神】になったら、自分はどうなるのか?

【親神】になったからと言って、自分が神殿生活に馴染めるとは思えなかった

分化前に悪魔の気を受けてしまった自分は、同族であって同族では無い者のはずだ
「特異なケース」を追跡する、経過観察用の【サンプル】に過ぎなかったはず
特に【主家】の親神達にとっては、同族の【赤翼】すら差別する彼等が
【異端者】になった自分を、何事も無かった様に受け入れるとは、到底思えない…

多分、俺の羽化を望んでいるのは親父と、長く生活を共にしたカゲイヌくらいだろう
無事に成体になれたからと言って、メデタシ・メデタシと元の状態に戻るワケも無い

【赤翼】や他の【擬態】達だって同じ事だ、面と向かっては排除はされなかったが…
あの騒ぎ以降のキャラバン生活は、生温い期待と苛立ちの目で見られる、軟禁生活と同等だった
自分の身の置き場が何処にも無い、言い知れぬ、孤独と不安が、常に付きまとっていた

だけど…あの廃城と、ダミアンの手厚い保護と、カゲイヌの神官長の補佐があったから
他の悪魔との火遊びがあったから…廃城と言う逃げ場があったからこそ、耐え切れた

俺は…とっくにスフィンクスでも、悪魔でも無い者になっているんだ

初めて【擬態】になった、あの夜の幼獣と、今の自分は違う…
自分がどれだけ微妙な立場に立っているのか、きちんと理解して解っているつもりだ
特にこの【瑠璃色の翼】が生えてきてからは、ますます酷くなった様にすら感じる

翼が生えるまで…この倦怠感しかない砂漠で、閉じ込められ、耐えねばならないのか?

そうだ…翼が生えてしまえば、成体達の期待通りに【赤い翼】が生えれば
全てが解決して解放される…同族からの疎外感からも解放されるんだ
分別がそれなりに付くようになってからは、その事ばかりを考えていた
年頃になっても生えて来ない翼に、苛立って荒れたりもしたけれど
翼が、翼さえ生えてくれば…その先の事も考えられるはずだ、それだけを信じてきたのに

どうしてだろう…ちっとも嬉しく無いのだ…
翼の色が…予想とは、違ったからだろうか、生えてきた翼は、周囲を更に混乱させた
結局は…俺自身も苦しめている、あれほど待ち望んでいたのに、どうしてこんな事に…

嫌だ…【親神】になりたくない…自分を疎外する者の輪には、入れないし、入りたくもないから?
いや?違う?【親神】になりたく無い…ソレだけでは、ないのだろうか?

俺は…今のこの身体に未練があるんだ…【自由に使える様になったこの両手】に

そんな時…ふと頭をよぎるのは、随分前のダミアンの甘い囁き
その時…悪魔の皇太子は、何時もと変わらず、俺を優しく抱きしめながら言った

「【親神】にも【赤翼】にもなりたくなかったら、【悪魔】に転魔する道もあるんだよ
最もコレは親父殿にも、アイ殿にも内緒だよ…メネプには一応了解はとってあるけどね」

悪魔になる?それがどいうい事なのか…今もまだ解らないけど

その時は…まだソレが恐ろしくて、今以上の禁忌を犯してしまう様な気がして
その時は…まだスフィンクスで居たくて、「羽根が生えるまで解らない」と答えたけど

今はどうなのだろう…悪魔になってしまえば、このままの自分で居られるのだろうか?

でも…スフィンクスから悪魔になった奴なんて、少なくとも俺は、聞いた事が無い…
その行為によって、自分がどうなってしまうのか?勿論ソレも恐ろしいのだが

両種族の関係がどうなってしまうのか?また拗れた関係に逆戻りするのでは無いか?

考えれば、考える程に恐ろしくなるのだ…前回の騒ぎを思い返せば特に
だから…【転魔】の事なんて、ずっとその事は考えない様にしていたのに、
どうせ生えてくるのは【赤翼】だから、考える時間はいくらでも有ると思っていたのに

いきなり結論を迫られも…どうしたらいいのか解らないんだよ、俺も………

だから避けていたんだ…ダミアンを、肌が恋しくて、寂しくて堪らなかったけど
ちゃんとした答えが出ない内は、顔を合わせられない、見られないから………

からん・からん・からん

自問自答を繰り返すジェイルの耳に、甲高い金属温が響く
慌ててそちらを振り返れば、床の上に何かが落ちているではないか

あれは…アンク?金色の【アンクの鍵】だ…

成体のスフィンクスと、主家に仕える高位の従僕のみが、使用する【神器】
使用者の持てる力が弱ければ、ソレを効率良く倍増させ
逆に強すぎる場合は、その無駄なうねりと、暴走を修正する事も出来る
触媒・媒介の様な役割をする物なのだが…そんな物が何故な所にあるのだろう?

もしかして…コレを使えば、ここから出られるかもしれない?

勿論…ついこの間まで幼体だった俺は、【アンク】を使った経験なんて有りはしない
でも【瑠璃色の翼】が既に生えている今なら…
コレを使う能力が、既に覚醒しているはずだ…その資格も
こんな事なら…コレを使用する機会が、こんなにも早く来るなら
つまらない神官共の説法を聞き、儀式もきちんと受けておけば良かった
今更ながら後悔は尽きないが、そんな悠長な事も言っていられない、
見よう見真似の呪を唱えると、結界越しに手を翳す、床に転がるソレに向かって

『Venha…』

ジェイルの呼びかけと共に、床の上のアンクが、カタカタと音を立てる
次第にその音が大きくなると、全体がほんのり光り、蛍の様に発光し始めるのが見える
大丈夫だ…今の自分でも、コレは使えるはずだ…
ジェイルは自分にそう言い聞かせると、結界に両手を添え爪を立てる
集中するんだ…絶対に出来るから…さあ来い、ここに来て、俺に力を貸してくれ…

ふぉん そんな軽い音がした様に感じた 床から宙に浮き上がったアンクは
暫くその位置に留まっていたが…不意に此方に勢い良く飛んでくると
球体結界の外側に、俺の目線の少し上に、ガチリと張り付いた

途端に結界内と外に発生する緑色の稲妻が、結界と中の少年を激しく打ち付ける
その激しさと苦痛にジェイルは、一瞬だけ悲鳴を上げるのだが怯まない

コレは反発する魔力の反動だ、俺とこの結界を張った親父との…
外に逃げだそうとする俺と、何が何でも逃がすまいと、閉じ込めようとする親父
ガチの親子喧嘩と同じなのだ、ここで尻尾を巻いて引けない、負けるワケにはいかない

バリッ バリバリバリッ バリバリバリーンッ

落雷の様な激しい音が部屋に響き渡り、閃光が辺りを包み込む
少し遅れて、大きめ窓硝子を破った様な音が聞こえて、そして静かになった

大地の力を集めていた魔法陣の発動が、完全に停止すると
無数の硝子の破片の様な物が、破られた結界の欠片が、辺りに四散している
そして…その中央では、少年が肩で息をしながら蹲っていた
その身体からは、ぷすぷすと燻る、魔力反動の煙が立ち上っていた…

「ぶち破ってやったぜ、クソ親父…コレで俺は自由に………」

ジェイルは苦しげに顔を歪めながらも、勝ち誇った様な笑みを零そうとするのだが
その顔は直ぐさま恐れと、落胆の影に覆われる

ぱりっ…ぱりぱりっ

左腕の腕輪の下から、皮膚の上に走るのは、ひび割れの様な物
その下からは…金色の毛皮が、成体のスフィンクスのソレが、覗きはじめていた
もう時間が無いのだ、確実に【羽化】の時が近づいている

それが…たった今、力を暴走・暴発させた反動なのかは、解りはしないけど

悲鳴にも似た叫び声を上げた少年は、慌てて腰の飾り帯を一本抜くと
劣化の始まった皮膚の上に、幾重にも巻き付ける

嫌だ…俺は、俺はまだ、このままで居たいんだ!!!

床に転がったアンクを拾い上げると、その胸元にしまいこみ
ジェイルは育ったばかりの瑠璃色の翼を、めいいっぱい広げた

逃げなきゃ…もうココには居られない、砂漠に砂漠に帰らなきゃ…

自らの翼を広げて、空を飛んだ経験など勿論無かった…
それでも…急成長した大きな翼は、彼の細い身体を軽々と持ち上げる

スフィンクスであるならば、充分な大きさの翼を持てば、空をかけるのは当然
息をするよりも簡単に、本能的にソレを使う事が、出来るのではあるが
本来であれば…最初の飛行は、もっと穏やかなモノのはずなのだ
年嵩の仲間達の祝福を受けながら、しかし今この部屋には誰もいない

「もう少しだけ…もう少しだけ…時間が欲しいんだ…」

少年はそう呟くと…回廊を抜け、一気にあの船着き場を目指す
あそこには、排気と採光用のダクトが【天窓】があったはずだから
まだ小さな身体の自分なら、彼処から外に脱出出来るはずだから

瑠璃色の羽根を撒き散らし、飛び去ってゆくその姿を
柱の陰からじっと眺めている者が居る事に、少年は最後まで気がつかなかった
そしてその者も…連なる影に吸い込まれる様に、その場を立ち去ってゆく

父親と神官達が、ジェイルの逃亡に気がついたのは、それからかなり経った後だった、
祭礼儀式の真っ最中だった事も、彼等にとっては不幸な偶然だったのだろう

まさか、羽化前に結界が破られるとは、想定していなかった父親は取り乱し
思い当たる行き先として、直ぐさま叔父であるアイに報告するのだが、
赤翼の居城・バリングラにも、その姿は見つける事は出来なかった

そして、あの悪魔の皇太子がまた、余計なちょっかいを出したに違い無いと考え
頭数を揃えて、砦に向に捜索隊を出したのだが………結果は冒頭の通りである

連絡を受けたアイも、赤翼を中心とした別働隊で、甥の捜索には当たっていたが
依然として、ジェイルの行方をつきとめる事は出来なかった………



続く


時間が無いわ〜秒刻みよ〜?な感じになってまいりましたが
どうするんだ〜家出&非行少年J君は〜まぁ先は解っておりますが(^_^;)

スフィンクス家の追っ手も厄介だけど、砂漠には、もっともっと恐ろしい補導員が
舌なめずりしながら、待ち構えておりますが…まだ子供なのに、受難すぎる(T_T)

一応?砂漠の神様で魔物なのに…自分が喰われてしまうのでしょうか?

多分喰われてしまうのでしょうね〜がっつり捕まって、バリバリ・むしゃむしゃと

そして、腐女子のお姉様方の、歪んだ期待を膨らませておきながら、
寸前で切る私は…相変わらず酷い奴ですね、天然S子だから仕方ないけど
ガラケーユーザーに優しい?エロサイトだから仕方ないけど

まぁ…こういうのは、焦らされた方が嬉しいでしょ?
伸びても構わないと言う許可も、前回頂いておりますから〜
調子に乗りますよ〜乗りまくってしまいますよ〜

次回は多分エロですね、しかも…未成年?を相手に?かなりハードかも?
地獄の補導員…容赦がありません、病弱っ子と解っていても
そしてスフィンクス家はどうなるのか??? やっぱり大風呂敷広げすぎかな???

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