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殲滅少年
ただ一面に広がる世界に
取り残された 黒


少年

亡骸
肉片



この世界に不似合いな
笑い声

虚ろに涙を流す少年は
一人の亡骸を見つめ
声もなくただ…笑っていた

全てに絶望した少年は無を望んだ

壊ワレテシマエ
コンナ世界

少年が望むと
真っ黒な波動が世界を壊す

力の目覚め
始まりは些細なこと

少年の力を欲した者が
少年の大事な者を殺したからだ

これは一人の少年が世界を破壊する物語



…聞こえる

瓦礫の中で弱々しく泣いている

この声は何だ?

私は瓦礫を掻き分けてみた

するとそこに似つかわしくない存在があった

赤子だ

捨てられたのだろうか
丁寧に手紙まで添えられていた


「この子をどうか助けてください」

何て都合がいいんだろう、と思った
手紙と力無く泣いている赤子とを交互に見る

そして私は赤子を抱いた
ほんの気まぐれだった行動だったが
その思考は終わった

抱き上げた赤子が
私の服を掴んだのだから


そして、子供というのは成長が早い
あっという間に大きくなる

気付いたら立って歩いているし
走り回ったりもする
感情表現もする

魔導書を片手に私に近付いてくる子がいる

血のように赤く濁った瞳
黒いサラサラな長い髪
雪のように白い肌

少し潤んだ瞳で伺うように私を見つめる
見た目は少女のような彼の名は魔鬼(マキ)
たどたどしく私の名を呼び願いを告げる


魔鬼
「ダークシャドウ、この魔法教えて」

ダークシャドウ
「いいとも、魔導書を見せてごらん」

私の膝の上に座った魔鬼は希望に満ちた目で
魔導書を広げ私を見つめた


彼は始めから名前があった
添えられていた手紙に書いてあったのだ

「この子の名前は魔鬼
人と悪魔との間に産まれた禁忌の子
この子の力を利用しようとする者から
どうかこの子を助けてください
それが私の唯一の願いです」


都合のいい母親がいたものだなと
始めはそう思うだろう

だがよく考えると
この母親は魔鬼が禁忌の子ゆえに
強大な魔力を宿しているという事を予想していたのだろう

だからこの魔界に魔鬼を捨てたのか
全てはこの子を守るために…

魔鬼の両親は恐らくこの世にはもういないだろう
禁忌の子を授かった家族が無事に生きていったケースは
聞いたことがない

思いにふけっていたが、魔鬼が本の続きを急かすので
魔法の指南をしてやることにした

魔鬼
「こーしてこう?」

教えた通りに魔鬼は念じ手をかざす
すると魔鬼の手から漆黒の炎が出てきた

…驚いた
まさか一発で出来るとは
これは上級魔法だというのに…

やはり禁忌の子
魔力は侮れないという事か

それに才能があるのかもしれない
この子はきっと私に継いで次期魔王に
ふさわしい人物になるだろう

この子の力に皆恐れ平伏す姿が想像出来た


ダークシャドウ
「いい感じだ、次はこの魔法を教えよう」

頭をなで褒めると満面の笑みで魔鬼はこたえてくる
まだ子供だ、感情の醜い部分を知らない
純粋な魂なのだからさぞ悪魔にとっていい食料になるだろう
狙ってくる悪魔も多いはずだ
魔鬼には自分の身を守れるだけの知識と魔力が必要になる

出来る限り
この子を強くしていこう

私が居なくなっても大丈夫なように…

そうして魔鬼に魔法と武器による訓練を徹底的にしていった
魔鬼はやはり才能があるのか、全て飲み込みが早かった
あっという間に使いこなしてしまう

私が苦労して手に入れた大鎌も
小さい体に合わさるように小さくし使いこなすくらいだ

本当に驚きの連続だった
魔鬼はというと、こなせるようになると
私が褒めるからそれが嬉しくて頑張っているようだ

一通り使いこなせるようになった頃だろうか

その日も外で訓練をしていたのだが
突然奴は私たちの前に現れた

魔鬼
「あっ…」

奴は魔鬼を抱き上げるとニタリと笑い
私から離れていく

ダークシャドウ
「魔鬼!」

私はそいつを追い掛け走っていく
広い草原に着くと足を止め私に魔法を仕掛けてきた

ダークシャドウ
「!…これはっ」

重力を駆使した魔法をかけられ私は地に伏せる
魔鬼が悲鳴を上げるが叶わず奴が放った魔法により
どんどんと私は傷ついていった

ダークシャドウ
「ぐふっ…何故だ…その子を離せ!」

??
「こいつはいい魔力を持っている
俺がそれをうまく利用してやろう」

怯えている魔鬼の頭をひと撫ですると
そいつは私に向かい武器を振り上げた

私は自分の大鎌で受け止めようとしたが
それは叶わなかった
なぜならそれはもう魔鬼にあげてしまったからだ

魔鬼
「ダークシャドウ!!!」

魔鬼は助けようともがくがビクともせず
容赦なく武器が私を貫いた

魔鬼
「嫌だ!!離せ!!離せーーーー!!!」

血しぶきが辺りを染め
私は地面に倒れていった

それはとても一瞬の出来事だったのだ

倒れた私を見た魔鬼は一瞬静まりかえり
虚ろに私を見つめていた

視界がぼやけ
最後に私が見た光景は

魔鬼がニタリと微笑み
辺りが真っ黒に染まった光景だった

あぁ…壊してしまうのか
その力を破壊に使ってしまうのだな
だからお前の力は狙われてしまうのだ

本当はもっと色々教えてやりたかった
お前と一緒にいて色々と私にも感情が芽生えたのだ
もっと冷たく暗い感情だけではなく
温かい…泣いてしまうほどの何かを…


魔鬼…どうか
復讐にだけは囚われないで
私と過ごした日々を思い出して欲しい
そして大切にして欲しい

お前の笑顔がまた…見たいから





少年はただ声もなく泣いていた
真っ黒な世界でただ一人取り残された
哀れな存在

胸の中にはどす黒い感情でいっぱいだった

そこに光が一つ舞い降りた
目の前に少女が現れたのだ

セレナ
「哀れな子…大切な人を失い
全てを破壊したのね
そして孤独になった」

少女は魔鬼に手を差し伸べる

セレナ
「来なさい
哀れな破壊の子
貴方もまた選ばれた子なのだから」

少女の手がその時希望に見えた
魔鬼は縋るように手を取った
すると世界は知らない部屋へと変わっていく

机と椅子だけがある部屋
そこにある椅子に少女は座ると隣の椅子に
座るように促す

魔鬼が座るのを確認すると少女は語り始めた

セレナ
「私はセレナ、貴方は魔鬼でいいのよね?」

魔鬼
「うん…」

セレナ
「貴方は生まれながらにして強大な魔力を秘めた子
破壊の力をその身に宿し、一つの世界を破壊したわ」

魔鬼
「…全部なくなっちゃったから
大好きな人も、殺されてしまった」

セレナ
「私もよ…
気持ちはよくわかるわ
貴方程力は持っていないけれど
それにしても
ようやくここに選ばれた者が来てくれたのね
私はずっとここで一人で物語を見ていたの
貴方の事もここで見ていたのよ」

魔鬼
「ここは一体どこなの?」

セレナ
「ここは始まりの場所
物語が生まれここではそれを見ることが許されるの
私たちは傍観者って所ね」

魔鬼
「ここから出れないの?」

セレナ
「望めば行く事も可能よ
あまり長くはいれないけどね
フフ…貴方はまだ子供ね
色んな世界に行って色々と学び成長していくといいわ」

魔鬼
「…また世界を壊しちゃうかもしれないよ?」

セレナ
「貴方にはそれだけじゃないでしょ
貴方を育ててくれた親の事を思い出しなさい
そしてその力をうまく利用するの
心を強く持って」

その言葉に魔鬼はダークシャドウの暖かな笑顔を
思い出す

魔鬼
「っ…うん…俺は、今度はこの力で
誰かを守りたいよ…」

魔鬼がそう言うとセレナは優しく微笑んだ

始まりの場所で二人
また消え逝く世界を見つめていた

魔鬼は大切な人の微笑みを
温もりを思い出しそっと涙を流したのだった


もういない大切な人を想って





FIN

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