其之七 人には闘争の本能がある。だけど本能の望みに反して、働かない頭は一応方法を考える。 考えながらも目は彼を捕らえ、動きを予測して最小限の動きで斬撃を避けていく。 が、最小限にし過ぎたらしい。 彼が振るう刀の風圧で私の前髪が靡き、目が合った。 彼の瞳が驚き見開かれる。 私は刀を鞘に戻し左手に持った。 「な…!?」 出来れば気付かれずにいたかったのに。 他の方法で話し合いにしたかった。 あとで気付た事だけど、梵天時代の彼に優しくしたのは、同じが嫌なのと、もう会わない前提の気紛れからだった。 多少の罪悪感くらい、まだある。 …それでも利用するんだろうけど。 刀を振る腕を止め、私を凝視してくる。 「…あんた、」 「流石は伊達政宗殿じゃ!」 彼が何かを言おうとした所に他者の声が被さった。 何処か他人に不快感を与える声が坂の下から聞こえてきた。 「一揆の首謀者は疲労し切っておるし、後はその者だけですな」 村の人達は皆、気を失ってる。 夢中だったから来た時は気付かなかった。 「下賤の民が一揆など起こしよって」 いつきちゃんの方を見ながらそいつはそう言った。 私が、どんな目で見ているかにも気付かずに。 気付かれた時、前髪を耳に掛けた所為で胴欲な人間独特の濁りきった目がよく見えてしまう。 自分の欲望を満たす事しかしようとしない、本当の意味で生きようとしない、ただあるだけの人間の目。 …あいつ等と、同じ、濁った、目。 きっと、あれが大葉鹿之介。 名は体を表すとは良く言った事だ。 あいつが視界にいつきちゃんを入れている事が酷く気に食わなくて、大馬鹿に向って足を進める。 伊達政宗は、動かない。 「な、なんだ!お前は!」 いつきちゃん達から、5メートル程離れた位置までソイツは来ていたから、少し歩くだけでよかった。 この位置だと、普通に話していればいつきちゃん達には聞こえない。 [*前へ][次へ#] |