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● 理科準備室で ●


理科室や音楽室などがある西棟。
迅は今、西棟の3階にいた。

(先生も授業で使うものくらい先に準備しとけよな・・・。
それに足が速いからって理不尽だ・・・)

今頃あの教師は残った生徒相手に雑談でも交わしているのだろう。そう思うと、余計に怒りがこみ上げてきた。
しかし、元来真面目な性格の迅は足を緩めることなく理科準備室を目指していた。

理科準備室は3階の1番奥。遠すぎて誰も近づかない場所にあった。

ドアを開けると、実験で使う薬品の匂いが纏わり付く。
少し眉を顰めつつ、目的のものを探そうと足を踏み入れた。

足を奥へと進めると、暗幕が引かれて暗いはずの場所が、電気とは違う明るさを帯びているのに気が付いた。
そっと近づくと、太陽に当たるように座ったままの大勢で寝ている慎吾がそこにいた。
手にはポケットタイプの単語帳があることから、きっと得意な数学などをサボって苦手な英語をしているうちに寝てしまったのだろう。

夏大あと、また明るく染め直した髪の毛に太陽の光が反射した。


しかし、太陽に当たり暖かそうに見えても元々肌寒いこの部屋でずっと寝ていたら風邪をひいてしまうだろう。
そう考えた迅は慎吾を起こそうと軽く揺するが、一向に慎吾は起きない。

「慎吾さん」

呼んでみても起きない。

「慎吾さん、起きてくださぅわっ!」

もう一度、と思い呼ぶといきなり腕を引かれ、慎吾の腕の中に居た。
いつも他の先輩達にいやらしいと言われる笑みを浮かべている慎吾を軽く睨みつける。

「おはよ、迅」
「慎吾さん起きてたんですか」
「起こされたの、迅に」

慎吾は小さな欠伸を噛み殺した。
その様子を見て嘘じゃないと判断した迅はため息をついた。

「こんなとこで寝てたら風邪ひきますよ?」

『ただでさえ受験生なんですから』
そう続けようとした迅の言葉は発されることなく飲み込まれた。
慎吾から施されたキスによって。

「風邪ひいたら迅に看病してもらうから平気。
それより、迅は何しに来たの?」

慎吾にそう問われて本来の目的を思い出した迅は真っ青になった。
教室を出てから15分強。
さすがに教師も不審に思っているのではないか。
ここに来た経緯を話している間も、どんどん時間は過ぎていく。

「あー、その薬品ならどこにあるか知ってるけど」
「本当ですかっ!」

ここをサボり場にするときどんな薬品があるのかを見て回っていたと慎吾は笑いながら言った。

「知ってるけどさ、教えて欲しい?」

意地の悪そうな笑みを浮かべながら言った慎吾を見て、迅はさっきと違う意味で青くなった。
幾度とない経験のお陰で、この笑みを浮かべる慎吾は危険だと分かっているから。
しかし、自分で薬品を探すとなると時間だけが確実に過ぎていくだろう。探し物は苦手なのだ。
そう思った迅は、覚悟を決めて頷いた。

「じゃー教えてあげる。その代わり、今日の昼メシ一緒に食おう」
「え・・・それだけ、っすか?」

覚悟を決めてただけに、優しく微笑みながらご飯のお誘いをしてきた慎吾に迅は脱力した。

「え、他のこともしてくれんの?」
「いや、そうじゃないですけど・・・」

言葉を濁す迅の頭を慎吾は優しく撫ぜた。

「今日はこれだけでいいの。さて、薬品取ってきてやるからそこに座っときな」

そう言って、部屋のさらに奥へと足を進める慎吾を見て迅は小さく呟いた。
『ありがとうございます』
と。

今日は自分から膝枕してあげようかと思った授業中だった。

::: END :::





write》徠様
(紺碧の世界)

徠様から相互記念として身悶える島迅小説を戴きました!授業中で人気のない場所で出会える二人に激しくトキめきます!!慎吾さんも意地悪さより優しさを強く感じられて愛情たっぷりな所が大好きです。昼休みの二人も是非覗いてみたくなりましたから…!きっと迅たんが甘やかすんだろうな(^^)徠様、心暖まる小説をどうもありがとうございました!



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