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高瀬準太的和さん叙説


「利央…俺、できちゃった…」



部活が終わり、二人きりになった部室。顔を赤らめてもじもじしながら準さんが言ったのは、俺の想像を遥かに超えた意味不明な言葉だった。

「…準さん、出来たって何が?」

「俺と…和さんの愛の結晶」

「はあぁぁぁ!?」

かっかかか和さんと準さんの愛の結晶!?それってそれって赤ちゃ…いやいや準さん男じゃん!出来るわけないじゃん!全く準さんってば何をバカな事を…!また俺を騙そうとしてそんな事言ってんでしょ分かったてんだから騙されてなんかあげないんだからね!

「じゅ、準さんってばまたそんな冗談を…」

「冗談じゃねえよ。ホントに出来たんだ」

「準さんに出来るわけないでしょ!?」

「何だよその言い草は!俺だって気合い入れりゃあ出来るよ!」

「気合いって何だよ気合いってー!」

何度も言い返すが、準さんは真剣な顔を崩さない。
準さんってば本気なんだろうか?本気でデキちゃったのだろうか?いや、でもこれは準さんの妄想かもしれない。そうだよ、想像妊娠だよ!準さんは和さんの事が好きすぎて、そんなとんでもない妄想をしているんだ!
目を、覚まさせてあげないと…!

「準さんあのね、準さんの言ってるそれはただの妄想だよ。早く目を覚ました方が良いよ」

俺が準さんの肩に手を置いて説得していると、準さんは目を怒らせて俺を睨んできた。

「妄想なんかじゃねえ!何なら証拠を見せてやろうか?」

準さんは得意顔で、かばんの中から茶色の封筒を取り出した。よく、サラリーマンなんかが小脇に持っている位のサイズ。

「その中に証拠が入ってるって言うの?」

「ああ。お前には特別に見せてやる。ただし、誰にも言うんじゃないぞ。絶対に秘密だからな」

何だろう。医師の診断書か何かだろうか。準さんは本当に妊娠しちゃってるんだろうか。
ぐるぐると思考が頭の中を巡る中、準さんは封筒の中身を大事そうに取り出した。
差し出された文面に目をやると、そこには驚きの言葉が書かれてあった。


『和さんは何故格好良いのか』


序論

 桐青高校野球部の主将である河合和己は何故あんなにも格好良いのだろうか。日本国民である君達なら一度は疑問に思った事があるはずだ。野球をする姿、勉学に励む姿、学友と戯れる姿…全てが輝いている。
 そこで今回、私は日本国民の永遠の課題である河合和己の格好良さについて調べてみることにした。私が四年間をかけて収集したデータを基に、河合和己の格好良さを徹底解明してみせようと思う。
 近年様々な学会で注目を集めてきている河合和己学。私もこれに一石を投じることが出来ればと思い、この度筆を執る運びとなった。
 本書を手に取っている君達にもより深い河合和己への理解が得られるよう、本書を基に研究に励んでいただきたい。


高瀬準太






「……」

「どうだ!?俺と和さんの愛の結晶!やっと執筆作業が終わってな、今から出版社に持ち込んでみようと思ってんだけど!」

俺に意見を求めてくる準さんの目は、キラキラと輝いていた。

「準さん…妊娠じゃなかったの?」

「はぁ?何訳分かんない事言ってんだよ。それより感想言えよ!大ベストセラーの予感だろ?」

準さんと和さんの愛の結晶。それは、準さんが和さんの格好良さを書き連ねただけの原稿だった。いや…まあホントに妊娠したとかは思ってなかったけどさぁ…。

「印税入ったら和さんと旅行行くんだ、ハワイに!」

ワクワクしながら言う準さんには申し訳ないが、これは…売れないと思う。

「準さん…これ、出版社に持ち込みするのはやめといた方が良いよ」

「何でだよ!俺が四年間集めに集めたデータ満載の、和さん公式ファンブックだぞ!?」

「だからだよ!これただのストーカーだからね!?ここ、176ページ!『和さん家の入浴剤が変わったみたいだ。昨日まではラベンダーの香りだったのに、今日は檜の香りがする』とか、『今日の晩御飯は和さんの大好きなお肉で、和さんはご飯をいつもより149グラム多く食べていた』とか、何で分かるの!おかしいでしょ!?」

「んなの愛のパワーだよ」

「準さんがストーカーしてるからでしょー!?こんなん出版したら、準さんは全国の人に私は河合和己のストーカーですって宣言してるようなもんなんだからね!?」


「ストーカーじゃねえぇぇ!愛ある尾行だー!」

「それがストーカーって言うんだよ!分かれおたんちん!」

部室から出て行こうとする準さんの腰を掴んで止めようとするものの、流石野球部エースだ。俺が腰に掴まっていようと関係無く、ずんずんと進んでいく。俺は引こづられながらも説得するが、準さんは全く聞き入れない。

「誰が何と言おうと俺はこれを出版する!そして和さんに俺の愛を分かってもらうんだ!」

「うあーん止めてー!」


そして準さんがドアに手をかけた瞬間、反対側から誰かがドアを開けた。



「「和さん…!」」

「おー、部室の方が騒がしいからまだ誰か残ってんのかと思ってたんだけど、お前らだったか。早く帰れよ」

部室に入って来たのは和さんだった。もう帰ったと思っていたけど、どうやら監督と話し込んでいたみたいだ。
そうだ、和さんにもこの原稿を見せて、準さんを止めてもらおう!

「か、和さん!準さんを止めて!準さんってばおかしな本を出版するって言ってるんだよ!」

「ばっ、おまっ、和さんには秘密にしてたのに…!」

「本ー?準太が書いたのか?俺にも読ませてくれよ」

「え……はい。どうぞ…」

和さんに笑顔で訊かれると、準さんは急にしおらしくなって手に持っている原稿を渡した。

和さんが原稿を読んでいる間、暫しの沈黙が流れる。
和さんは原稿を読み終えると、顔を上げて準さんの顔を真剣に見つめた。

「準太…」

「…はいっ」

和さん言ってあげて!こんな本絶対に売れないからって言ってあげて!

「この本、面白いな!」

「えええー!?」

「あ、ありがとうございます…!」

「いやー自分の事をこんな視点で見た事なんて無かったから、新しい発見が出来て面白いよ」

「えへ、そうですか?和さんに喜んでもらえて嬉しいです!」

お、おかしいだろー!?どうしてこの夫婦は揃いも揃ってこんなに天然なんだ!和さんアンタストーカーされてんですよ?気付けよー!

俺の決死のツッコミなんて丸無視で、メオトは手を繋いで仲良く帰って行った。部室に俺を一人残して。



後日この原稿は、和さんが「面白いけど他の人に読まれるとなるとちょっと恥ずかしいな」と言ったことから、コピー本にしてひっそりと図書室に置かれる事となった。

でも、今までにその本を借りた人は、一人も居ない。



END





write》天垣 啓様
(Sternchen)

天垣様宅で行われていたフリリク企画に飛び付いてリクエストしました和準小説です!準太が見事に和さんのストーカーと化していて笑いが止まりませんでした…!!公式和さんブック、準太なら作りかねないですからね!本当にあるなら是非欲しいのですが(^^)そして利央のポジションは相変わらずで可哀相で可愛いです!この度は準太の愛が溢れまくっている和準をありがとうございました!!



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