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【RX+師弟悪魔】
ソレが二つある理由 7 前夜 グロ表現多少有り

静かになったその部屋で、僕はサローメの骸を確かめる

生物学的には、まだほんの少しだが【生活反応】はある
しかし彼女の寿命は…運命の時間は、予め今日までと予め決まっていたのだろう
肉体と魂を繋ぐ線、人間には【シルバーコード】【霊子帯】等とも呼ばれるソレが
完全に千切れている…千切れてしまっている以上
霊体は本人のモノであって無い様なモノ、完全な悪魔召還や取引の対象外になる

人間だけでなく全ての生命は、生落ちる前に時間が定められている
その命数を消化した場合のみに限定はされるが…

凄惨な加虐にあった場合や、逃れられない死を自覚した時
早く楽に為りたい…これ以上苦痛を感じたくないと願った時
本来は肉体が完全に活動を停止してから、離脱するハズの魂が
早めに肉体との連結を断ってしまう事がある

彼女の【今の状態】はまさしくソレだ 僕はそっと肉体の目蓋を閉じてあげる

骸の損傷は、狂った宴は…彼女の全てが無くなってしまうまで続くもの
そう思っていたのだが…あっけない程早くソレは終わりを告げた

流石にココは後宮の中である…人目に触れず完全犯罪など出来はしない
姫君も后の姿も何処にも見えない事を、不審に思った侍女達は
口々にその名を呼び、探す気配が近づいて来るのが解る

狂った女もソレに気がついたのだろうか?

ぼんやりと宙を見つめていた目に、徐々にだが光りが戻りはじめる
鏡の無いこの部屋では、浅ましい自分の姿は見られないまでも
血塗れの自身の両腕と、血に染まった夜着は最早もとの色は解らず

そして…腹を抉られ倒れる娘の姿に、ようやく気がつくのだ

床に広がる鮮血と肉片…血液を失い白磁のように青白いその肌
惨劇の中央には、后の称号でもある短刀が、赤に塗れて鈍く光る

「あ…あっああ……ああああっ」

言葉に為らない絶叫を吐き散らすと、
ヘロディアは何もかもを放りだして、部屋から走り出る
彼女にとってコレは現実なのか?薄暗い渇望なのか?
それともロクに眠れない寝所で見ている、何時もの悪夢なのか?

凶器すらも処分せずに、逃げ出したその背中を
少女の魂は哀れみに満ちた目で、じっと見ていた

「悪魔さん…二つ目のお願いよ、私の身体を隠して
このままじゃ、お母様が私を殺した事がバレてしまうわ」
「…その程度なら対価の範囲で応じられそうだね、扉を離れて
人間限定で、扉に目くらましを掛けるから…」

ゼノンは、左手の上に小さな魔法円を出現させると、
指先でソレをパチンと弾いて、入口の扉に貼り付ける
小さく光るソレが、木目に吸収されてしまうと
途端にその場の空間が歪み、扉は消え両サイドの石壁が繋がる
あくまでも【目くらまし】だ、人間の目には扉は見えなくなった

暫くココに部屋があった事に、気がつかないで居てくれればソレでいい

「驚いた…本当に悪魔なのね」
「嘘なんてついても仕方無いでしょう?問題はコレからどうするかだね」

魂が抜けてしまっている肉体の方は、【物質】【モノ】であるから
【理】の対象外だ…人目に触れずに、骸を処分する事も出来るのだが
それだけで事態が収束するとは思えない…行方不明になるのは一国の王女だ

事件を隠蔽するには…実体を伴う身代わりの幻か
この骸に仮初めの命と指示を吹き込んで、人目に付く場所でもう一度死なせるか
彼女に関わった全ての人間の、記憶操作をする方法しか思いつかないが

【代償】との釣り合いが取れない上に、今の僕の魔力では力不足だ

彼女のシルバーコードが、完全に切れてしまう前なら
正式に【悪魔召還】に応じた上で、彼女の魂を喰らい
一気に魔力回復も図れたワケだが…コレばかりはタイミングの問題だ
今更どうする事も出来ない分、残った手段の有効利用を考えなければ

「貴方…もしかして何日か前からココに居なかった」

骸を見下ろし思案する僕に、彼女は不意に訪ねた

「君は…何故そう思うの?」
「やっぱり…貴方、ナラボートと入れ替わっていたんじゃなくて?
今、私に呼ばれて来たんじゃない…何か他に目的があるんでしょう?」

驚いた…たかが20年も生きていない人間の小娘に、
僕の変化が、見破られていたと言うのか?

「まいったな…姿を変える術式には自信があったんだけどね」
「確かに外見と声だけなら完璧だったわよ、でも中身がね…
私の知っている幼なじみとは違うのよ、女の勘を舐めないで欲しいわ
それで?悪魔さんは、ココに何をしに来たの?
それに…本物のナラボートは今何処に居るの?殺してはいないわよね?」

君の【失踪】をどう演出するか悩んでいるこの時に、質問攻めかい?
心情として幼なじみの安否は気になるかい?まぁ隠しておく事でも無いか…

「ああ…姿を借りる代償に、彼の望む【楽しい夢】を見られる魔法をかけた
街の宿屋に【眠り病】の病人として、寝かしつけてあるから心配はいらない
契約無しでは、勝手に人間の命をどうこう出来ないんだよ、悪魔は」
「ふ〜ん、悪魔も結構人間くさいのね、何でも好きに出来るワケじゃないのね
それで…貴方自身はココに何をしに来たのかしら?」

魂だけに成っているクセに、たった今惨たらしく惨殺されたクセに
キラキラとした目で追求されると、コチラの調子も狂ってしまう…
事態は急を要すると言うのに…何なのだ?この娘は?

「そうだね…人間の君には、関わりあいの無い事だけど…本当の目的は
地下牢に繋がれているヨカナーンを誘惑して、地獄に攫いに来たんだ
彼もまた人間ではないよ…強力な力を持った天使様でね
あえなく返り討ちにあって、子供の姿に戻ってしまった…そういう事だよ」

自嘲気味に笑うしかない…成り行きとはいえ
僕がヨカナーンに近づくチャンスをくれたのはこの娘で
中途半端ではあっても、手当をしてくれたのもこの娘だ
召還に応じたからには、その【対価】分の要求には応える義務がある

「あら…それなら全くの無関係なんかじゃないわ、今でも私は彼が好きだもの」

呆れる僕を余所に、彼女は涼やかな笑みをこぼす

「三つ目のお願いよ、最後にヨカナーンとキスがしてみたい
人間じゃないなら私に狂わないのも仕方が無いわ、彼の心は手に入らなくてもいい
でも一度だけ口吻がしてみたいの…私が私でなくなってしまう前に…」

「やれやれ…君は結構強欲な女だねぇ」 

君の都合や願いだけでは、君が望む状態で出来ないだろうに…ソレは…

限られた【対価】でこの無茶ぶり…まだ誰かを恨むとか
君の殺意で憎い相手を地獄送りにするだとか、そういうネガティブな願いの方が
悪魔の僕には遙かに叶えやすいのに…最後の望みがソレかい?いやはや脱帽だよ君には

「でも…手段が無いワケでもないか、サローメ君から貰った対価では足りない
だからこの骸を僕の計画に利用させてもらう、それでも何が起こるかは未知数…
魂魄の君にも有る程度協力して貰わないとね…最悪僕等は共倒れになるかもしれない
それでも…君は僕に協力する遺志はあるかい?ただ一度の接吻の代償として…」

未だ神の子である君は、このまま普通の魂と同じ様に昇華して、
別の人生を…あるいは別の生き物に転生する路もあるのに、ソレを捨てられるかい?

「生まれ変わったところで、次の人生が穏やかだなんて限らないわ」

王女と言う、他者より恵まれた地位に生まれながらも
最後は惨たらしいものだったじゃない?だからもういいのよ
次の世界になんか期待しない、だったらやり残した願望を叶えたい

人生経験の少ない少女らしい未熟な考え方だが…
何故だろう悟りきった愚者の呟きにも聞こえる

「解った…制限時間は人間の時間で1日、緊急事態が起こった場合は
目的にも僕にも構わずに、君だけでも離脱する…いいね?」

共に行こう…僕等は共通の目的を持った【共犯者】だ

悪魔の手が、そっと魂魄だけになった少女の手を取る

※※※※※※※※※※※※※※

「この肉体ともようやくオサラバか…」

暗示にかけた衛兵に持ってこさせたのか?
壷に入った葡萄酒を煽りながら、ヨカナーンは呟く
正式な天界への帰還命令が、あったワケでは無いが
人間・予言者ヨカナーンの命数は、明日の宴で尽きるらしい

愚かなこの国の王は、兄嫁と再婚するだけでは飽きたらず
今は養女である姪との婚姻も強く望んでいる

その為には今の信仰は最大の障壁になる故に
尊き血を守る行為として、近親婚を推奨していた
古い時代の神に帰依する事を、正式に発表したらしい
勿論王家だけでなく、国全体が新しいソレに従う事になる

反発した家臣・聖職者が、その場で無礼打ちになったと言う話であるから
色に狂ったヘロデ王の血迷いぶりも、なかなかのモノである
国は麻の様に乱れるだろう…信仰とは簡単に切り替えられるモノではない

そして…新たの神への生贄には、【聖職者ヨカナーン】は最適と言う事だ
おそらく婚礼の席で、生贄の雌牛の様に頸を跳ねられる

ソレはソレでドラマチックでは無いか?
救世主の新興宗教の宣伝・先駆けとしては、まぁまぁな最期である

さて…今回の【神殺し】の【生贄】は誰に決まったのか?
ソチラの方にむしろ興味がある

いくら人間の身体から解放するだけ…と言っても 自分は神の一部だ
神の子である人間に、【神殺しの大罪】を押しつける事は通常ない

【生贄】に選ばれるのは天使、ソレも天界で扱いに困ったモノに押しつけられる

勿論押しつけられる相手は、その【大罪】に気がつかないのが常だ
そのまま【汚れ役】を押しつけられる存在として、重宝される事もあるが
大概は【神殺し】に適当な理由をさらに付けられ、処分されてしまう事が多い
その図式に、どれくらいのモノが気がついているのだろうか?

「お初にお目にかかります、ヨカナーン様…お迎えにあがりました」

地下牢と言う空間には相応しくない、純白の衣装を身に纏った少年が
格子の向こう側で恭しく礼を取る ヨカナーンはソレを一瞥するとニヤリと笑う

「智天使・ヨナ…選ばれたのはお前か…」

更に続けようとする真実を、少年は笑って遮る

「御心配には及びません…僕は【神殺し】の罪を負うつもりはございません」

【神殺し】の汚名を被って、こんな所で終わるなんてゴメンです
ソレにはもっと相応しいモノが居ります故に………

少年の指がパチンと鳴ると、暗がりから夢遊病者の様に
一人の男が進み出る、その顔には見覚えがある
そうだ…ダイタリアンの弟子が化けていた、あの顔だ
波動が間違いなく人間なのを見れば…オリジナルの方か

「悪魔とツマラナイ取引をした愚か者…大罪は彼に被ってもらいますよ
しかしお役目はお役目、流石に悪魔に貴方を殺させるワケには参りませんので…」
「サローメ…サローメ…」

明日の宴を惨劇を楽しみにしておりますよ…若い天使は薄く笑う
天使の会話は耳に届いていないのか?ぶつぶつと主の名前を呼び続ける男
その首に手を回し抱きつくと、ヨナは優しげな言葉で囁く

「さあおいで、ナラボート…お前の姫様はもうすぐ手に入る…」

なるほど…今回の生贄は、なかなかどうして一筋縄ではいかないモノの様だ

「ヨナ…お前もなかなか面白い子の様だね、
どのような出し物になるか期待しているよ」

仮初めの肉体とは言え、殺害者を前にカラカラと笑うこの男も相当なモノだが
勅令に叛き、企みをワザワザ事前に伝えるこの天使も、生贄に選ばれる事はある
天使らしからぬ薄暗い知恵者か?愚者か?あるいは唯の自己顕示欲の固まりか?

全ては明日の婚礼の、宴の場で決まる事になるだろう
この茶番劇の幕引きを知っているのは、神か?悪魔か?それとも…

一人取り残された地下牢で、ヨカナーンはただニヤニヤと笑っている

※※※※※※※※※※※※※※

急ごしらえの婚礼には、膨大な費用が掛けられたのだろうか?
王族の婚礼に諸外国からの来賓は多いのが常だが
国を跨がずに身内だけの式に、これだけの客人が集まるのも珍しい

公式行事的には、ヘロデ王の生誕祭も元々兼ねてはいたが
数々の求婚者を拒絶した、あのサローメ姫が
よりによって今は義父である叔父に、実母と共に侍り嫁ぐとは

その為に改宗までしたと言う愚かな王を、見物したいと言う悪趣味ではなく
ついでに国内の情勢を確認したい者が殆どであろう
ギリシャやローマの様に多神教の国家であれば、王族の改宗など大した事では無いが
一神教の国家となれば…それは容易ならざり事、必ず燻りと綻びが発生する
効率よく攻め入り、つけいる隙をうかがいに来た…そんな所なのだが

当の本人は、その危険性に全く気がついてはいない
家臣の進言も民衆の不満も届きはしない…

そしてその傍らに侍る、本日の主役・ヘロディアの顔色は青ざめ
ガタガタと震えている事にすら気がついていない

そう…娘サローメが、この婚姻式に出席出来るハズもない
確かにこの手で殺し、貪り喰ったのだから…
なのにその骸は、煙の様に現場から消えていた、一滴の血の痕跡も残さずに

誰が娘の身体を処分したのか…あわよくば自分を脅し揺する事を考えているであろう
目撃者は一体誰なのか?ソレを考えると彼女は一睡も眠れなくなっていた

それともアレは【悪い夢】だったのだろうか?

無理に強い酒をあおりながら、ぼんやりと人の流れを眺めるヘロディア

夢であってくれれば…ソレで私は救われるのかしら?

宴もたけなわな王宮の広間に、衛兵達が叩く物々しいドラムの音が響く
ザワザワとざわつく来賓達は、一斉に広間の入口に注目する

宴の席には似つかわしくない、みすぼらしい風体の男が
屈強な男に両側から挟まれ、鎖に繋がれたまま引かれてゆく
だが…罪人であるはずのその男の眼光は鋭く冷たい
王侯貴族に関係なく、反射的に路を譲ってしまう…たかが罪人に

「久しぶりだな、ヨカナーンよ、地下牢の居心地は如何だったかな?」

高い所から見下してやるつもりで、引き出してきた罪人
だが…こうして直に対峙すれば、ヘロデごとき小物が
直接向き合える様な相手では無いのだ
豪華な婚礼用の衣装を纏いながら、花婿の声は震えていた

「我が神を捨て、異教に帰依したそうだな、狗の王よ
欲望のままにその狗の女と乳繰り合うがいい、約束された王国に
お前達は未来永劫招かれる事は無い、今日はその門出の宴とな?
愚かな事だ…この宴を祝った者は全て、報いを受ける事になるだろう」

予言者らしい口調で口上を述べ、相手を逆撫でするその目は、
やはり冷たく笑っている…見上げられているのにも関わらず、人を食った表情で

満座の席で恥をかかされた王は、わなわなと真っ赤に紅潮した顔を振るわせ、
手にした杯を投げつける、ガチャリと罪人の額に当たったソレは
床に落ちると、高い音を上げて粉々に砕け散る
飛び散る葡萄酒と、聖者の額を割ってしたたり落ちる鮮血

たらりと口元まで垂れてきたソレを舐めあげ、ヨカナーンは尚もニヤリと笑う

「この場で罪を認めるなら、婚礼の祝いの席だ恩赦も考えておったが
我が新たな神すらも、愚弄するその口が気に入らぬっっ 何が聖者だっ預言者だっ
痴れ者をソコの柱に括り付けろ、余自らが神の供物として捧げてやるわっ」

ヒステリックに叫ぶ王の声に、突き動かされる様に
衛兵は預言者を引き摺ると、広間の中央の柱にくくり付ける
ソコには…つい最近まであった彼等の神の祭壇はなく
急ごしらえで作られた、古い神の祭壇と像が鎮座している

預言者は少しも抵抗をしないのだが、衛兵達は震えていた
それが王に対しての恐怖なのか?昨日まで嫌今も信じている神への
背徳に対する恐怖なのか?預言者を傷つける行為による報いが恐ろしいのか?

神は神…どの信仰を選んだ所で、結局は同じモノをあがめて居ると言うのに

憐れな子羊たちの【無知】を笑いながら、どよめく来賓達を見渡す
恐怖におののく目…惨劇の目撃者として血を待ち望む、好奇に満ちた目

震える手で王位の印を、儀礼用の大刀を握りしめるヘロデは
予言者を処分する事を、ずっと願っていたハズの妻を花嫁を振り返る
必ず同意して共に罵声を浴びせるハズなのだ、あれほど憎んでいたのだから

だが何時もは忌々しい金切り声は、今日は少しも発せられない

ただ押し黙り…ブツブツと何かを呟いている
この女…一体どうしたと言うのだ?ここに来てヘロデ王は初めて妻の異変に気がつく

味方は?今自分が行おうとしてる、この神をも恐れぬ暴挙に
賛同する者は、この場に一人も居ないと謂うのか?

ああ…本当は神が恐くて仕方が無いのだろう?私を切る事によって訪れる災いも
ココに参列する誰よりも…でもココで引くに引けない、引く勇気すらない
愚かで憐れな狗の王だ、同情してやるよ誰よりも

しかも…よりによって未だに人を切った事の無い、
完全に無垢なる儀礼用の神剣で、この預言者を斬り殺すと言う事か?
コレもまた、お前を追い詰めるネタになってしまうだろうに

地獄行きは決定の狗の王に、直接処分されるのは構わんが
さあ…どうするヨナ?どう切り替える?死刑執行人はお前の筋書き通り
そのナラボートとやらに、殺らせねば成らぬのだろ?

死刑執行人の付き添い役として、男の側に侍る城小姓に扮したヨナは
慌てて王を腕に縋り付き止めようとするが、はじき飛ばされてしまった

実用向きとは言えない、装飾過多な剣を振りかざし
狂った王は刃を振りかぶる 怯えと恐怖に震える剥き出しになった目が
私のソレと交差する…さあ早く終わらせるのだ、愚かな愛し子よ
切れ味は…あまり良くは無さそうだが、まぁソレも想定内だ
狙いを外すなよ…人を切った経験くらいはあるだろうに?

神に捧げる苦痛を喜ぶ、殉教者・狂信者達とは違う
そう言う意味では、私は至って正常だからね

「お待ち下さい…お父様…」

凜とした声が、固唾を呑むその場に響き渡る

広間の入口に佇む小さな影に、その場に居合わせた者は目を奪われる

ほぼ裸体のその身体に、薄衣と踊り子の衣装だけを纏った王女サローメが
何時になく妖しい笑みを浮かべ、ふわりとした足取りで入場してくる

「婚礼の場を血で穢すことはなりませぬ、花婿が殺すのなんてもってのほか、始末するのは式を終わらせてから…」

歩く度にしゃらんしゃらんと、踊り子の衣装に縫いつけられた鈴が鳴る
おもむろに握りしめた、后の証…短刀を恭しく捧げると
白い指がソレをゆっくりと撫で上げ、さも愛おしげに唇を落とす

「お父様の求婚お受けいたしますわ、でも后はあくまでもお母様
私は側室それでだけは譲れませんわ…ソレともう一つ…」

スラリと抜いた短刀を、柱に繋がれた男に向け宣言する

「その男、ヨカナーンは私の愛の囁きに耳を貸さなかった憎い男…
その男の命を私にくださいませ、お父様…いやヘロデ王よ
それが貴方の求婚を受ける条件よ…いかがかしら?」

昨晩とは比べものにならない、妖艶さとしなやかさで
しなだれかかる養女に、王は下卑た笑みを零し 安堵も含んだ表情を漏らすと
振りかぶった剣を降ろすと、当然の権利の様にその細い身体をかき抱く

「おお…愛しい娘、我妻サローメよ、ソレがそなたの望みならば好きにするがいい…
痴れ者の処罰はお前に任せよう…だが此方にも条件があるぞ
折角のその衣装だ、私の為に舞をみせておくれ、婚姻を祝う舞をな…
白けてしまった宴に華をそえ、新たな神を喜ばせるのだ
上手に出来たら何でも褒美をやろう、宝石か金塊か?何でも言ってみるが良い」

参列者は一様に険しい顔をする、側室とは言え一国の王女である
いくら着用している衣装がそうであっても、元の身分が踊り子だったとしても
身分の低い者が披露する様な下賤な舞を、公衆の面前で踊る義務は無い

通常であれば、当然断るものと誰もが思ったのだが…
王女は嫌な顔一つせず、にこやかに答える

「ええ…それが王のお望みであるなら、喜んで」



続く


前置きが長くなりすぎたら、宴会シーンが伸びてすぎたああああ

聖IIが大好きだけど、歌劇「サロメ」も大好きなんじゃい
ついでに…今回は、途中からヨカナーンに思い入れありすぎじゃ
困った事に…エロがあんまりないのに、
血塗れエロ・グロ・ナンセンス劇場が続きすぎでゴメンなさい

もうチビッとだけ、趣味丸出しの世界にお付き合いください

唐突に出てきたヨナですが、「魚に呑まれたヨナ」で検索すると
どういうヤツだか良く解ります(^_^;) 個人的には結構好きです
歌劇中にも今ひとつ意味の解らないキャストとして、ナラボートに付き従う
城小姓が出てきます…しかも結構難しいソロパートがあったりなかったり…

大昔の【バンギャ】のクセに、【芝居ヲタ】でもありますから
脱線しまくるのは…仕方の無いヤツと見逃してくださいませませm(_ _)m

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