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この気持ちの名は






「ねぇ、紅茶はまだなのかしら?」

「スコーンは勿論ブランド店のものよね?」

「あら、ありがとう。もう用は無いんだから出てって良いわよ」





やはり私の直感は正しかった。
この女は私の嫌う奴の全てを持っている。
自分の自己紹介が済んだ途端、私の名前すら聞かずに紅茶出せだのブランド品じゃなきゃ嫌だのと我が侭を言ってくる。
仕舞いには用が無くなったから出て行けとまで言ってきた。
こんなに殴りたいと思った女の人は初めてだ。




「お父様がなるべく早く式をあげて欲しいって言ってたわ。私も賛成よ。貴方を誰にも取られたくないもの。」

「うーん…今あと少しで何か掴めそうな事があってさ。まだ式は挙げれないよ」

「私でよければ手を貸すわ。……ねぇ、そこの貴女。いつまで私と白蘭の邪魔をするの?」




白蘭の腕に絡みながら勝ち誇った顔をして言った。
白蘭も白蘭だ。
彼女にベタベタされているのに嫌そうな顔をしていない。




『…申し訳ありませんでした。今すぐ退出致しますので、どうぞごゆっくり。』




深々と頭を下げ、二人を見ないようにして部屋を出た。
彼女のどこがいいんだろう。
確かに凄くお似合いの美男美女のカップルだ。
何故か出てきた涙を堪え、この胸の苦しさが何なのか知っているだろう人の所に訪ねるべく足を進めた。



***




「落ち着いたかい?」

『…うん。ありがと、アイリス姉』

「大事な名前の為だからね、当たり前さ」




そう言って優しく私の頭を撫でた。
暖かい彼女の手が心地良い。
いきなり駆け込んだにも関わらず彼女は優しく迎えてくれた。
落ち着くように、と温かいココアまで淹れてくれたのだ。




「それで?その女が白蘭様にくっついてるのを見て苦しくなったのかい?」

『うん…』

「鈍いとは思ってたけどここまでとはねぇ」

『…アイリス姉?』

「名前、アンタはその女に嫉妬してる」

『…私があの人に?』

「そう。……何でか分かるかい?」

『?』

「それは、」




アイリスの顔は真剣そのもので、そんなに大事なのかと不安になる。
そして私の目を真っ直ぐと見つめ、口を開いた。




「名前が白蘭のことを好きだからだよ」

『…え?は?ええええええええ?』

「ほら答えは出たよ!なら次にやるべき事は何だい?」

『っ…私、あの人に負けない!…ありがと、アイリス姉!私、行ってくる!』




ガタッと椅子から立ち上がり部屋を飛び出す。
白蘭の所に急いで行かなきゃ。
それであの女よりも白蘭の近くに居よう。
簡単には奪わせないんだから。




「行ってらっしゃい、頑張るんだよ」




名前が部屋を飛び出して行き、一人残ったアイリスは深い溜息を吐いた。




「全く、世話の焼ける奴らだよ」




***




急げ、早く、早く。
あのアリシアとかいう人に時間を譲っちゃいけない。
彼女は言わば恋敵。そんな相手に一秒でも譲ってしまうほど私は優しくない。
心の中でずっと悶々としていたが今は何故かスッキリしている。
例えるなら霧が晴れ、ようやく美しい風景を目にする様な感じだ。
私は白蘭が好きだ。もう一度心の中で唱えて深呼吸をする。
そして曲がり角に差し掛かった瞬間、首に痛みを感じたと同時に意識が薄れていく。
やだ、待って。私はまだ伝えられてないよ。
体は私の願いに応えず、意識はそこで途絶えた。





この気持ちの名は


(伝えたいことがあるの。)
(ねぇ、好きだよ。)



  


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