ちっちゃくなりました(六才)
※才蔵が外見だけ幼児化
※才蔵視点
昨日、徳川の刺客と戦闘になった。その際に敵方の刃物が腕を掠めたが、無事に倒して、念のために傷口に唇を宛がい毒を吸い出した。完全に吸い出したつもりだったが、多少残っていたらしい。昨晩は高熱でうなされ、伊佐那海がかいがいしく世話をしてくれた。
その結果がコレだ。
「才蔵っ、かわいい〜!」
背後からぎゅうぎゅうと抱き着いてくるのは、看病してくれた伊佐那海。む、意外と胸あるな。いやそうじゃなくて。
「なんでちぢんでるんだ、おれ…!?」
きゃあきゃあはしゃぐ伊佐那海を無視して自分の手を見つめる。紅葉のような手。短い手足。体のどこもぷにぷにしている。ああ、俺の鍛え貫かれた肉体よ、何処へ行った?
鏡を見れば、三〜五才くらいの子供の自分。恐らく、弁丸の身長の半分くらいか。
「才蔵、服どうしよっか?」
「ん?あー、がいとうでも着ておくか」
そう言うと伊佐那海が俺の外套を取り、上から被せてきた。
……まぁ、想像は出来てたよな。
「外套の首周りからすっぽり脱げちゃうよ…」
「まさか服に着られることすらできねぇとは…」
困ってしまった俺達の元に、毒でうなされていた俺の様子を見に他の勇士やオッサンが訪れる。
瞬く間に、俺が縮んだ話が上田城に広まった。
□■□
とりあえず、俺の服に関しては六郎サンが小姓になった当時の服を改造して用意してくれる事になった。外套を被り、腹の辺りを帯で巻く事で押さえ付ける。かなり不格好だが仕方ない。
縮んだ事で勇士の皆やオッサンに玩具にされかけたが、六郎サンの一喝で何とか助けられた。やっぱり頼りになるなぁ、と服を用意してくれると言う彼に着いて行く事にした。
部屋に入ると六郎サンの隣に座り、針仕事をする手元を覗き込む。ちくちくと糸が通る様を見ていると、手際の良さに思わず感嘆の息が漏れた。
「さぁ、出来ましたよ」
「おおっ、はやいな。ありがとう」
服を受けとろうとしたら、「はい、手を上げてください」と幼子に服を着せるようなあやす声で言うので、ムキになって服を奪う。
「がきじゃあるめーし!ひとりで着れるよっ!」
「そうですか?」
「そうだよっ!」
服を広げて袖を通す。ちょっと大変だったのは内緒だ。着た服は布が薄い生地なのか寒い。肩を摩ると、今の俺に大きさが合った外套を掛けられた。六郎サンの綺麗な指が、首の前で釦を止める。
「これくらいは許してくださいね」
「お…おう」
パチン、と音を立てて、最後の釦が止まる。手が離れると、その場で屈伸したり腕を回したり跳ねたりと、動き易さを確かめる。
「…うん、うごきやすい。ありがとな、六郎サン!」
「どういたしまして。これからどうするんです?」
「そうだなー…」
真っ先に調べたいのは、昨日の刺客の武器だ。奴の毒のせいでこうなったのだから。しかし相手も忍。最期は崖の上で自害をし、そのまま崖下へと落下していった。
ぶっちゃけ、解決策が無い。
時間が解決してくれるのを祈るしかない状況。やる事が無いのだ。
とは言え、この体で鍛練するのもどうかと思うし。
腕を組んでうんうんと唸っていたら、目の前にお菓子が出された。差し出した六郎サンはにこりと微笑む。
「とりあえず、お茶にしましょう。飲みますか?」
「のむっ!」
短い腕を俊敏に上げた。それから我に返る。まるで見た目通りの子供じゃねぇか。腕を上げたまま硬直する俺を、六郎サンはくすくすと笑う。今なら恥ずかしさの余り地中に埋まれる。ゆるゆると手を下ろし、その場に縮こまって座りこんだ。
六郎サンはお茶を入れると、他にも茶菓子を出して、俺に手招きをした。誘われるまま近付くと、俺を誘導する手はある場所をポンポンと叩く。
ある場所とは…六郎サンの膝の上。
「だからっ!がきじゃねーんだよ!」
「伊佐那海には大人しく抱っこされていたくせに」
「うっ…あ、あのときはオレもこんらんしてたし…」
「………」
拗ねた隻眼が非難がましく見つめてくる。
「………」
じーっと。
「………」
だだ、じーっと。
「………」
……うぅ。
俺はちまちまと歩くと、六郎サンの膝の上に遠慮がちに座った。借りてきた猫みたいに。
こっちは羞恥で埋まりたいくらいなのに、六郎サンは何も言わない。顔を確認する為に見上げると、随分と緩んだ顔が俺を見下ろしていた。
「な、なんだよ?」
「可愛いな、と思いまして」
「…ガキだからな」
「才蔵だからですよ」
頭を撫でられ、剥き出しにされた額にちゅっと口付けられた。熱が顔に集中する。口をぱくぱくとさせる俺とは対称的に、六郎サンは楽しそうに茶菓子を口の中へと放ったのだった。
再録13/05/31
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