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スクラップティーチャー
頬。
東一が八中に留まっていて、松尾悟史との交際が始まってから1ヶ月程の頃。
付き合い始めてからの習慣で、東一は悟史の車に乗って一緒に帰ってきていた。
勿論、帰る場所は悟史の家。

帰ってすぐに、悟史は手際よく夕食を作り始める。
何でも器用にこなす悟史だが、特に料理に関しては並々ならない腕を持っていて、味にうるさい東一を完全に虜にしてしまっていた。

二人の感性が似通っているせいか、恋人という贔屓目を差し引いても、悟史の料理は東一の好みにぴったり合った。

一方の東一はすることもなく、リビングでゆったりとした大きめのソファに身を預けながら本を読んでいる。
悟史が料理の合間に盗み見ても視線に気付くことはなく、すっと伸びた睫毛が視線の移動に合わせて震えていた。

ふと、目に零れかかる長めの前髪を掻き揚げる。

そんな何気ない仕草でさえ、東一がすれば酷く美しくなるのだった。




「東一?」

悟史はソファの後ろから呼び掛けると、間髪入れずに恋人の華奢な体を抱き締める。

「っ…!いきなりは…やめてください…」

余程驚いたのか、ところどころ震えた声が返ってくる。

「ごめんごめん、つい、ね。」

「つい…って…」

未だ思考が中断中の東一は、言葉を繰り返すのが精一杯なまま頬を染めていた。

「びっくりした?心臓、バクバクいってる。」

悟史は、顔を覗きこむようにして微笑を向けてから、東一の白い項に唇で触れる。

触れるだけのキスをすると、東一の喉がこくりと鳴った。

「何もしないよ。」

「知ってます…約束、ですから。」

約束とは、東一が中学を卒業するまでは手を出さない、というものだった。
とは言っても、思春期の盛んな性欲処理を少しだけ手伝うことはしばしばあったりもする。
とにかく、最後まではしない約束なのだ。


形容し難いもどかしい沈黙の後、東一を抱き締めたままだった悟史が口を開いた。

「東一の肌っていつも綺麗だよね?お年頃とは思えないくらいに…すべすべで、柔らかくて。…もち肌っていうのかな?」

「そう…ですか?」

自覚が無いのか、ぼぉっとした顔で指で頬を撫でる様子がまた、愛おしく思わせる。

「うん、…ね、食べていい?」

「…はい?」

悟史は、答えを待たずに白雪のような頬に唇を寄せた。

触れてから、食むようにして口を開いては閉じる。

「せんせっ…」

「んー?」

「くすぐった…い…」

肩をすくめて眉を寄せる東一を見て、悟史はとても嫌らしいことをしているような気分になった。
舌先で擽ると、ヒクっと背筋が強張る。

「ひっ…だめ…です…って…」

上気した頬と潤んだ瞳が、無邪気に悟史を誘う。
この耐え難い誘惑を、悟史は何度も耐えてきた。

そうして今回も都合良く、オーブンのタイマーが甘い時間の終了を告げる。

「じゃあ、今日はここまで。さて、夕食にしようか。」

そう言って爽やかな笑みで区切りを付けて立ち上がり、東一の頭を撫でる。

「……はぃ…」

東一は、離れる手を名残惜しそうに見送った。




◇ひとだんらく◇

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