[携帯モード] [URL送信]


君の笑顔の為ならば


暑い夏の日。クーラーの効いた涼しい教室を出て、わざわざ蝉の煩い中庭まで来て飯を食うのは、愛しいあの子に会うためだ。



「じーんー」
「ひんごはん、ひわっす!」

中庭に行くと、愛しい子はすでに木陰のベンチで弁当を食べていた。早くに朝飯を食べて朝練して授業が四時間、育ち盛りの高校生には堪えられない苦行だろう。迅の方が中庭に来るのが早いため、一緒に食べるように約束をしてからは、早く着いたら先に食べてて良いよと言っておいた。
最初は遠慮していたけど、空腹には勝てないみたいで、最近じゃあ俺がここに来る頃には迅の弁当は半分に減っているようになった。

「あいかーらず食うの早いなぁ」
「あ、すいません」
「いや、そうじゃなくて…よく噛んで、食べるんだぞ。喉に詰まらすなよ」
「はい!」

元気のいい返事をしてからまた弁当を掻き込む迅の頭をくしゃくしゃと撫でて、俺も隣に腰掛けた。
コンビニの袋からパンを取り出しながら、ぐるりと周りを見渡す。流石にこんな暑い日に外で飯食ってるヤツなんてそう居なくて、中庭は空いていた。普段は屋上で飯を食ってる俺達も最近、屋上よりは陰の有る中庭の方が涼しいだろうと避難して来たのだ。

「ごちそうさまでした!」

辺りを眺めながら漸くパンに口を付けた所で、隣からは弁当箱を片す音。驚いて見てみれば、迅は満足そうな顔をして弁当箱を片付けていた。

「はっえーな…。ちゃんと噛んだか?」
「う…は、い…」

野球部の男子なんてもんは皆飯を食うのは早いもんなんだけど、迅はその中でもかなり早い方だ。しかも量もすごい。いつか体だって俺よりデカくなるんじゃないかと心配している。

「……」
「……?」
「……」

迅の顔をジッと見ていると、本人も俺の方をジッと見てくる…けど、視線は合わなくて、迅の視線の先を辿ってみると、その視線は俺が手にしたパンに向けられていた。

「……」
「…迅?」
「…っあ、はいっ?」
「どしたの?」
「あ、いや…。それ、新発売のヤツですよね。昨日コンビニで見たんです」
「……」
「……」



「一口、食べる…?」
「いいんですか!?」

迅が余りにも熱視線を(パンに)送って来るものだから、口を付けていたパンをひょいと差し出すと、迅はパッと顔を明るくして間髪を入れず聞き返してきた。俺が頷くと、迅は少し逡巡したが、ありがとうございますっと礼を言ってパンにかぶり付いた。
食いしん坊な迅が俺の飯を物欲しそうに見てくるのはいつもの事だし、俺の手からものを食う迅が可愛くて飯をあげたくなるのもいつもの事。迅の一口が結構デカくて、しかも他のパンも物欲しそうに見てくるから、迅に飯をやってて足らなくなった俺が後で購買にパンを買いに行くのも最近じゃあ当たり前の事になった。
おかげでパンを一個余計に買うから財布が寂しくなっているものの、美味そうな顔で飯を食う迅を見たら文句なんて出てくる訳が無い。

パンを美味そうに食んでいる迅の顔を眺めながら、そうだ、とコンビニの袋を漁る。いつも中庭に来る前に自販機で買って来るパックのジュースがそこには入っていた。俺はいつもコーヒー牛乳で、迅はいつも牛乳。
迅に初めて自販機でジュースを奢った時、牛乳がいいですと言われたのには驚いた。牛乳をただ飲めば背が伸びるって訳にもいかないのは某レフトを見ているから知っているが、背を伸ばしたいのだろう迅には言う事も出来ず、それからは何となく、一緒に食う時は牛乳を買って行ってやるようになった。

「迅、コーヒー牛乳と牛乳があるけど、どっちがいい?」

答えは分かっているけど、一応聞く。すると、今日はイレギュラーな返答が返ってきた。

「あ、えと…じゃあ、コーヒー牛乳で」
「…え?」
「へ?」

今日も牛乳を飲むんだろうと思って牛乳のパックを出そうとすると、迅は今日はコーヒー牛乳をご所望らしい。珍しいなと思いながらよくよく考えてみれば、迅にコーヒー牛乳をあげると、俺の手元に残るのは牛乳な訳で…。


…いや、この年になって牛乳が飲めないとか、そんな事は決して全く1ミリも無いんだけど!…無いんだけど、さ、牛乳ってあんま好きじゃ無いんだよな…。
迅は今日も牛乳を飲むだろうと買ってきたのに、まさかコーヒー牛乳を欲しがるとは思っていなかった。とは言え自分からどっちが良いかなんて聞いといて、牛乳飲めないだなんて言えない。

「…慎吾さん?」
「迅、今日は牛乳飲まないんだ」
「…たまにはコーヒー牛乳飲みたいなと思って…」
「……」
「あの、俺やっぱり牛乳飲みま…」
「いやっ!コーヒー牛乳飲んでくれ!」

迅が遠慮してそう言うものだから、俺は慌ててコーヒー牛乳を差し出した。迅の前でカッコ悪い男になる訳にはいかない…!
若干無理をしながら笑ってやると、迅は安堵したように笑って礼を言い、コーヒー牛乳を美味そうに飲む。


そんな幸せそうな顔されたら、もう何も言えないよ。


「慎吾さん、牛乳飲まないんですか?」
「ん、おお、飲むよ」
「牛乳美味いですよね!」
「…そうだねー…」



その笑顔を前にして、俺は君の奴隷になるんだ。



END





write》天垣 啓様
(Sternchen)

天垣様宅からフリー小説をお持ち帰りさせて頂きました!『迅たんが少し我儘で権力握ってる島迅』はアンケにて自分がコメ欄に書かせて頂いた内容なんですよ。もう天垣様の迅たんは我儘っぽくても可愛いです!!特にわざとじゃない感じが伝わってくるのがたまりません!牛乳とかさり気ない事でも慎吾さんは迅たんに頭上がらないと良いな(^^)天垣様、本当にありがとうございました!



TOPへ戻る



あきゅろす。
無料HPエムペ!