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【RX+師弟悪魔】
ソレが二つある理由 9 契約 末尾にグロ表現注意

少女の肉体は、僕の角と翼を取り込んだまま眠っていた…

培養カプセルの中に、浮かんでいる彼女を見上げながら
アンデット化した者の【再生】の難しさを改めて感じていた

腹部の傷と欠損部の補修は、クローン部品の移植手術で完全に治してある
腕と両脚に負った封印の焼刻・火傷の痕も勿論綺麗に補正した、僕自身の手で

後は…仮初めの魂は入れずに、元の身体の魂が戻ってきてさえくれれば

悪魔のソレ程では無いものの…それなりの時間は活動出来る様に
僕が出来うる限りの【お膳立て】は整えたつもりなのだけど

気難しい彼女は、未だ戻って来ないのだ…何処を彷徨っているのやら

彼女の肉体から、僕の記憶と魂を優先的に分離した時
何処を探しても彼女の魂は、存在しなかったと言う

あの時…天界の【光槍】に貫かれた時、消滅してしまったのか?

いやソレなら、融合していた僕にも解る…あの時はまだ確かに居た
魔族より強い人間の魂が、消滅する程の衝撃であれば僕の方が先に消えてしまう
では?無理矢理に次元を飛び越えた時に、【間】にはじき飛ばされてしまったのか?

天界に回収され、輪廻に戻された形跡が無い事を考えれば
何れは戻って来るハズなのだが…消滅しない肉体がココにあるのなら
気長に研究室から、魔界から呼び続ける事しか、方法は無いのか?

サローメ…君は一体今何処に? 

何か危険が迫ったり・魂の存在が脅かされる事態に遭遇しているのなら嫌でも解る…
僕の魂の一部も持っていってしまっているから、でもそんな感じも一切無い…
せめて向こうから助けを呼んでくれれば、直ぐにでも回収にも行けるのに
僕の呼びかけにに応じる声も無い………女性の気紛れにも困ったモノだ

僕はただ、深い深い溜息をつくばかりだ
時を待つのは苦手では無い、だが特定の相手に待たされるのは…どうにも性に合わない

※※※※※※※※※※※※※

ようやく目が覚めたのは、人間の時間にして二週間程たった後だった
見慣れた病室の淡い照明をぼんやり見上げながら、自分の手を目の前に翳す

成体の悪魔の肉体の手首 だが…コレはオリジナルでは無い…
クローン再生手術知識が、あるいは実際に受けた事のあるモノにしか解らない
微妙な反応速度のズレ、神経及び霊体と肉体の接続が、まだ完全では無い証

見てくれとDNA的には、完全に魔界を出発した時点の僕の肉体なのだが
コレは万が一の時に備えて、研究室に残していった細胞から作られたクローン体

【二度目の身体】が80%で【オリジナルの部品】が20%と言った所か?
可能な限り使える限り、オリジナルの肉体も移植されては居るみたいだが

一度は【操屍】と融合してしまったのだから、コレ仕方が無い【結果】だ

肉体はともかく、閉じこめられた【心】と【記憶】の全てをサルベージして
新しい身体に移植出来ただけでも、奇跡に近いのだ…

もとより今回の計画で、腕の一本や二本はくれてやるつもりだったが
まさかオリジナルの肉体の殆どを、持っていかれるとは思っていなかった
術者・魔導師としては、術式の媒介としての【肉体の価値】はガタ落ちだが、
戦闘にも日常生活にも支障は無いのだから、贅沢は言えない

ダイタリアン老師が、文化局にいらっしゃらなければ
僕はサローメの肉体と、心中する事になっていただろうから

僕の経過観察をしていたのか?同期の研修生が、僕の覚醒とほぼ同時に部屋に入ってくる
上半身は何とか自力で起こせたが、軽い目眩によろける僕を彼は慌てて支えてくれる

「おはようゼノン、気分は反応速度に問題は無いかい?」
「今のところ許容範囲だ、老師はどちらに?お目通り出来るかな?」

瞳孔の反応検査を受けながら、僕は自分の腕に巻き付いている薬管と電極を外し
心電図と血圧、脳波を検査するパッドを外してしまう、ぼやぼやはしていられない
休養はもう充分だ、一刻も早く老師にお目にかからなくては

「下半身の筋肉が減退しているから、まだ立ち上がるのは無理だよ」

病室の片隅に既に用意された車椅子に苦笑いしつつも、僕は彼の意見に従う
せっかく再生していただいた肉体だ、もう粗末には出来ない

「でも…早めに覚醒してくれて良かったよ、ちょっと厄介な事がね………」

同期の表情がほんの少し曇るのを見て、僕は即座に【ソレ】を理解する
ああ…【想定内の問題】は、やはり起こってしまったか…と

※※※※※※※※※※※※※※

電動車椅子のまま、局長のプライベートエリアに急ぐ
老師の研究室のドアをノックするのだが、返事は無い
奥の実験室に篭もられているのだろうか?

出入り自由の権限を与えられている僕は、個人PASSを通せば
何の障害も無く中に入る事が出来るのだが
何故だろう…今日は今は、勝手に扉を開ける事が憚られた
どうしたモノかと、巨大な扉を見上げる僕に、あの声が振ってくる

「何をぼんやりしている?寒い廊下は辛いだろうに?
ダイタリアンは奥だよ、勝手に入って来るがいいさ、ゼノン」

ヨカナーン?老師の研究室に、何故貴方が居るんだ?

そう言えば?客人として迎えるとか言われていたような…
老師は…特別に気に入った者・気持ち許した者だけしか、
御自身の専用研究室に招き入れたりしない…

不意に沸き上がるのは子供じみた嫉妬心だ、我ながら…

慌てて扉を開くと、何時も通り書籍と書類が山積みの執務机の上に
当然のように鎮座した頸が紅茶を啜っている 長い髪を触手の様に器用に使って

「随分ゆっくり眠っていたな、その間に大好きな老師殿は過剰労働だな」

ある程度の「詳細」は聞いてはいるが、ある意味当事者とも言える
この男からソレを聴くと腹立たしく感じる

「ダイタリアン様は?」
「奥で処置の真っ最中だな、君が奪った私の目に、手を付けた愚か者どものな…」

君と同じで恐れを知らない者が多いな、流石は魔界の文化局といったところか?

局長直々に「制御不能につき手を付けてはならぬ」と念を押されたのにもかかわらず

ゼノン、君の眠りが醒めない内に…あわよくば【眼球】を自らのモノにしようとした者
好奇心からちょっとの間だけ、拝借しようとした者まで
まぁ来るわ来るわ、全部で30名以上か?くまなく【アレ】を味わった様だな

勿論私が制御してやっていた【アレ】とは違う、無制御の【強制流入】をな…

可哀想に…脳が完全に焼き切れた者も出たようだ
ダイタリアンは奥で奮闘してるよ、何とか生命維持は守ってやりたいと言って

他人事の様につらつらとそう宣うヨカナーンに、僕はつい苛立ちを向けてしまう

「堕天した悪魔としてなら、ダイタリアン様の文化局の客人としてなら、
貴方にも義務はあったはず…何故彼等を止めなかったのですかっっ」
「警告はしたさ…言葉では一応ね、でも【破滅】を選んだのは彼等の意志だな」

おそらくその通りなのだろう、その光景が、やりとりが目に浮かぶ

僕がもし今回の負傷者と同じ立場なら、多分全く同じ行動を取ったに違いない………
突然現れた頸だけの客人の忠告だけでなく、老師のお言葉も無視してでも

「だが…君の事だこういう事態になる事は、ある程度は想定出来ただろうに
事前に対策も練らずに、誰にでも触れられる状態でアレを放置した君も悪い」

呑気に寝転けてる場合ではなかったな、ねぇゼノン?

それに気に入らなかったのだよ、他者が苦労の末に手にしたソレを
何の苦労もなく、うまうまと自らの手にしようとする輩がね…
根本的には誘惑に弱い悪魔達には、過酷すぎる【試練】だったかもしれないねぇ

二の句が告げずに絶句する僕に、頸だけの男はニヤニヤと笑う

「賢者殿、彼は病み上がりだ、あまりやり込めないで頂きたい、
野心よりも知的好奇心故の諸行とは言え、局員達の躾けがなっていないのは、
局長たる私の責任でもあるのだからね…」

ゆっくりと実験室から出てこられる老師は、手術着のままだった
疲労困憊の色は隠せないご様子だが、左腕が完全に再生されているのを見れば
自分がいかに長く眠っていたのかは、容易に推測は出来た

「ダイタリアン様………」
「積もる話は後にしたまえ、使い慣れない助手では、作業がはかどらないのだ
まだ本調子では無いお前には悪いが、今すぐ処置の手助けは出来るかね?」
「はい、お役に立てる事があれば喜んで…」

差し出される真新しい手術着を受け取ると、僕は慌てて身支度をする
先に実験室に消える老師を、慌てて車椅子のまま追いかける僕を見て、
ヨカナーンは苦笑いをする

「やれやれ…どこまでも甘いな、あの男も」

※※※※※※※※※※※※※※

文化局関係者であれば、身分魔力の強さに関係なく
事故に備えた、クローン再生用のサンプル細胞の提出は【必須義務】だ

故に脳のクローンを作る事は可能ではあるが…
その命はともかく、積み上げててきた記憶や経験までは、完全には守ってやれないだろう
最悪…なんらかのカタチで障害が残る、魂の方に…深い傷として

急ピッチで進められる、新しい脳随のクローニング作業の全てを、任されるのだが…

彼等自身の自業自得の結果とは言え、ちくちくと胸が痛んだ
彼等が『出来心』を起こしてしまう前に、あの目を何とかすべきだった
犠牲者の全てが、元に近い状態に戻ってくれれば…そう思えばこそ
身体の不調など構っていられなかった 不眠不休の作業など何時もの事だ

結局、全行程が或程度落ち着いたのは、それから更に3日程経った後だった

「状況は少しは好転したのかね?」

手術着のままぐったりとソファに身を投げ出す僕に、ヨカナーンが話しかける

「ああ…取りあえず、死亡者は出さずに済みそうそうですよ…」

気怠い声でそう答える僕に、ヨカナーンが更に続ける

「なら…先にやるべき事が、あったんじゃ無いかね?」

ガバリと起き上がる僕の視界には、まだ計画表を眺めている老師の姿が

「どうした?休める時に休んでおきたまえ、そうじゃなくても君は無理を………」
「順番が狂っておりました…申し訳ございません、ダイタリアン様」

その場で平伏する勢いで、何度も頭下げる僕を
幾分困った顔で眺める老師のお姿が、視界を掠めるてゆく

そうだ…そもそも僕がヘマをしたばかりに、老師は腕を失い
同僚・同期達は、要らない事故に巻き込まれてしまったのだ
全部僕の無謀な計画と、力不足が招いた事だ…と思えばいたたまれない
どのような処分を下されても文句は言えない

「そうじゃ無いだろう?君は?全く…利口すぎても本質が見えなければ意味はない」

呆れた様に、頸だけの男がチャチャを入れる
キッと睨み付ける僕の視線を、完全に受け流すと男は更に続ける

「ゼノン…君は何に対して謝罪している?君の大事な老師に向かって?」
「何って………」

勿論自分の能力不足を…と続けようとする僕に、再び鋭い喝が入る

「一番謝罪すべきは、自らを粗末にした事実じゃないのかね?
君が無茶をしなければ、ダイタリアンが腕を失う事もなかった
君が暫く動けないレベルまで負傷しなければ、無駄な事故は起こらなかった
目的の為に自己の生命維持を省みないのは、美徳なのか?人間の狂信者でもあるまいし
君の生還を願う者が居るのにも関わらず、自らの生存本能に従わなかった事
それが君の最大の過ちであり、罪じゃないのかね?言われなければ解らないのか?」

ソレは貴方の悪趣味なお遊びに付き合ったからだっ 咄嗟にそう反論したい気持ちよりも

一瞬…横っ面を殴られた感覚を覚えた

そうだ全ては目的の為、無謀と解っていても強引に事を進めたからだ
【撤退する勇気】を持てなかったが故に、招いてしまった【結果】だ

ぺたんとその場に崩れ落ちる
思考が止まってしまった…ただポタポタと涙が溢れた

「相変わらず手厳しいですね、ヨカナーン…」
「君が甘やかしすぎて居るのも悪いぞ、ダイタリアンよ
まぁ甘やかしているのは、この子だけではないのかもしれないがね」

姿カタチだけは、ソレらしく老け込んだが
後進を育てる指導者の素質としては、まだまだなんじゃないかね?
ちくちくと投げかけられる、嫌味を苦笑して受ける老師は
うなだれ座りこんでいる僕に近づくと、両頬を優しく持ち上げて囁く

「遅くなってしまったが、おかえりゼノン…無事に帰ってきてくれて何よりだ」

※※※※※※※※※※※※※※

「しかし…あまり悠長な事も言っていられないな」

局内での被害がここまで甚大なら、もう無断で【眼球】に触れる局員は居ないとは思うが

文化局に堕天前の『賢者の目』が有ると言う情報は、外部にも徐々に漏れ始めている
外からの【不逞の輩】がまた…この目の不幸な犠牲者となってしまう前に
「誰にも手が出せない状態」にしてしまわねば為らない…

「お嬢さんの操屍との分離手術と平衡に、眼球は舌から摘出した
お前が事前に用意した法具には、私が自ら移植したのだが…
制御しきれるかどうかは…ゼノン、お前次第だな………」

局長専用の実験室の更に奥、幾重にも施された封印の向こう側の保管庫
金庫のソレを思わせる重厚な扉を開けば、中には1m大の小型の培養カプセルが
その中央で真っ青な眼球が、ぱちぱちと瞬きをしていた 微弱放電を発しながら
自己意識はしっかりと有る様だ、じっと此方を見上げていた

「元の持ち主である私は、多少はソイツに影響を与える事も出来るが、
最早完全に別生物だな…私の意志とは関係がない独立した自己意識があるようだ
私は堕天してしまったからね…そしておそらくは、神のソレともまだ微弱に繋がっている」

僕に抱えられたヨカナーンが、ポツリとそう呟く
それが事実なら、魔界の全てを見渡されて居るのでは無いか?
青ざめる僕に、ヨカナーンはカラカラと笑った

「安心したまえ…そこまでの眼力はもう無いだろう、こちらの情報は渡ってはいない
完全では無くとも神との連結を断つ為だ 【断罪の剣】で自らの霊体を切ったのはね
それに彼は…無意識に私の目から入る情報を避ける傾向がある、絶望しか無いと言ってな
誘惑してきた君も言ったではないか?体裁のいい厄介ばらいだと?
だが…君達の望み通り、術式の解明には充分すぎるだろうね…
私から言わせれば、ただ見えすぎて不便なだけだがね」

この目を装着すれば…欲してやまなかったモノが見渡せる…
だが同時に脳が焼き切れるリスクは、常につきまとうのだ
治療をおえたばかりの局員達と同じ様に…既に一度経験しているアレを思い出し
小刻みに震える僕を見上げ、頸はにったりと笑う

「はっきり言えばゼノン、今現在の君の魔力レベルではコイツは扱えない
だから…【等価交換の取引】をしようでは無いか、この賢者ヨカナーン様と
私は外からコイツの制御に協力してやる、その代償に私の要求を呑んでもらう
それしか方法は無いのは、無茶が大好きな君にも解るだろう?」

僕だけ…僕の眼球をかけて【限定取引】をすると言うのか?
だが【契約者】が僕だけでは…老師に義眼を使用して頂く事が出来ない、
目的の半分を失う事になる、露骨に戸惑う僕に老師は優しく笑った

「お前の目であり、視界からもたらされる情報なら、
私が直接見るソレと、さほど代わりはしないだろう
老い先の短い私に、遠慮する事は無いのだよゼノン
コレはお前自身が、命がけで奪い取った【権利】なのだから」

それにこの眼球がもたらす情報量は、老体の脳髄には答えると笑われたが
その心中は、決して穏やかなモノであるはずが無い
ヨカナーンの昔話に出てきた鬼族が、目の前の老師であるならば

泣きそうな顔で、言葉に詰まってしまう僕を、抱きしめると
老師の手がやさしく僕の背を、頭を撫でてくる
相変わらすの子供扱いを、気恥ずかしく感じながらも

ああ…やはりこの方には叶わない、きっとこの先ずっと

「さあ…どうする?最も私が協力しても、尚制御出来る保証は無いが?」
「解りました…契約をさせていただきます、ヨカナーン貴方の条件は?」

※※※※※※※※※※※※※※

「小鬼と大賢者の眼球の交換だ、その対価の差はきっちり払ってもらう…」

一つ目は、私の悪魔としての権利と生活を保障する事、
局長専用の図書室をエリアとして明け渡す事、今ある実験室・研究室も込みでだ
研究資材・資料・費用の提供は一切惜しまない事 コレは出世払いでも構わない
二つ目は、サローメとの不完全な召還契約を破棄、その権利を譲渡する事
三つ目は、アンデット化した彼女の肉体も、取り込まれた部品ごと譲渡する事
四つ目は、ヨナを、不本意ながら連れてきてしまった、智天使の身柄も譲渡する事

「それと…当面の肉体の代わりとして、アレを貰いたいのだが」

そう言って顎をしゃくったその先には、作りかけの猫型のサイボーグが…
出発前の気休めに、図書室のガーディアンの末端として作っていたモノの一つ
譲渡するのは構わないが…もっとちゃんとした肉体も用意出来るのに?

「一つ目は現局長の私が保証しましょう、御心配には及びませんよ
次期後継者がこの子で有る場合は勿論、例え他の局員になったとしても、
私の名において、貴方との契約は破棄される事はありません
だが…お嬢さんとの【契約】はどうなっているのかね?ゼノン?」

一度特定の悪魔と売買された魂は、通常他の悪魔とは取引が出来ない

「契約した時は…既に彼女のシルバーコードは、切れておりました
悪魔召還による魂の売買は成立しておりません、物理的な対価の交換だけです
賢者殿が新たに契約を結ぶには、僕ではなく彼女の意志が大前提かと」

問題の彼女の魂は、僕の分離サルベージ作業中、肉体から検出されなかった
転生が許されない魂が堕ちる人間用の地獄には、その存在は確認出来ず
天界に回収された上で、輪廻に戻されてない事も確認済みだ

ならば…いずれは元の肉体を求めて、ココに戻ってはくるハズなのだが…

「なら…何の問題も無いな、あの娘は私にぞっこんなワケだから
では先に、ボロボロになった彼女の肉体の補正だけはしてもらおうか?
母親に斬られた部分以外の負傷は、ゼノン、君の責任なのだからな」

あの痛々しい焼刻の痕は、元より完全に補修するつもりだったが
ソレを付けたのは貴方ではないか…喉まで出かかった不満を飲み込み、
培養ポッドの中の彼女を見上げる、飲み込んだ僕のパーツが媒介に修正に使えるなら
彼女にくれてやるのは、何故か惜しくはなかった 相手はただの人間だと言うのに

前よりも綺麗なくらいに、完璧に治してあげるから、だから早く返ってきて

「一番大問題なのは、四つ目ですか………」

戦闘などの正規ルートで、軍部に捕らえられた捕虜ならともかく、
非正規に文化局の採集斑に、捕獲・採集されてしまったあの天使は
まだ天使の姿を保っているのか?別の何某になってはいまいか?
眼球の犠牲者の治療に忙しく、あの天使の事などすっかり忘れていたが
上役から【保存指示の無い実験個体】を放置しておく程、ウチの局員達は甘くはない
最悪…もうバラバラにされて、標本室に収まってしまっている可能性もある

「各所轄からの回収に、最大限努力はいたしますが…完璧にご期待に添えるか…」
「なに…肉体の半分と霊体の半分も残っていれば、後は私が何とかする
一応は元創造神の一部だからな、では…私の要求には全て応えると言う事だな?」

魂を媒介とする、悪魔と人間の間で行われる召還契約ではない
魔族同士のソレは…形式上は主従関係を築くのと同異議なのだが
隷属する側の尊大で理不尽さも含んだ物言いに、多少の不満は残るモノの

僕レベルの悪魔の眼球と、大賢者の眼球の交換条件としては
破格のモノである事は間違いない、しかも事後サポート付きの大盤振る舞いだ

ただし…そのサポート役を、完全に信用するには不安も不審を残るのだが

土台考えなくても解る、あの生粋の悪魔よりも、嫌な目をみれば…
調整作業だの、教育的指導だのと言い掛かりをつけて
僕をいたぶり嬲り倒す気が満々なのは、一名でアレを使いこなせる様になるまで

上等じゃないか、受けて立とうでは無いか…僕の制御魔法と魔力が
あの【義眼】を完全に僕の目として、使いこなせるその時まで
お得意の【試練】とやらに耐えきってやる、そして今度こそ貴方の鼻柱をへし折る
今回人間界で出来なかった分・叶わなかった分も上乗せして

「契約成立だな…ならば急いで移植手術と、術式契約を済ませてしまいたまえ」

コレがこの場所に、『未だに誰の手にも渡らずに有る』事実が問題なのだ
有るべき場所に納めてしまわねば、また要らない犠牲者が出てしまう

「解りました…これより僕の左目の摘出と、術式を開始します」

用意されるのは、物理的移植手術用の手術道具
鈍く光るソレを見ながら、局所麻酔を顔面左側と脊髄の一部にかける
完全には眠れない…契約も兼ねて僕自身が移植する必要があるから

「暫くのお別れだね…」

僕は小さく自分の左目に、【鬼の目】に語りかける
等価交換する為、所有権はヨカナーンに移るとは言っても、
ソレをヨカナーンが装着するワケでも、取り込んでしまうワケでも無い

堕天して魔族化したヨカナーンの右目は、僕の目より遙かに深い闇を見る
今更、鬼の目を取り込むメリットが無いからだ
故に僕の目は、ただひたすらに、コールド・スリープする事になるこの先は
場合によっては、僕が命を終えるその時まで万が一の予備として

眼孔に入りこんでくる器具の冷たさと、神経組織が切断される痛みを感じながらも
僕は出来うる限りそっとソレを抉り出す、反射鏡でその様子を余さず見ながら…

溢れ出す血液はまるで【赤い涙】の様に流れ落ち、ポタポタと赤い華を咲かせる

【光】を映さないその瞳を、忌々しく感じていたと言うのに
何故かその別れが痛い…戦闘で失うソレとは違う、寂しくてたまらないのだ

スリープ用の培養ポッドに収まったソレを見下ろし、
僕はもう一度だけ、「さよなら」を言う 「今までありがとう」と感謝の意味も込めて

こうして僕は、自らの肉体の一部と決別する事になった




続く

UPが遅れ義気ですみませ〜ん、学者だらけのむさ苦しさで今回は終わり
エロ好きのお姉様方には、本当にもうしわけ無いです
中二病のお年頃の孫を、ひたすら甘やかす優しい爺さんと
やんちゃな上にイヂワル爺さんも、負けじとちょっかいを出す?そんな感じ

末尾のグロは思いっきり趣味です!!!BJかい?和尚?
でもBJが自分で、自分の手術もしまくるシーンって、何か萌えません?
それは…多分私が変質者だからなんでしょうね〜今更しょうがないですけどね

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