生きる事と在る事壱 始まった、か。 吹雪がまた細雪になったのを眺めながらぼんやりとそう思った。 あれから二日の今日、愚かな領主がきた。 離れた場所から聞こえる人の声にいつでも動ける準備をする。 今回は面が無いので後の面倒を避ける為コートに付いてるフードを目深に被り、前髪を止めていたピンをはずして目を隠す。 相手から目は見られないから、私を覚えられる事は無いだろう。 此方の視界も悪くなるけど、人の形さえ見えれば良い。 武装で村人との見分けはつくし、流石に表情は分からないけどそんな所まで見えなくても戦える。 寧ろ何の情も湧かなくて楽だ。 時間がどんどん過ぎていく。 運ばれた怪我人も少なく、彼等の話に因ると圧倒的に此方が優位らしい。 作戦の通り、油断していた侍達は悉く罠に嵌り捕らえられる。 問題は、領主。 自分の面子の為に此処に来るのは分かってる。 いくら侍を捕まえたって、領主本人に年貢の事を認めさせないと意味が無い。 此処の領主、大葉鹿之介を捕まえられたら成功。 捕まえさえすれば年貢の事は軽くしてやれる。 …人の恐怖心を煽る事なんて本当に簡単な事だから。 「梨乃姉ちゃーん!」 考え事をしている内に大分静かになっていた。 長い間考えていたらしい。 「梨乃姉ちゃん、逃げられただ!」 『え?』 いつきちゃんの話に因ると、作戦は大成功だったらしい。 混乱している侍達は簡単に捕まえる事が出来たし、浮き足立つ相手に戦うのは楽だったらしい。 予定外だったのは、大葉鹿之介の性格。 プライドばかりが高くたいした実力は持たないらしい。 いつきちゃんが少し戦闘したらしいが、自軍が不利だと知ってすぐに逃げ出したらしい。 いつきちゃんがあまりの逃げっぷりに呆然としてる内に逃げてしまったらしい。 逃げ際にまた来るらしい事を言っていたが、その時に限っては根拠のあるらしい自信を持っていたそうだ。 援軍でもあるのか…? 「すまねえだ…」 『いや、大丈夫。 とりあえず次ぎに備えて皆を休めて。 後、今度は踊りとかの奇策が効かないだろうから普通の伏兵が主ね。 それと、今度は私も動くから。 いつきちゃんは坂側もう一方は私が護る。 もし危なくなったらすぐ知らせてね』 橋の弓兵は増やさなきゃ…。 …次は、強い奴が来る気がする。 [*前へ][次へ#] |