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casual tenderness(師アレ)
はぁっはぁっ
ここはロンドンの郊外、今は12月。
極寒の夜。
十分な防寒着も着ていないみすぼらしい格好の一人の子供が、白い息を吐きながら、
石畳を思いっきり蹴り、借金取りから逃げていた。
「待ちやがれー!」
「借金返しやがれー!」
「クロスの弟子ー!」
背後からいくつもの怒声を浴びせられ、
それに構うことなく、全力疾走する子供…もといクロス・マリアンの弟子、アレン・ウォーカー。
ふと、右に人一人、入れるか入れないかの…いわゆる猫の散歩道的な細い通路を見つけ、後ろの彼らの隙をついてそこに隠れた。
借金取り達は予想通り気付かずに行ってしまった。
ひとまずまけて安堵のため息をはくアレン。
こんな事はもう慣れた。
クロスの正式な弟子になって二年。
各地を転々としながら一緒に行動してきた二人。
と言ってもまともな修行などさせては貰えず、主に彼の身の回りの世話と、彼がこさえる膨大な借金を返すために働くか、新手の借金取りからこうして逃げ惑いなんとかやり過ごしたり…
そんな今日生きるので精一杯な生活を強いられて、自分のことなど省みる余裕すらなかった。
「…はぁ、寒い…」
走って火照っていた体は、いつの間にか冷えてしまい、途端に寒さがその身を襲う。
体を小さく縮こませてなんとかしのごうとするが、なにせ今は真冬のロンドン。
石畳の冷たさが足元から子供の体を蝕んでいく。
その底冷えするような寒さに、流石の彼女も辛くなってきた。
加えてここ二、三日はまともに食事をしていなくて…
自然と瞼が重くなってゆく…
あ…駄目…眠っちゃう…
ここで眠ったら…
あ、でもそしたらもうこんな借金取りに追われるような生活しなくていいんだ…
って…何考えてた僕…!
しっかりしなくちゃ…
…しっかり…
でも眠い…
も…限…界…
…マナ…
師匠…
…師匠?
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