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【見習い拷問官と教官】
『廃城の砂猫』 6 烙印 暗黒設定有り・流し読み可

「幼生の虚弱体質は、我等の一族だけではなく、魔神に課せられた【試練】でしてな…
翼の分化の前に、他者の気を受けた者は、例外なく【なりそこない】になってしまう
我々で言う所の【赤翼】になってしまうのですよ…」

魔神が他族から、治癒魔法を受けた「前例」など無い為…理由は不明だが
今回はあの子に、他者の気を受けた印である【赤の印】が、何故か出ていない…
それでも…おそらくは【瑠璃の翼】を授かる事には、ならないでしょうな

アイの説明を聞き、私は愕然とする 
成る程…ソレがあの親神が怒り狂った理由か…

そうだ…彼等とて、衰弱してゆく幼生を前に、何もしない訳では無く出来ないのだ
なけなしの子供の自身の力を、特殊装飾で外に逃がさない様にするだけではなく
出来ればすぐにでも、自らの気を命を、我が子に親族に分け与えたい…当然の感情だ

しかし…親神・赤翼に関係無く、一度でも成体からのヒーリングや命を受けてしまえば
【試練】の落伍者として【瑠璃色の翼】を得る資格を、永久に失ってしまう
例えその場では、その幼生の命が、助かったとしてもだ…

【瑠璃色の翼】を授かり、強大な魔力と肉体を得る事を、最上位と考える彼等にとって
ソレは、我が子を絶望の縁に突き落とすに等しい行為なのだろう…

分化の前に、他者の命を分け与えられた者、【試練】に耐えきれなかった者には
【赤の印】と呼ばれる、太陽の様な形の赤い痣が、身体の何処かに浮き出るのだが
どういう訳か?ジェイルの身体にはソレが見られないらしい

注ぎ込まれた命が、同族のモノでは無く、悪魔のモノだったからか?
それともソレが、大魔王家の血筋の特殊なモノだからか?
不可侵条約違反は、確かに大問題ではある、しかし…今回の【事例】を追求すれば…
我が子を【なりそこない】に堕とさずに、救う方法が見いだせるのではないか?
スフィンクス族だけでなく、同じ様な生態や宿業を持つ、全ての魔神族達が
今回の【掟破りの幼生】に注目しているのは、当然の結果なのだろう…

敵対種族である悪魔の命を受けた、その行為には、偏見と恐れを持っていたとしてもだ

確かに命は助かった…偶発的な進化の結果【擬態】にもなった
しかし翼の無いジェイルは、まだまだ子供なのだ、根本的な虚弱体質は変わらない
滞り無く成体に成長するには、清浄な砂漠での生活は不可欠な上
衣食住の他にも、その虚弱な体質を、サポートする者もまた必要なのだ

しかし…今回の【特殊事例の経過観察】をする為には、
今後翼が生えるその時まで、同族の治癒魔法やヒーリングを受ける事は出来ない、
魔神の幼生特有の、何らかの重篤な発作が現れたとしてもだ
勿論その責任は私が取る、ジェイルが無事に成体に進化するその時まで、
メディカル面のサポートは、我々悪魔側がするつもりではあるのだが…

叔父であるアイも、あの親神も、最早手を出すことは叶わないのだ
彼の血縁の心情としては、複雑なモノであるのは間違いないだろう

特に高慢で嫌な男だと思っていた、ジェイルの親神の心情を思えば、胸の奥底がチクリと痛む…
悪意は無かったとは言え、彼に対しては、残酷な事をしてしまったのかもしれない

※※※※※※※※※※※※※※

扉の奥は、大王のプライベートエリアの様だ
彼の巨躯に合わせて作られた神殿は、外のソレよりも荘厳で煌びやかだ
来客をもてなす為の、サロンの様な場所だろうか?
モザイクの床が美しい円形の広間には、既に他の魔神族の代表と思われる者達が、大王を待ち構えていた
姿形はスフィンクスとは異なるのだが、半神半獣の姿と、大きさは共通している様だ
無数の目に、見下ろされる形になってしまうのは、少々気に入らないが、こればかりはどうしようも無い

魔神族の中であっても、スフィンクス族は、高位な立場にある一族と聞く
代表者の魔神達が、一斉に大王に家臣の礼を取るのも当然の事なのだろう
開けられた道を進み、再奥の一段高い席についた王は、下座に控える私達に手招きをする

『こちらに来るがいい、特使殿も和子も、この場に馴れぬ小さき者が足下に居られては、
居並ぶ部族代表殿が、動くに動けぬのでな』

私とジェイルが、促されるままに壇上に上がれば、アイと親神は、壇上のすぐ下に着席したようだ

『皆揃われた様だな…では再協定の審議をはじめる…』

厳かな声で議会の開始が告げられ、先程も顔を合わせた書記官に、書状の入った円筒を手渡す、
封蝋が解かれ、中身が外に出されると…それは瞬間的に魔神仕様のサイズに変化する

協定の内容は…殆ど変わってはいないはずだ
今迄通りに、魔神の砂漠内での自治権と不可侵条約を保証した上で
悪魔と魔神が必要以上に関わらない、現状維持を願う文面の後に
例え魔神であっても、砂漠内にて不可抗力における、負傷者・急病者が出た場合は…
手続きを省略した上で、当事者を救助・保護する用意がある旨を付け加えたのは
私のアイディアでもあったのだが…その件だけは、失笑されてしまった様だ

『其れには及ばない…我等とて必要な医術も設備も持っておる、お気遣いは無用である
特使殿は、誤解をされている様だが、幼生の健康状態が放置されているワケでは無い
コレは…我等が魔神たる故の【試練】なのですよ…』

王のその返答を補足するかの様に、アイから説明されたのは
分化前の幼生が、同族間の成体から、治癒魔法を受けた場合の副作用についてだ
そして…何故かその副作用が、ジェイルに見られない事も…

そこで初めて、親神の激しい怒りの原因を知り、思わずその横の父親を見るのだが
相変わらず渋い顔をしている彼は、ギロリとこちらを睨み返してくるばかりだ

『何故その子に【烙印】が現れないのか?我が一族も疑問に感じている』

羊と虎がミックスした様な身体に、やはり人間のソレの様な顔とタテガミを持つトウテツ族が、そう言えば

『単純に同族ではなく他族の気が、入ったからとも思えぬ…
奇跡的に力のバランスが取れている事に加え、やはり特殊な者のソレだからでは無いか?
全ての魔神族に転用が利くとは思えぬが…』

鳥の身体に豊な胸と女性の顔を持つ、ハーピー族が答る

『何れにせよ…その子は、前例として貴重なサンプルになるだろう
成体になるまでの、経過観察は必要になるだろうがな』

壮年の男性のあごひげを蓄えた雄牛が、ラマッス族がソレにそう続ける

先程の派手な儀式と演出は、悪魔側への威嚇行為であり、
魔神内の反悪魔・王都派の不満を、解消する意味あいの方が強かったのだろう
殆ど出来レースであったはずの、【不可侵条約の再提携】よりも
彼等の真の興味と目的は…ジェイルの方にあるのだ

幼体に【烙印】を背負わせずに、その命を分け与える事が、可能であるのなら
その方法が解明され、納得出来る物であるのなら…それこそ魔神達の悲願でもあるからだ

いわじわと滅びに向かっている、正しき血を護る事は勿論
虚弱体質者や、【なりそこない】を減らす事が、出来るのではないか?そう考えるのは、当然の結果だ

だが…問題の当人は、そんな魔神達の思惑など、理解していない様だ
キョトンとした表情で、辺りを見回していたのだが
そんな彼をあやす様に、王の尾が伸びてくれば、飛びつきじゃれついている

『正しく経過観察をする為には、今後も魔神の気は、一切入れない方が良いのでしょうな?』

『他の幼生との接触はどうする?逆にこの子の気が、他の幼生に入ってしまうのも問題だ
私は完全に隔離をした方が良いと考えるが…』

『しかし…【擬態】の形は取っているとはいえ、まだ子供だ…
成長に必要な、キャラバン生活は不可欠な上に、完全に隔離するなど不可能だ
そして砂漠でしか生きられぬ、虚弱体質も変わらぬであろう?
無事に成体になるまでには、それなりのサポートは必要となるでしょうに?』

ガヤガヤと議論する代表者達に、アイは再び進言する

『重大な失態を犯したのは事実ではあるが、甥を引き続き、私めに任せては頂けぬか王よ
勿論メディカル面では、ダミアン殿と悪魔側のサポートも不可欠でしょう?
ならばこそ…ゲートの存在する私のテリトリー内に、甥を留めた方が、利便性は高いはず
如何だろう?ダミアン殿も、協力して頂けますでしょうか?』

突然振られた話に、ぎょっとはしたが…元より私も、そのつもりだったのだ
正式にジェイルと、今後も逢う事が、許されるのであれば、渡りに船と言うものだ
ジェイルが成体に羽根が生えるまで、彼のメディカル面を全面的にサポートする事と
他の幼生には、むやみに接触しないと言う内容を、二つ返事で了承すれば

側に控えていた神官長・メネプもそれを後押しする

『スフィンクスの医師の立場と致しましても、アイ様とダミアン殿下の提案に賛同致します
完全隔離等の環境の変化は、御子息の心理状態にも作用するでしょう…
正常な成長と進化の妨げになる事も、充分に考えられます
経過観察を最上の目的とするならば、現状のまま留め置かれるのが最良と存じます
王が許されるのであれば、私めが自ら彼の側に侍り、他の幼生との接触を断ちます故
王と代表者の皆様におかれましては、許可を与えてはいただけないでしょうか?』

「神官長が自ら監視者となる…」と言う言葉が、利いたのだろうか?
砂漠の王は静かに頷き、魔神達の代表者も納得したのだろう、
ジェイルは、再びアイのキャラバンに戻される事となった様だ

決議が下されれば…魔神達は、次々にサインと捺印を書状に認めはじめる
その光景に私は、取りあえずは安堵するのだが
その間も一言も発言を挟まずに、黙ってその場を退席する親神の背中に目を奪われる
この採決に対する彼の思いは、いかばかりのモノだろうか?

『お待ちください…』

気がつけば…その場から離れ、親神を追いかけていた
親神は広間を出た辺りで立ち止まると、此方を振り返らずにポツリと呟く

『あの子は…私の最初の子供達の、最後の生き残りなのだ…』

相手のセクメト達のせいではない、私の魔力が足りなかった為だろうか?
私が産ませた他の卵は、みな未熟児で、産声を上げる事なく冷たくなっていた
唯一生き残ったあの子も、弱すぎて擬態にすらなれない…その命が短い事も解っていた
健やかな身体にしてやれなかった事で、あの子を苦しめるくらいなら、
いっそ力を分け与え、【赤翼】にしてやった方が、マシなのではないか?
と、どれだけ悩み苦しんだか解らない、だが出来なかった…
翼を授かる前に『絶望の烙印』を押す度胸と覚悟が、私には無かったのだ

悪魔の皇子よ…うぬぼれてもらっては困るのだ
其方は何も知らなかったが故に、安易に治癒魔法をかけてやれた、ただソレだけの事だ

しかも…どういうカラクリか?その烙印すらも、現れないと来ている…
こうなってしまっては、いっその事「赤の印」が現れた方が、どれだけ良かったか解らぬ
この先翼が生え揃うまで、あの子がどれだけの【偏見】と【奇異】の目で見られるかさえも、
悪魔の其方には解らぬ事だろうに…
あの子の【瑠璃の翼】への渇望が薄い事だけが、救いだとでも言うのか?

「ただ…スフィンクスの主家の者としてでは無く、あの子の実親としては
見る事すら叶わぬと考えていた、あの子の擬態を見せてくれた事には、感謝する…」

それだけを力無く言い捨てると、彼は翼を広げその場から飛び去ってしまった

「ダミアーンっ、最後に、ダミアンのサインが要るんだって」

砂漠の王の足下で、ジェイルが私を呼んでいるのだが
飛び去ってゆく彼が、見えなくなってしまうまで、私はその場を離れる事が出来なかった

※※※※※※※※※※※※※※

「そうですか…愚弟が貴方にそのような話を…」

無事に特使の任務を終え、再び帆船に乗り込み、帰路についた私は
アイに先程の話をした、話さずにはいられなかった…
流石に疲れてしまったのか、眠りこけているジェイルの寝顔を見ている内に
本当は…こうやって、この子と穏やかな時間を過ごす権利は、
あの親神にこそあったのではないか?そんな罪悪感に捕らわれたからかもしれない

「ダミアン殿下…もし御時間が有りましたら、我がキャラバンにも、お立ち寄り願えませんか?」

「アイ様…」 他の幼生との接触を避ける為にも、流石にそれは如何なモノか?

同行しているメネプは、露骨に難しい顔をするのだが、アイは構わず続ける

「成り行きとは言えダミアン殿も、この子の養育者の一名になられたのと同じでは無いか?
ならば…我等の【赤翼】の生活環境を見て頂く必要も、あると考えるのだが…」

但しキャラバンの者達の前では、悪魔の交易商の立場をお通しください
そう言われて、差し出されるのは、砂漠に住まう魔族の民族衣装だ
私は黙って頷くと、正装を脱ぎ捨てソレを羽織る
船室には窓は無いが、取り舵で大きく方向転換をした事だけは解った

まもなく到着したソコは、砂漠の真ん中に聳え立つ、巨大な岩山だった
彼等の言葉で【バリングラ】、巨大な一枚岩からなるソレは
砂漠に住まう【赤翼】と【幼生】達のキャラバンの中継地の一つだと言う

本来キャラバンは、移動生活が常であり、定住地を持たないのだが
アイは【赤翼】の中でも特に魔力レベルが高いため、特権的に居城を持つ事が許されているらしい
外から見れば…ソレはただの岩山だが、内側は丁寧にくり抜かれ、
悪魔側の要塞都市バステトと、同レベルの街並みが、その内部に広がっていた
そこは彼が操る、艦船【太陽の船】の基地でもあり、彼の研究ラボでもあった
アイは【赤翼】でありながら…いや【赤翼】であるからかもしれない
魔力レベルが低い者でも使用可能な【魔法具】と【赤翼】の研究者でもあるのだ

「主家の地下神殿に比べれば、お恥ずかしい限りではございますが…」

完全に眠っているジェイルを、メネプと出迎えてくれた【赤翼】達に預けると
アイは私を連れて市街地に降りてゆく、統治者としての彼の人気は絶大な様だ
道行く市井達は、みな彼に道を譲り、うやうやしく挨拶を交わす

街を行き交う者達は…全てがスフィンクスの【赤翼】と言うわけではなく
他の魔神達のソレに相当する者も、入り交じっている様だが、その【擬態】はやはり悪魔によく似ている
パッと見は…悪魔側の地方都市に迷い込んだ様な、そんな錯覚すら覚えるくらいだ

しかし…何かが違うのだ、同じ様に活気に溢れてはいるのだが、何かが…

悪魔と魔神の違いでは無い、それはもっと感覚的なもの?諦めに近い倦怠感の様なものか?
当たり前の欲望すら、抜け落ちてしまった様なソレの源はすぐに解った

おそらくは…赤い翼が生えたばかりであろう、若年層の【赤翼】達の淀んだ目だ

年嵩の【赤翼】達がせわしなく働く街並みで、何をするワケでもなく彷徨く彼等は
街のいたる所にうずくまり、重苦しい雰囲気を辺り撒き散らしている、それは一種異様な光景だった

「【赤翼】への分化が決定してしまうと、最初はみな…あの様に無気力になってしまうのですよ」

瑠璃の翼を持つ事が、親神に進化する事こそが、最上と教え込まれていた分、絶望は計り知れない、
しかも砂漠の外にすら出られないとなれば…自暴自棄になってもやむおえない事だろう
だからか?年嵩の【赤翼】達は、注意や意見をする事なく、彼等を生温く放置している
かつての自分達がそうであったように、自己の中で折り合がつくまで、待ってやる事しか解決策は無いからだ

「それでも…血族に【赤翼】が出始めた頃よりはマシですよ、
当時は、忌み子として処分されていたそうですから、しかしその後も【赤翼】は増え続け
今では【赤翼】の方が、圧倒的に多いくらいですからね、故に共存が模索された上で、
我等にもある程度の権利を認められ、役目があたえられる様にはなりましたが
その歴史はまだ浅く、価値観もそう簡単には変えられないのですよ」

【親神】と【赤翼】の確執と差別は相当根深く、【赤翼】サイドにも深い傷がある事は解る
【親神】はソレを「絶望」と呼んでいた、それは彼が【赤翼】を見下していたからではなく
彼にもあったはずの砂漠生活で、その絶望をいくらでも見てきたからなのだろう

市街地を一周すると、今度は彼の研究施設に案内すると言われた
私はかなり重苦しい気持で、彼の後に続いた 結局ジェイルは【赤翼】になるのだろうか?

※※※※※※※※※※※※※※

市街地に比べると、彼の研究ラボの中部は、まるで別世界のごとく活気に満ちあふれていた

古風な外観からは想像も付かない程の、近代的な施設は、まるで小さな文化局の様だった
そこの研究職の者達も、当然【赤翼】の者達で、若い者も多いのだが…
魔法具の開発に勤しむ彼等は、外でたむろする者達とは違い、生き生きとしていた
魔力の波動は…むしろココに居る者の方が、格段に低そうだと言うのに

しかも、その殆どがアイのキャラバンで、育った者だと言うでは無いか、それが最初は意外だった

他の族長は、自らのキャラバンから、出来るだけ多数の【親神】を出したいと願う為か
地下神殿の孵化場で、生まれた幼生を預かる際、見所の無さそうな者を
赤子の内から、既に魔力が他より低く、弱い個体を避ける傾向があるらしい

その結果、取り残された弱い個体を、残らずアイが引き受けているため、
彼のキャラバンは赤翼が多くなる…当然の結果ですよ
と彼は気にも止めていない様だ
実際、彼のすぐ側に居る助手も、獣よりの不完全な擬態のまま進化は止まっているようだ

しかしアイはそれで構わないと言う、魔法具の開発者は、魔力の強すぎる者より、弱い者の方が最適だ
使用者の立場に立てる者であるからこそ、良い物を作れる…と彼は豪語する

もしかしたら…ジェイルが彼のキャラバンに居たのも
単純に叔父と甥と言う血縁関係からではなく、そういった理由があったのかもしれない

「確かに…親神に進化出来ない事は、不幸で絶望的な事かもしれぬ
しかし私は【赤翼】の存在を、スフィンクス族の一つの可能性だとも考えているのですよ」

「可能性ですか?」

ええ…ただ親神に進化する事だけが、全てだと言うなら、
何故、我々に【擬態期間】が存在するのか?生まれた時は等しく【獣体】であるならば、
親神よりも遠い【擬態】の形態になる必要は、本来は無いと思われませんか?
擬態は一つの分岐点なのでしょう、旧来通りのスフィンクスか?別の形に進化したスフィンクスに変化する為の

地下神殿では…彼等の手前上、【赤翼】を【なりそこない】等と申しましたが
とんでも無い話だ、私は露ほども、その様には考えておりません

我々は自身を、滅び行く主家に変わるモノ、パターン変化を起こした突然変異
スフィンクスの血を、別の形で次世代に伝える可能性と考えております

ゆくゆくは主家からの分離も、視野に入れておりますので、こうして弱い魔力の補填と
砂漠以外では生きられぬ、虚弱体質の改善などを、模索・研究しているのですよ

何時か…主家の支配下である、砂漠を抜け出して、新天地に向かう為に

「貴方をココにお連れしたのは…甥の置かれた現状を知って頂く為だけではございません
我々【赤翼】の事も等しく知って頂きたかった…我々はいずれ砂漠を出ます、出なくてならない
しかしそれは悪魔と戦う為ではなく、我々が新たな道を、未来を切り開く為の活路…
もしその時が来たならば…次期大魔王陛下に、ご助力を賜りたいのですよ」

勿論、主家の様な自治権などは、要求はしない、悪魔側の法には従いましょう、
我々の移住の権利と、魔界人の市井としての権利を認めて頂きたい

そうでなければ…これから益々増えるであろう【赤翼】の子等があまりにも哀れだ、
この砂漠には、何処までも閉塞感しか無いのだから
それくらいなら、悪魔の市井として生きる道も用意してやりたいのですよ

そう熱弁するアイの目は、それまでの落ち着いた雰囲気とは一変して、酷くギラギラと興奮していた
彼がこの結論に達するまで、どれだけの苦難を乗り越えてきたのかは、若い私にも理解するのに充分だった

「私はまだ皇太子の身ですから、今はまだ独断で貴方の提案を受け入れる権限は無い
だが…今回の経験で、【赤翼】と呼ばれる者達の苦境は、理解したつもりではある
無理な転魔までは望まない、そもそも魔神も間違い無く、魔界の住人ではないか
我等の法を厳守すると言うのであれば、移住を拒む理由は、王都側には無いはず
出来うれば、私の在位中に、貴方の求める解決案が見つかる事を、今はただ願うばかりだ」

いずれ…ジェイルの背にも、赤い翼が生えてくるのであれば、
一族から軽んじられ、差別される彼等の苦境を、無関係だと放置する事は出来ない
むしろ一部の者の移住を認める事が、両種族の隔たりを解決してくれるなら
悪い話とは思えなかった、当時の私には特に

「そのお言葉を、感謝いたしますよ…」

アイはそう言って、私の手を取り、何度も強く握りしめた
条約提携に全面的に協力してくれた彼に、恩返しが出来るとすれば…
その時はまだ不確かな、将来的な希望でしか無いのが、情けなくもあったのだがな

そうやって…思いがけない【赤翼】の街の視察も終えて、私は王都の帰路につくワケだが、
ここまでで何か疑問はあるかい?エース?話をひとしきり区切ると、皇太子はじっとこちらを見上げた

※※※※※※※※※※※※※※

「そんな馬鹿騒ぎがあったとは、知らなかったが…
その元凶の大馬鹿が、それなりに頑張った事だけは、認めてやるよ
ただ…気に入らないのは、その親父だな…俺ならそう簡単には信頼しないがな」

「親父って、ジェイルの親神の事かい?」

「いや赤翼?とか言う奴等の方だな、勿論実親の方も気に入らないし、
奴等の大王とやらも、なかなかの狸親父と言った所だな…」

結局は、そのガキをダシにして、【赤翼】とやらの移住の権利を
お前に効率的に要求したかったダケだろう?最初から、渡りに船と?

パチパチと燃える火を眺めながら、そう答えるエースに、ダミアンはクスリと笑う

「勿論…何もかも信用したワケじゃないよ、彼等の全てを知っているワケじゃないからね
だが…あの調停で、彼が心強い協力者であった事は、間違いは無いのだよ」

「まぁこの件に関しては、今更何を議論追求しても、無駄かもしれないがな…
それに、資料に成るような画像や映像は無いのか?俺はまだ、そのガキの面すら解らないんだぞ…」

「ああそうだったね、非公式の関係だから、情報局にも資料はないだろうからね」

そう言うとダミアンは、形態していた小型端末を俺によこしてくる
パネルの上に何枚か出ている映像の殆どが、少し前のダミアンと問題の子供だろうか?
耳の生えた、金色の瞳の少年が、皇太子の過度なスキンシップに、困った様な表情を浮かべている

そして、その後ろに一枚だけ、赤い髪に黒衣の男が写っていた
話の流れからするとコイツが【赤翼】と名乗っていた男なのだろうか?

「ここに映り込んでる男が、さっきの話に出てきた【伯父】と言う奴か?」
「ああそうだね、ソレはアイ殿だな、現在はもう少しは、老け込まれてはいるがな」

説明を受けたエースは、もう一度画像の男を見る、嫌な目をしているな予想通りに

表面上は穏やかな表情を浮かべながらも、薄暗い光の宿るその男の目を、俺は知っている
【簒奪者の目】だ…目的の為ならば、何を犠牲にしても構わないと、完全に吹っ切れた奴
良心の呵責とやらも、踏みつけ、かなぐり捨てられる奴だけが出来る目だ…

コイツも相手にするのなら、今回の一件は、さらに厄介なモノになるはずだ

「それに…その子供が、元の群に戻ったからと言って、
メデタシメデタシには、成らなかっただろうに?どう考えても?」

「ああ…そうさ、【審判】の場で裁かれたのは私だけで、彼には罰はなかったが
ソレは…それからのジェイルの時間が、【試練】になると、皆が解っていた為だろうね…
結局私は、まだ幼いあの子を、耐えがたい孤独に放り込んでしまったのだろうね…」

仄暗い表情を浮かべたダミアンは、更に話を続ける…



続く


サブキャラ出張りすぎです、コレもこのサイトでは、何時もの事ですが
大人の思惑と都合主義は怖いですね〜
それに翻弄される事になる、ちびジェイル君の運命は如何に?
次回は…きっちりくっきりエロに戻りますので、腐女子の皆様〜ご期待を〜

ただしかなり切ないです・そしてちょっと哀しいかも?
苦手な方はご注意くださいませm(_ _)m

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