スクラップティーチャー
3
「君の泣く姿が、あまりにも可愛かったから…かな。」
悟史の、そう言って何気なく足を組む仕草さえ上品で、東一の心臓を早まらせた。
「可愛いって、俺は男ですよ?」
「あぁ、そうだね。じゃあ、健気?」
「それも…女の子に言うべき言葉ですよ。」
何だか、そうも女々しい形容ばかりされると女の子になった気分になってくる。
ありえない事だが…
などと考えながら、東一は手持ち無沙汰に手元のスプーンで溶け残っている砂糖をかき回す。
「さっきから、目を合わせてくれないけど…どうかした?」
ふっと目線を上げれば、案の定、悟史と視線が重なる。
端正な男らしい顔に見惚れて、トクン、と疼く心音で我に返れば時既に遅し。
唇を奪われていた。
柔らかな感触が離れ、視界のピントが定まった頃に実感が迫る。
同性にされた嫌悪感は全くなく、早鐘のような脈ばかりが秘めた好意を主張していた。
「松尾…せ…んせ…」
「気づいていないとでも思ったかい?」
「え…?」
「君の、熱烈な視線。」
そんなに、見ていただろうか。
東一は自らの行動を思い返してみる。
すると、授業の時も、職員室でも、始終「松尾先生」を気にしていたような気がしてきた。
「最初は嫌われてると思ったんだが…どうやら違うみたいでね。嫌ってる人間には、蔑んだ目で見るだろう?でも、俺に向いてる視線にその念は無かった。」
「…当たり、です。敵わないですね…先生には。」
東一の中で、最近の散漫した注意力にも、心苦しさにも、一気に答えが出た。
恋煩いなのだ。
凡人染みているな。
などと自嘲する気は起きない。
実感したこの想いが、とても幸福なものであったから。
「俺、先生を好きなのかもしれません…」
戸惑いながらも、はっきり呟くと、不意に指先で頬を撫でられた。
「曖昧だなぁ。こっちは、こんなに夢中にさせられているって云うのに…」
「それって、どういう事ですか?」
「こういう事。」
撫でていた指が掌に変わり、しっかりと頬を押さえると、悟史の顔が近づき、再びくちづける。
しかし、今回のものは止める気がないらしく、何度も啄むと舌を差し入れ、口腔を犯し始めた。
「ゃ…ふ………ぁ…」
わけもわからないまま、全身の力が抜けていき、気がつけばソファにぐったりと寄りかかっていた。
「わかった?」
「わか…んな…」
東一の思考回路は完全に停止し、つい数分前の会話さえ思い出せない。
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