機械仕掛けの恋。
9
学校が終わった頃、約束通り斎が訪ねてきた。
要は斎を部屋に案内してからキッチンに行き、ユアンが入れておいてくれた麦茶を取りにいった。
麦茶を入れるくらいなんてことないのに、それさえもユアンは要にさせてくれない。
溢すとでも思っているのだろうか。
とりあえず急いで麦茶を持って部屋に戻ると斎が机にノートを出しているところだった。斎に麦茶を手渡し、要も麦茶を手に机の前に座った。
斎はグイッと麦茶を口に流し込んだ後、要を見てからかうように言った。
「思ったより元気そうじゃん」
「寝てばかりいたからね。よくなってくれないと困る」
要も麦茶を一口飲んでから答える。
冷えた麦茶に喉が潤い、要は二口三口と飲んでいく。
「ふーん…なるほど、そりゃ姫君の仰る通りだ」
いきなり斎の芝居じみた言葉に要はプッと吹き出すように笑った。
「姫君って!おまっバカじゃないの…ハハハ似合わないって!やべぇ笑いすぎて腹いたくなった」
「バカにバカとは言われたくないんだけど…それにサラッと失礼なこと言ってね?」
笑い続ける要に斎はやれやれとばかりに頬杖をつく。
実際、要を見るまで心配していたのだ。昨日も学校が終わってから直ぐに要の家に行ったのだが、出てきたのは見知らぬ男だった。
斎は一目でその男が毎日要にあの弁当を作っている奴だと理解した。
そもそも要がバランスの良い御飯を毎日作れる訳がない。
家庭科が2なんだから。
「おい要、これが授業のノートな。後はこれとこれに…これだな」
「うわぁ本当ありがとな斎!」
要は渡されたノートをペラペラと見ていく。どのページも分かりやすく纏めてあるうえに見やすかった。
もしかすると要のノートより分かりやすいかもしれない。
「んで、明日から学校来れんのか?」
「熱も下がったし、明日からは学校に行くよ。バイト先にも顔出しておきたいし」
さすがにユアンも学校を休めとは言わないだろう。それに風邪をひいていたとはいえ、ただ寝るだけの生活は要にはつまらなすぎだった。
「じゃあ、明日は俺様が特別にイチゴミルク奢ってやるよ」
「本当に?!」
要は嬉しさのあまり身を乗り出すようにして斎に詰め寄った。
「後になってやっぱり無しにしようとか言うなよ!」
「ああ、俺は約束は守る男で通って……」
「ん、なんだよ斎…?」
いきなり黙りこんだ斎に要は首を捻る。後ろに何かあるのかと思って振り向こうとしたら、逆に斎にシャツの襟を引っ張られてしまった。
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