スクラップティーチャー
覚。
付き合い始めてすぐのこと。
-東一目線-
憂鬱だ。
梅雨でもないのに雨が続いているし、久坂は今日も五月蝿い。
晴れが好きだという陽気な人間ではないけれど、こうもうっとうしい雨ばかりでは気が塞いでしまう。
湿気ていると本が傷む、などと考えながら、視線を辿らせている厚い紙面を撫でる。
はぁ…と周囲に気づかれない程度に小さく溜息を吐いて頁をめくった。
落ちてくる前髪を指先で持て余しながらまた次へ。
文字の羅列を無心に追っていると落ち着く。
はずだった。
どうしたのだろう、今日は文字が脳内に焼きつかない。
並べた論理が破綻する。
頭が、どこか熱に浮かされたように機能を止めている。
俺は仕方なしに本を閉じた。
相変わらずの強い雨だった。
熱はない。
窓を、そのガラスの向こうを眺めていると、少し離れた渡り廊下に真黒い影が現れた。
その正体が大脳で認識されるよりも僅かに早く、ドクン、と、全身が脈打つ。
急速に喉が渇く。
呼吸を忘れ、視線が彼を追う。
彼が、こちらを、向いて、火照り、脱力。
あぁ、鼓動が収まらない。
彼はほんの少し視線を留め、再び歩き出した。
これじゃあ、ただの恋する乙女じゃないか。
これだから、愛しい想いを知りたくなかった。
◇ひとだんらく◇
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