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【RX+師弟悪魔】
尻尾?の気持ち その3 (完)

本当は…翌日引き取りに行くつもりだったのだけれど
いい膝掛けが気に入ったから、もう暫く貸して欲しいと
閣下に言われてしまうと…強くは言えないな
あんな寂しいそうな顔をされてしまうと特に…

まぁ魔界では指折りのセキュリティーの副大魔王の私邸の中
それも閣下の寝室に居るなら特に問題も無いか?
外に連れまわしている訳でも無いみたいだし

モジャの存在を知っているのは、僕と閣下それにライデン
閣下の私邸の使用魔達の中でも、プライベートエリアに侍る事を許された側近中の側近
と恐らくエースのみ…当面は面倒事には発展しないだろう

閣下の長期遠征が始まった時にでも、改めてデーターを取ればよい

しかし…モニター越しに見るモジャの毛並みは、日に日に艶やかになってゆくのがわかる
閣下が同じ食事をとらせ一緒に風呂にまで入っているとか?

まるでペット扱いだね

本体が聴いたらどう思うんだろうねぇ

意地っ張りで頑なあの子は、閣下が解りやすくモーションをかけても
立場の違いと気恥ずかしさからか?脱兎のごとく逃げ出してしまう

そして…必ず僕にすがりついてくる
そんな関係がもうどれくらい続いている事か…

まぁ本命の恋愛対象を大切に思うあまり不器用なのはお互い様で
あの子が居るから、僕も救われている部分も大きいのも事実

だからこそ?あのモジャが僕より閣下に懐いたのが、少し面白くはない…

帰ってきたらどんな風に手懐づけるか…いや調教の間違い?
フッフッフッ…今から楽しみだねぇ

などと文化局の局長が、黒いオーラを拡散している事を知ってか知らずか?
副大魔王の寝室でスピスピと眠る毛玉は幸せそうだ

※※※※※※※※※※

だが…そんな時に限って事件と言うモノは起こるものだ

オーバーワーク気味の部屋の主が、綿の様に眠りにつく夜
設えられた鏡にパリンと亀裂が入る
卵の殻の様にパリパリと剥落する鏡の奥から、
鈎爪と竜族特有の黄色い目がのぞく…そして鋭い歯の並ぶ口
何の前触れもなく巨大な火柱が発生、閃光と共に火球がベットに叩きこまれる

グルルルル

低いうなり声と圧迫感に目を覚ませば
巨大な毛皮が自分の上に覆いかぶさっている
熊?いやこれは一緒に寝ていたはずの小さな生き物?

毛と肉が焦げる嫌な匂いと、くすぶる室内の調度品を見回せば、
自分を庇って火炎系の攻撃を受けたのは明白だ

鏡から半身を迫り出したファイヤードラゴンと、
戦闘モードに変形した情報局の目玉蝙蝠達と応戦中

屋敷中からコマンダーが集まってくる気配を感じる

「モジャ…吾輩はもう大丈夫だから、下がっておれ」

大事な預かりモノに怪我をさせてしまった…何よりも早く手当てをしてやらねば
ところがモジャは言う事をきかない
流血も火傷も構わず、さらに毛を逆立てて膨れあがると
主人を守るように、ドラゴンを睨みつける

ギロリと毛皮の下から現れるのは、燃える様に真っ赤で巨大な目
カラダの半分を占めると思われる裂けた口には、ワニの様な歯がならび
恐竜のソレの様に巨大化した前足には、それに見合う鈎爪が鈍く光っていた

グオオオオッ

ビリビリと空気が震える程の咆哮と、後先を考えない突進、
そんな所まで本体と似る必要はない

巨体からは考えないられない程の俊敏な動きで、ドラゴンの上半身にバクンと食らいつく
ドラゴンが吐き出そうとしていた火球と、手前で応戦中だった目玉蝙蝠ごと
あっと言う間の出来事だった…有無を言わさない馬力でドラゴンの上半身を食いちぎる

残った下半身から、噴水の様に吹き出すドラゴンの血が床に広がる
返り血を浴びながら骨ごと獲物を咀嚼する怪物は
醜悪でありながら強く美しい…その場に居合わせた者の全てを沈黙させる程に

しかし…結果的には火炎攻撃の第二波を、口内と内臓で受けてしまったダメージは大きい
ドウンと音をたてて巨体が倒れる…生まれたばかりの魔物はまだ戦い方を知らなかった

「モジャ…」

縮む様に元のサイズに戻ってしまった毛皮を抱きしめる
返り血と自身の流す血に濡れたソレは、一回り小さくなり
元通りの小豆のような目で大好きな主を見上げてはいるが
急速に光が曇ってゆく

「お館様…」
「文化局に出向く…ゼノンのホットラインに連絡を
この場の後始末はお前達に任す」

血まみれの夜着のまま、毛皮を抱きしめ相違転移する主
侍従は慌てモニター室に走り出した

※※※※※※※※※※

「俺の知らない間にそんな事があったのか…」

何時もの温室で出されたお茶を飲みながら
ゾッドはテーブルの上に置かれた、バスケットの中身をジッと見る

命を持たない毛皮に戻ってしまったモジャが寝かされている
アンデットの特性を考えれば…再び蘇る可能性を期待して

紛れもなく昔千切れてしまった自分の尻尾

すぐにゼノンが再生治療を施してくれた為、新たな尻尾を得た直後は
千切れた肉体の行方が気にならなかったわけではないが
自身も昏睡する程、治療に専念してくれた師匠に対する気配りから
何となく?言い出せなかった事もある…
まさか…大事に補完されていたとは思わなかった

そしてソレが半端に生き返って、デーモンのペットに収まっていた事
そして彼を護るために傷つき元に戻ってしまった事

複雑な心境ながら、誉めてやりたい心境で触れれば
ふんわりと艶やかな手触り、あの副大魔王がどれだけ大事にしていたかが解る
自分の尻尾に嫉妬するのも…感覚的にどうかとは思うが
しかもコイツを抱きしめて寝ていたと言うデーモンを思うと

次に逢う時はどんな顔をしたらいいのやら…

「自分の一部がアンデット化したのに、特に何か感じなかったの?」
「い〜や?仕事も忙しかったからな、全然」
「そうだよね…お前に期待した僕がバカだったよ」
「なんだそりゃ…で暗殺事件の首謀者は捕まったのか?」

「ああ…凄かったよ」

血まみれの夜着のまま文化局に飛び込んできた閣下は、酷く取り乱していた

作為的・偶発的に関係なく、本来は死者であるアンデットには
生物に対する蘇生魔法や物理的な治療が、完全に効くワケではない事
過度なダメージを食らった場合は、暫く眠ってしまうのはやむをえないと言う説明も
なかなか聞き入れては貰えず

モジャの活動が完全に止まってしまっても、付き添い撫で続けていた
名前を呼びポロポロと涙を流しながら…

誰にも見られる心配ないココでしか泣けないのなら
泣かせてあげたくて…僕はそっと席を外した

現場に残った証拠から、首謀者はあっさり情報局に捕らえられた
標的が閣下の場合、直ぐに処分しようとするエースを
閣下が止めるのが何時もの構図なのだが…

今回に限っては、閣下自身が有無を言わず引き裂いたそうだ、取調も済んでいないのに

「本気で怒らせるとアイツもコワイな」

モニター越しに笑うエースだが、目は笑っていない

愛されてるよ、ゾッドお前はさ…
分身のモジャが愛されていたのは、お前への想いの裏返しだから
逃げてばかりはいけないよ…気持ちは解らなくはないけれど

「で…またコイツ生き返るのかな」
「さぁどうだろうね?同じ条件なら有り得ない話ではないよ」

だから預かっているんだよと言われ
納得出来たような出来ないような…
しかし妙に手触りはいいよな…自分の尻尾だけど

「後で閣下に逢いに行ってあげなよ、忙しそうだからとか言わないで
まだ落ち込み気味だから、きっと喜ぶから」
「この話を聞いちまうと…なかなか…」

コレだけは?堂々巡りなヤリトリが始まりかけると
モゾリと毛皮が動いた事に、師弟は気がつかない

「だいたいその煮え切らない態度がよくないよ」
「その点は師匠も一緒じゃない…イテーッ!」

黒い毛皮が大口を開けて、ガブリとゾッドの腕に噛みつていた

「モジャ!?」
「オイっテメー、いきなり本体を攻撃するんじゃない!」

ブンブンと手をふるとポトリと落ちる毛皮
尚もシャーシャーと威嚇をくり返すモジャを僕は優しく抱き上げる

「全く尻尾の方がよっぽど素直だよ」
「躾がなってないんじゃないか畜生…」

少しだけ腫れ上がった噛み跡を舐めながらゾッドがボヤくが
怒りよりも安堵感が顔に出ている 本当にわかりやすいよねお前は

「さっ、ちょっとソコラを片付けてよ、飼い主に来てもらうから」

温室に差し込む日差しが暖かい


end

捧げ物ですが、書いていてとても楽しかったです☆

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あきゅろす。
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