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スクラップティーチャー

学校で、ましてや教師の前で泣くなど、東一の自尊心が許さなかった。
すぐにその雫を抑え、悟史に向き直る。

「ありがとうございました。もう、帰ります、」

それでは。と、続けようとしたところを、腕を掴むことで遮られる。

「ちょっと待って、このまま君を帰したりはできない。」

腕を引かれて、連れられた先は職員駐車場。

「あの車、俺のだから乗ってなさい。」

指し示したのは黒いジャガー。
キーを渡され、しぶしぶ車内で待つ。



悟史は15分程して戻ってくると、車を走らせた。

「どこに、行くんですか?」

「特に決めてないけど、君が思い切り泣けるところ、かな。」

「いいですよ…そんな、気を遣わないで下さい。」

「どうせ、家でも気を張っているんだろう?」

的確な推測に、東一は何も言えなくなってしまう。
この人は、自分によく似ている。そう、思えた。

大人しく揺られていると、都内の高級マンションに辿り着いた。

「ここは…どこ、ですか?」

「家だよ。俺の、ね。」

教師の住まいとは思えない豪奢な外見。
東一は、おそらく給料では賄い切れないだろう。と読んだが、そんな事はこの際どうでも良かった。

「いいんですか?お邪魔しても。」

「構わないよ。」



悟史の部屋は、最上階に近いくらいの高さで、見晴らしの良い部屋だった。
沈み行く夕日に照らされたビル達は、悲しそうな表情をしていた。

東一は、ソファに座り、悟史がコーヒーを入れてくれるのを待ちながら、失礼とは思いつつも、ざっと室内を見渡した。

黒基調のシックな部屋には、殆ど生活感というものを感じられなく、几帳面な性格を物語る。
そして、ガラステーブルの上に何気なく畳まれている英字新聞や本棚の哲学書が、悟史の知性を漂わせている。

その本には、何冊か読み覚えのあるものもあった。

「お待たせ。」

コーヒーの誇り高い香りが鼻腔を擽る。

「Suger or milk?」

突然のことながら、流暢な英語は心地良かった。
東一が苦笑して見上げると、悪戯な笑みを浮かべた悟史と視線がぶつかる。
その無邪気な表情は、普段の教師面からは想像もつかない。

「Well…suger,please.」

負けじと、サラっと答えれば、

「Sure.」

悟史は角砂糖を1つ落として、東一の向いに座った。

「上出来だ。イントネーションも非の打ち所が無い。」

「でしょう?」

飾らない悟史の様子につられて、東一の警戒も薄れ、愛らしい笑みが零れ出す。

「さぁ、本題に入ろうか。…と言っても、どうして君を連れてきたのか、俺にもよく分からないんだけどね。」





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