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ラディス//2
優花
「何だ?これは…」


その言葉に他の三人はそれを囲むように横に並び見た

冬心
「何かの機械のようですね」

真人
「これ動くのか?」

冬心
「分からないです…でも壊れてるようには見えないですね」


そこには大きなコンピュータが有った
沢山のスイッチやボタンがあるので訳が分からない
真人はとりあえず適当にいじってみることにした

可誉
「おい!お前勝手にいじんないほうがいいぞ!」

可誉の止めは無駄に終わるのだが…
真人がしばらくいじっていると急にコンピュータが起動し始めたのだ

可誉
「お前…スゲーよ!どうして分かったんだ?」

真人
「いや適当にいじってただけだから」


可誉の感動を裏切る答えを出した後
一斉に周りの緊張した空気が穏やかなものになった

優花
「コレで帰る方法が分かるかもしれないな」


安心したのか溜息混じりで優花は言う
周りの皆も同じ気持ちなので自然に頷き笑顔を浮かべていた
そして大きな画面に目を向けてみたが訳の分からない英語がずらりと流れていた
そんな光景をしばらく見ていると急にコンピュータが話し始めたのである

コンピュータ
『ようこそ、ラディスへ』


その言葉に全員が息を飲んだ

真人
「ラディスって…さっき話してたやつだろ?…本当にここはラディスなのか!?」


真人はコンピュータに確認するように問いただす

真人M
「本当にここが噂のラディスなのか?
どうして俺たちはここに来てしまったのか
全て聞かなければならないから」

コンピュータ
『昔はとても美しい国でした…彼が狂うまでは』

だが真人の言葉が通じないのかコンピュータは勝手に話し始めた

真人
「何だよ…彼ってなんだよ!」


真人はコンピュータに思いっきりあたっていた
怒鳴り散らしパネルを叩こうとしたがそれは近くにいた優花に止められてしまう

優花
「とりあえず話は聞いておこう」


苛立つ真人をなだめようと優花が肩を掴み自分の方に振り向かせて止めた
真人はバツが悪そうに唇を噛み締めて苛立ちを持て余していた

その気持ちもわからないでもない
今感じている不安や恐怖はどこにあたればいいのか分からないから
真人の場合人にあたるのだけは避けていたのだろう
だから物にあたってしまったに違いない

そんな二人を見ていた可誉は何を思ったのか真人に思い切りビンタをした

真人
「いってー!何すんだよ猪可誉!」

真人M
「何だよ!いきなりビンタすんなっつーの!
いてーマジで殴りやがったな」

可誉
「お前一人で突っ走んなよな!いい迷惑なんだよ」


可誉は再びビンタをしようと手を上げたが真人がとっさにそれを掴んで止めた

真人
「あっぶね!んな布団みたく叩くなって」

可誉
「煩い!お前なんか布団以下だ!」

真人
「何だとー!布団叩き可誉が!」

冬心
「あーーのーー!」

真人M
「口喧嘩を始めると途中で冬心が割り込んできた
げっ!ヤバい再び毒舌攻撃を食らうぞ!」


真人と可誉はやはり同じ考えらしく黙り込み冬心を見た

冬心
「真人さん?可誉の言うとおりですよ。貴方が一人で戦っている姿は余りに心苦しいですから」

真人
「………」


冬心はいつもとは違う少し哀しげな声で静かに言う
真人はその声に言葉を失った
逢ったばかりの友人なのに
こんなに想ってくれていた
やはり可誉の友人だけは有る

真人
「ごめんって…その皆で考えよっか…ここから帰る方法をさ」


最後は笑顔を浮かべて
理解を求めた

優花
「その言葉を待ってたんだぜ?…でお前等二人が喧嘩してるうちにコンピュータ喋り終わったけど?」

真人
「えっ!!マジかよ」

真人M
「やっちまったぁ!
俺、可誉と喧嘩すると回り見えなくなるほど怒鳴り散らすからな
何かヒントを言ってたに違いないのに」

優花
「あぁでも途中できれたぞ」


真人の表情を見て優花は言う

真人
「どこで切れたんだよ」

優花
「んー『彼はこのラディスの』できれたぞ」

真人
「うわっ気になる!」


真人と優花、二人が会話している間に冬心たちは辺りを調べていた
むしろ放っておいていた

理紗
「あっ…あれ!」


辺りを見回していた理紗が急に声を荒げてそれを指差し叫んだ

真人
「んっ?」


皆は同時に消えているはずのコンピュータの画面を見る

優花
「えっ!」

真人
「なななな!」


皆はその人を見ると声を上げて驚くのだが
特に真人が気持ちいいくらい反応してくれたのだ
そこには…

マーフィ
『やっと戻ってきてくれたね…私の体よ』


真人が映っていたのだ
よく見ると真人より少し大人の姿をしている

真人
「ななっ何で俺が映ってるんだよ!」


必死で指をさして近くにいる優花に訴えるのだか彼は肩をすくめるだけだった
冷静に事を見届けるためだろう

マーフィ
『何だ…覚えていないのか?私が作り出したモノなのに』

全員
「!!」

マーフィ
『お前達は私が作り出したのだよ…もういらない…消えろ』


画面の彼が真人達を指差し命令した後
何故かヒドイ頭痛に襲われるのだった

真人
「うわぁぁ!」


苦痛の叫びを皆はあげてバタリと力なく倒れていった
真人がその時最後に見たのは画面の彼が満足気に唇の隅をあげた瞬間だった

真人M
「真っ暗な場所に自分が浮いている
ここは寒くて
淋しい場所
心の奥底の
奈落か否か
瞳を開けても何も見えない
俺は目が見えているのか
盲目なんじゃないか?
そう想うほど漆黒しか映らない
まるで光など知らないみたいだ」

ぼうっと漆黒を見つめていると急に一点が明るくなっていた
真人は眩しくて目を細めた
明るさに慣れた瞳は白い輝きを放っていて自分より少し上に浮いている彼を見つけることができた
ふいに瞳がぶつかる
瞬間冷笑を浮かべる彼

マーフィ
「お前…まだいたのか」

真人
「何だよ!一体どういうことなんだよ!」

マーフィ
「分からなくてもいい…お前は消えるんだからな」

真人
「なっ…消えるわけないだろ!しかも何でお前がここにいるんだよ
…つーかここどこだよ…皆はどこいっちまったんだよ」

一気に疑問が吹き出てきて質問攻めをする形になっていた

マーフィ
「…煩いな…自分で理解してみたらどうだ?しょせんは何もできないとは思うが」


フッと鼻で笑われて真人は一気に怒りを感じた

真人
「こんのっ!」

真人M
「そこまで言われちゃおとなしくしてられないな!行動あるのみだ
…つーか一発殴りてー
自分の顔に言われたくないっつーの!」


真人はどうにかして彼に触れようと手を伸ばしてみた
が見事かわされてしまった

マーフィ
「私に触れるな…さっさと消えろ」

真人
「さっきから消えろ消えろしつこいぞお前」

マーフィ
「お前はもう用済みだ…だから消えてもらう…でないと私が困るからな」

真人
「へっ困っとけ…俺は消えないからな」

マーフィ
「…仕方がないな」


すると彼は真人の頬に片手を添えてきた

真人
「うっ…」


気持ちの悪さに鳥肌が立つ
反射的にあとずさっていた

真人
「!!」


その後、何故か分からないが彼に触れられた部分から全身に熱いものが駆け回っていった
目の前に閃光が走る

フト気が付くと目の前にはマーフィが椅子に座っていた
その後ろに四人の人が立っていて彼の行動を見守っていた

サラ
「マーフィ、無理は禁物よ。少し休んだらどう?」

マーフィ
「いやもう少しで終わるからな…止めない」


彼はパソコンにむかっていて何かを入力しているようだ

カイン
「じゃあそれを終わらせたらちゃんと休んでくれよ?マーフィが倒れたら大変だからな」

マーフィ
「あぁ…ありがとうカイン」

真人M
「どうやら優花の顔の奴はカインと言う名前らしい
ん?じゃあ俺はマーフィか?あいつそんな名前なのか
じゃあさっき喋った可誉の顔の奴は何て名前なんだ?」

マーフィ
「よし…終わった」


マーフィは席を立ち上がると一人一人に命令を下した
会話の内容は町の様子を皆で別れて見てきてほしいとの事だ
どうやら今真人がいる場所は過去らしい
彼らには真人の姿が見えていないからだ

マーフィの会話の内容をきいて他のメンツの名前がわかった

真人M
「理紗の顔がミリィで冬心の奴がエヴィンだ。そんで可誉の顔がサラ…と
それにしてもやっぱ皆今の俺たちより遥かに大人だな
年は25.6くらいかな
どうして大人なんだ?
もとに戻ったらマーフィに全てを聞いてやる
ここまで見せてもらえたんだから納得いくまで説明してもらうんだからな」

真人がそう誓うと急に時が進んでいきある場面で止まったのだ

真人
「んっ?なんだ?」


そこにはマーフィとサラが二人きりで話しているのが見えた
マーフィの表情がほのかに曇っているのは気のせいだろうか
真人は会話の内容に耳をすませた

マーフィ
「サラ…もうすぐ君はカインと婚約をするそうだね」

サラ
「えぇ…そうだけど…マーフィどうしたの?」


どうやらサラも彼の表情が曇っていることに気付いているようだ

マーフィ
「いや…何でもないんだ…おめでとう。サラ」

サラ
「…?ありがとう。マーフィ」


サラはこの時気付かなかったのだろうか
この時から彼は少しづつ壊れ始めたのを

真人はそれからしばらくマーフィだけを見ていた
彼の気持ちが真人に伝わってくるからだ

マーフィM
『私はサラの事を…ずっと愛していたのに…伝わらなかったようだ』


マーフィはサラの優しい笑顔に日々ひかれていた
彼が辛い時に傍にいて励ましてくれていたのはいつだってサラだった
だからサラも自分に気があったのではないかと何処かで錯覚していて
自分に変に自信を持っていたのかもしれない

自分はこの国を治めているから
自分は一番偉いのだと

闇の渦が
彼に宿った

嫉妬と怒りが混じりあいそれをどうぶつければいいのか分からなかった

どうしようもなく時は過ぎていき
サラはカインと婚約し
式をあげた

表では盛大に二人を祝っている自分がいるのに
中では殺意に近い感情が二人に向けられている
そしてもう一つの感情が生まれる
そんな思考を抱く自分を責める自分がいる
そして負の感情を歓迎する自分

そんな混乱した心を持て余せるほどマーフィの心は強くはなかった
ついに限界の日を迎えることになる

マーフィ
「あぁ…ラディス…君は私に何をしろと言うんだい?
分からなくなってしまったよ
……私はね…皆の笑顔が憎くなってしまったんだよ…たまらなく壊したくなる…君を…全てを…」


彼はラディスの癒しと呼ばれる一筋の光が天から降り注いでいる場所に立っていた
そして最後の嘆きのように呟くとその場からゆっくりとある場所に歩きだした
その場所は真人たちと出会った場所だ
大きなコンピュータに何かを彼は入力している
その顔は自らを嘲笑っている悲しい表情
涙が出ていないのが不思議なほど彼の心は凍てついていて
真人にはだんだんそれが耐えきれなくなっていく

マーフィ
「これでいい…」


しばらくするとマーフィはニヤリと笑いコンピュータから少し離れる
すると彼を探していた四人が駆け付けてきたのだ

サラ
「マーフィ!一体こんな所で何をしているの?」

サラが叫んだ理由はこの後分かるのだが…

マーフィ
「やぁ…やっとそろったね…待っていたよ皆」


マーフィがクスっと笑うと皆はゾクリと背筋が凍るのを感じる

ミリィ
「まさか…テメーこの国壊そうとしてんじゃねーたろーな!?」


ミリィが顔を真っ赤にして怒鳴るとマーフィはまた軽く笑い答えた

マーフィ
「あぁ…ミリィにしては物分かりがいいね…そうさ…壊すのさ」

カイン
「どうしてだい!ここまで築いてきた国を何故壊すんだい?」

カインが冷や汗を流しながらも何とかマーフィをなだめようと伝えたのだが…

マーフィ
「いらなくなったからだよ…でも安心だ…私たちは死なない」

サラ
「それって!?」


サラが聞き返そうとした途中でマーフィが起動スイッチを押していた

マーフィ
「私たちは生まれ変わるのだよ…何も知らなかった…優しい時間に…そして待つんだ…運命の日まで」


マーフィは言葉を続けることはできなかった
あたりはもう崩壊していたからだ
鼓膜を破る壮大な破壊の音が響いてその映像は終わった
最後に見たのは何だろう
マーフィ達が光に包まれたところだった

ひどい目眩と共に現実へと帰ってきた真人だが
立っていられずに膝をついた

周りを見ればまだ皆は倒れていて
コンピュータにはマーフィはもう映っていなかった
一体何だったのだろう
吐き気が襲う

彼の気持ちがまだ渦巻いている
痛くてたまらない胸
虚しさと苦しみが自我を薄れさせた

真人
「もっ…止めろ」


喉の奥から振り絞ったのは制止の声
それはマーフィの心に向かっていた

真人M
「これ以上
心を殺さないでくれ
これ以上
自分を責めなくてもいいんだ
もう十分苦しんだだろう?
体少しかえしてやるからやりたいことやって
満足したらかえしてくれよ
俺はお前を責めないから
いい結果を祈ってるぜ…マーフィ…」



一瞬真人の体から力が抜けたがすぐに力を取り戻す
ゆっくりと立ち上がる彼
少しよろめくが立ち直る
そしてゆっくりと笑った

マーフィ
「クク…やっと元に戻れたな」


もう彼は真人ではなくマーフィとなってしまったのである
他のメンツも続々と起き上がるがその中身は皆ラディスメンバーとなっていた

マーフィ
「フフ…これで私の願いは叶う」


マーフィは他の者をおいて一人あの場所へと向かっていった


彼の願いはただ一つ
全てからの解放だった
それを実行したのがあの町の破壊だった
まずは町を壊せたがまだ中心となるアレを壊せていないからだ

そしてマーフィはまたあの場所に立っていた
光が有る
ラディスの癒しに…

マーフィ
「ラディス…君を壊しに来たよ…これで私は解放される」


マーフィが光に手を触れようとした時だった

サラ
「待って!マーフィ!」


あの四人が制止しにきたのだ

マーフィ
「あぁ…サラ…君に最後に伝えたかった事があるんだよ…君をずっと愛していた…」

サラ
「!!」


サラは驚きで声が出ない
まさか彼が自分のような人間を愛してくれていたなんて
想像もできなかった事態にサラは固まってしまった

マーフィ
「私を救えるのはもうコレしかないのだよ…だから皆にもここで犠牲になってもらう」

ミリィ
「何言って…!」


ミリィは途中で言葉を失ったのはマーフィが言葉を続けたからだ

マーフィ
「ラディスを壊すには私たちがここで消えなければならないのだよ…」

カイン
「どうしてだい?」


カインが聞き返す

マーフィ
「ラディスを支えているのは私たちの存在だからだよ」

サラ
「!!」

マーフィ
「そのためには体が必要だっただろう?
町を破壊したときに死んでしまったら終わりだからな…
だから体は日本へ転生させたよ…赤ん坊からね」

サラ
「でも!そんな事しなくても貴方は救われるわ!」


サラがやっと口を開く
皆もマーフィの言葉に胸を熱くさせた
ほんの少しだが
彼は最後に破壊からあがいていたから

サラ
「そうよね…私たちは最初から大人だったわ
…ラディスが私たちを作ったのだから…だから貴方は子供になりたかったのよね?」

サラM
「子供は純粋でまだ人の醜い部分を知らないでいるから
マーフィは醜さから逃げたかった
知らなくてもよかった

でも逃れようなく最初からそれはあった
だから無くしたかった
一時でもよかったから

そうでしょう?マーフィ
気付いてあげられなくてごめんなさい
私たちは貴方を支えるために生まれてきたのに

逆に苦しめてごめんなさい
もう苦しくないわ
一人で心を痛めないで」


サラは強く強く念じ
マーフィを見つめた

光が一つ
サラから出てきた

マーフィは手を下ろし
皆の言葉に耳を傾け始めた
少しでも救いを求めていたのかもしれない…
彼の表情がだんだん曇ってきたから

カイン
「僕は君の優しさを知っていたよ
…君は優しすぎだから傷つきやすかったんだね…気付けなくて本当にごめんよ」


カインは頭を下げて謝罪した
その目にはうっすらと涙がたまっていた


カインM
「本当に僕は君をちゃんと分かっていなかったみたいだ
今まで苦しかったろう?
今まで、もがいていたのだろう?
君は優しいから自分を一生懸命傷つけて
さぞ心を痛めただろう?
自分を責める事はとても容易くて
なのに傷は深くつくものだから
癒せるから傷は有る
だから僕らが癒してあげるから
君はもう一人じゃないから」


そしてまたカインからも光が一つでてくるのだ

マーフィ
「お前達…」


マーフィにはなぜか二人の気持ちが伝わっていたのだ
彼らに対し困惑の表情をしている
きっと今まで凍っていた心が溶け始めたから

ミリィ
「すまねぇマーフィ!もう分かったから壊すなよ」


ミリィが涙を流しながら彼に叫んだ


悲しい音色は辺りに響きやすいもの
他の者も涙を流した
きっと皆一緒だ

彼の凍てついた心に涙し
自分のふがいなさに涙し
彼の全てに対し悲しんでいるのだ
ミリィはその中でも一番激しい感情を抱いているのだから


ミリィM
「マーフィ…
アタシは分かってたよ
アンタは感情が弱いんだよ
どうしようもなく
小さいことしか考えられない
だけどね
小さくても積もって膨らんで大きくなっていくんだよ
人はそれをねストレスっていうんだよ?
アンタは小さな心を破裂させるほど抱えてたんだよ
だから吐き出し方を間違えちまったんだよ
小さなマーフィ
アンタには沢山
今から手を差し出されるんだから
しっかりと受けとめてくれよ!」


ミリィはゆっくりとマーフィにむかい手を差し出した
その後に続いて他の皆も手を差し出した
最後にボソリとエヴィンが囁く


エヴィン
「一人じゃ苦しいから」


そしてミリィとエヴィンからも光が一つ出てきたのだ

光はマーフィの周りを漂いそして彼を包んだ

マーフィ
「…ありがとう…皆」


その光は優しさ
思いやり
彼だけが手に入れることができる
彼のためにある
光なのだ
マーフィは暖かい光に筒まれ目を閉じた


真人
『よかったな…』


彼の中の真人が囁く
それがひどく優しい響きで…
マーフィもまた涙するのだった


マーフィ
「ラディス…私は間違っていたよ…私はこんなにも皆に愛されていたのだから」


彼がそう言うと周りの光はいっそう強く輝き分裂した
光が一つ消えるたびに
一つの人の形になっていく
それが真人だったり可誉だったり

真人
「…マーフィ」


真人がつぶやくとマーフィは彼の目を見つめこう強く言った

マーフィ
「君たちは君たちで強く生きてくれ」


そしてマーフィは光に手をかざす
すると辺りは一斉に町並みへと変化していく
まるで時を戻したみたいだ

真人
「体は一緒でも中身は全然違ったもんな」

可誉
「本当、マーフィはお前と違って賢いもんな」


可誉が嫌味ったらしく真人に言うと短気な彼は彼女を一睨みし

真人
「サラはお前よりうんと女らしいもんな」


と言い逃げ出したのだった

優花
「…ふぅ…全く、今まで君たちの過去を見せられていたなんて嘘のようだよ」


優花が光に並び立っているマーフィ達を見て笑いながらそう言うとマーフィはフと笑い

マーフィ
「ラディスはまた生まれ変わるんだ
君たちもまた新たな人生を歩んでくれ
私たちに囚われずに…さぁ在るべき場所へ戻るんだ」

真人
「おい!マーフィ」


彼が真人たちを帰そうとした時に
息をきらせながら駆け寄り真人は呼び掛けたのだ

マーフィ
「何だ?」

真人
「お前達のこと…忘れないからな!俺たちに負けないくらい笑ってろよ」

マーフィ
「あぁ…そのつもりだよ」


最後に真人が見たのは
マーフィの幸せそうな笑顔だった

気が付くと真人達はもといた広場に立っていた

真人
「帰ってきたな」

冬心
「まるで夢でも見ていたみたいですね」

優花
「でも夢じゃないさ」

理紗
「えぇ…私たちは確かにもう一人の自分を見ましたから」

可誉
「そして今が在るんだよな」


可誉の最後の一言が体中に響いた


そう
自分達はラディスの住人だった者たちによって
意図的に作られた者だとしても
それ以上に存在価値のあるものを手に入れたから

それは自分が自分であることの誇りと強さだ

真人は眩しい夕焼け空を見つめ
ラディスでの出来事を振り返った

あれはあれで違う自分
今は今で違う自分自身が生きている不思議な感覚
でも嫌じゃない
彼のお陰で自分は弱さを知った
絶望の淵にあった希望はなんて強いんだろうと思った

でも
今は俺たちがこの世界と国で精一杯生きていこうと思う真人だった




ラディス
そこは優しさ溢れる光の国




THE END

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