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大部屋。(中編)

ついに来てしまった。
和紗の家にお呼ばれ。

家で遊んだことは既に何度もある。
しかし、恋愛経験皆無の有理でも、今日の"約束"がいつもと違うことくらい、わかる。
だから、見慣れてきた黒基調の部屋でも、どことなく落ち着かない。
思いばかりが巡る沈黙を破り、先に口を開いたのは和紗だった。

「何、しようか?」

「ぅ…ん」

有理は手持ち無沙汰を紛らわすように繰り出し型のリップを取り出して、唇に滑らせる。
高校男子でそんな事をする者はそうそう居ないが、有理がすると様になってしまう。

「あ…甘い匂い。」

低い声が何気なく呟く。

「イチゴだよ、味は…しないけど、つける?」

白くつやつやしたリップが差し出される。
しかし、その手は握りつつ押さえられ、無防備な唇を奪われる。
和紗の貪欲な唇は、今しがたつけられたリップを舐めてから、綺麗な歯列を掏りぬける。
何度も角度を変えて絡ませ、咥内を侵し尽くした後、意地悪く笑った。

「美味しかった。有理の…唇。」

「っハ…ば…か、いきなり……すんなぁ…」

真っ赤な頬に瞳を潤ませ、可愛らしい悪態をついてみる。

「もっと触って、いい?」

「いい…」

有理は全身を強張らせながらも、目の前の広い胸に、ことん、とおでこを寄せる。
自らの煩いくらいの心音と、和紗の速くなった鼓動が共鳴する。

「和紗…ドキドキ…してる…?」

「一緒だろ、有理と」

日頃鍛えられた逞しい腕に力が入ったと思うと、次の瞬間、和紗の顔が近づく。
触れるだけのキス。
赤い唇を掠め、頬、目、耳、うなじへと移った。
ゆっくりと視界が動き、有理の目に映るのは、真っ白な天井と和紗だけ。




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