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機械仕掛けの恋。



 ブラウン管の向こうの賑やかな声、いつもなら気になって見る番組なのに今はあまり見る気になれなかった。

 その代わりに要は隣にいるユアンに視線を向けた。
 すると、ユアンもこちらを見ていたのか蒼い瞳にぶつかった。青黒色の髪の向こうの瞳が真っ直ぐに要を射いていた。

 テレビを見ているものと思っていただけに、要はあからさまに眼をうろうろとさせる。
 そんな要をユアンはじっと観察するように見つめた後、要の手にあるマグカップをソッと取り上げ机に置いた。

「ユアン……? どうし、」
「要、何があった? 帰って来てからまともに眼を合わせないのは何故だ」

 要の言葉を遮ってユアンが淡々と言う。声音に心配する色が含まれているのが分かり、要は眼を見開いた。
 普通にしているつもりだったのに、ユアンは要の様子がおかしいことに気付いていたのだ。

「隠し事があれば直ぐに分かる。要はまるで変わっていないからな」
「なんかそれ、昔から俺のこと知ってるみたいな言い方だ」

 ユアンが要のことを昔から知っているわけがないのに、どうしてユアンはそんなことを言うのだろうか。
 そういえば要自身、ユアンのこら知っているような感覚を抱いたことがあった。
 あれは、風邪をひいた時だ。

「……思ったままを言っただけで意味はない。それより何を隠している」
「別に隠してるわけじゃない」
「じゃあなんだ? 言ってみろ」

 理由を聞くまで問い詰めそうなユアンの様子に、要は出掛けた先で見たニュースの内容をかいつまんで話した。話し終わるとユアンはソファに凭れて何か考えているようだった。

 要はその間、机に置かれたマグカップを取り中身を一気に飲みほした。テレビは変わらず旅番組をやっている。

「要」

 ユアンが短く名前を呼んだ。

「なに?」
「これから学校以外で出歩くときは俺を連れていけ。それから知らないアンドロイドに話し掛けられても無視した方がいい」
「それって、アンドロイド事件に関係してる?」

 要が聞くとユアンは眼を少しだけ細めた。

「用心のためだ」

 それだけ言って詳しいことは何も言わないユアンの態度に、寂しさと不安が沸き上がる。それでも一番気になっていたことを聞きたくて、要はユアンを真っ直ぐに見つめた。

 けれど、ユアンはいつもの無表情な顔に苦笑を浮かべていて、

「俺が大丈夫なのか知りたいって顔をしている」

 今まさに要が聞こうとしたことを言い当てられて、思わず「なんで分かったんだ?」と疑問が口から飛び出す。

「要が単純だからだろう」
「なんかすごい馬鹿にされてる気がする」
「馬鹿な子ほど可愛いという諺があるから気にするな」

 そうしてユアンは気障ったらしく要の髪の毛を一束掴み、毛先に口づけを落とした。そんな姿さえユアンがするだけでひどく様になっているのが憎らしい。

「フォローになってない!!」

 要は髪の毛に触れているユアンの手を振り払い、乱暴に立ち上がってリビングを出た。自室に戻る間、耳がすごく熱い気がした。



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あきゅろす。
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