其之四 『違うよ…』 いつきちゃんから刀を受け取りながら、そう返事をする。 「ならなんで刀なんか持ってるだ」 当然だけど、信じてもらえない。 不審感を声に滲ませ問われ、受け取った刀に視線を落とす。 沢山の血を吸ってきた刀の、真っ黒な鞘に薄く彫られた紅目の黒猫。 私の象徴に手を添えて、その上をスッと撫でる。 滑らせた手から鞘の手触りを感じると、炎が寄こす明かりを黒猫の紋が反射する。 刀、武器を持つ理由…。 普通なら必要の無いあの世界に居た私がコレを持つ、理由。 私が、人を斬る理由。 …護る事と警告。 黒猫から、警告と不幸を与える事。 『大切な妹を、護る為…かな』 脅迫の為には、圧倒的な強さが必要。 力において、有利な立場。 傷付けようとすれば制裁を。 言葉にして、実行する。 この手の脅しは実行しなければ、その効果は失われ、あの子が傷付いてしまう。 これ以上無いって程に、傷付けられて、壊れてしまった藍色。 せめて、その形だけでも護りたい。 「妹が居るだか?」 『うん、大事な大事な(壊れてしまった)妹…』 あんな事が起こらなかったら、今もまだ光の中に居たはずの妹。 藍混じりの髪を靡かせ、光を吸収して海の様な輝きを持った瞳を細めて笑っていた子。 起こらなかったら、なんて有り得無いけどね…。 『…君は、侍が、嫌い?』 答えの分かりきった問をまっすぐと、動揺に揺れるいつきちゃんの瞳を見てぶつけた。 [*前へ][次へ#] |