レッド★ライン
9
そうしてベッドに座るユーリに手を伸ばした男は、まるで何かを確かめるようにユーリの黒髪をさらりと撫で頬を滑っていく。
少しかさついた指先が頤にかかりクイッと引かれ、目を向けた先には青みがかった緑の瞳が煌めいている。
視線がしばらく交錯した後、男の顔がにっこりと笑みの形になった。
「もう喧嘩しちゃダメよ」
見目に反して耳に響く声はそう低くくもなかった。よくよく男を観察してみれば、ぼさぼさの黒茶色の髪を後ろで適当に束ね、顎には無精髭まである。
だらしなく服を着こなしている姿が日常的なのか、それともプライベートなのか今のユーリには判断出来ない。
そもそも男が誰なのかすらユーリは知らないのだ。
「したくてしたんじゃねぇ…」
言われた内容が内容なだけにユーリは不貞腐れたようにそっぽを向いた。しかし男はそんなユーリの態度は気にならないらしい。
「そー?まあとにかく綺麗な顔に傷がつかなくて良かったじゃない」
「・・・おっさん眼科行った方がいいぜ。明日行ってこいよ」
げんなりしたようにユーリはそう言った。男である自分に綺麗という単語を使われても素直に喜べるわけがない。
逆に薄寒くなるだけだ。
男はやはりユーリの初対面にしては少し失礼な態度を気にすることもなく「おっさん目は結構良いほうよ?それに、おっさんじゃなくてレイヴンな」前半の言葉は右から左へ流れたが、後半の言葉にユーリは思わずレイヴンと名乗った男を見やった。
「レイヴン…」
目の前の男はレイヴンと言うのか。
口に乗せて声にするも呼び慣れないためか違和感がある。レイヴンと呼ぶよりも既に"おっさん"と呼ぶほうが呼びやすくなっているようだ。
「で、青年の名前はなんていうの?」
「ユーリ」
「ユーリ…ね。思った通り響きの良い名前だ」
自分の名前を褒められユーリは違う意味でまたそっぽを向いた。
髪の毛が下りていて良かった。
もし結っていなかったら耳が赤くなっているのを知られていたことだろう。
視線の逸れたユーリをレイヴンは楽しそうに見つめる。
『最初は男にしては綺麗な顔が気になっただけなのになぁ…』
するとレイヴンがずっと見ていたからかユーリが物凄く不機嫌な目で睨んできた。
それがさして恐くもないと言ったらきっと怒りそうだ、とレイヴンは内心でひっそりと思った。
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