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機械仕掛けの恋。



 トントントン、かたかた。
 包丁がまな板を軽やかに叩く音と鍋の吹き零れる音。

 今では聞き慣れた朝食の芳しい匂いに誘われて要はぼんやりと目を覚ました。目覚めたばかりの頭は重たくて、緩慢な動作で寝台から出た要はふらふらと匂いのもとへ向かった。

「ユアンー…おはょ」

 キッチンで朝食の用意をするユアンの後ろ姿に声を掛けて、そのままキッチンを通りすぎ洗面所で顔を洗う。
 冷たい水が否応なしに要の目を覚まさせる。手を伸ばした先には畳まれたふかふかのタオル。それで水滴を拭き取り鏡を見て軽く髪を整えた。
 寝癖は…ないな。
 そう判断して後ろを向いた要だが後ろ髪の一部がぴょんと不自然に跳ねていた。それを指摘されるまで要は全く気付かなくて、苦笑混じりにユアンに直されたのがちょっと悔しい。

「ん…ユアンってなんでも出来るんだね、もぐ」
「話すか食べるかどちらかにしろ。俺はアンドロイドだからな。家政婦機能も当然プログラムされている」

 口に入れたまま話す要に呆れつつユアンは答える。
 アンドロイドがいるといないのとでは生活が目に見えて違うのだと要はつくづく思った。
 なんでもやってくれるアンドロイド。プログラムされた通りのことを完璧にこなし、人間のために奉仕し続ける存在。

「ユアンって他にもなんか機能ってついてるの?」

 ゴクンと呑み込んでユアンに言うと考え込む姿をした後に、

「そうだな…例えば、射撃に格闘技他体術、各種運転技術に後は…」

 一呼吸おいて要を見据えてくる瞳は何を考えているか分からない。じっと要を見てからユアンは口を開く。

「…人殺しの技」

 途端に食事をする手が止まってしまった。
 ピキッと固まってしまった要をどう思ったのかユアンは「冗談だ。アンドロイドは人間を殺せない、子供でも知ってる」言って要の頭を撫でる。

「ユアン性格悪ッ!」

 からかわれたのだ。

「アンドロイドに向かって性格も何もないだろう。そんなもの言うだけ無駄だ」
「ばかユアン!」
「はいはい。それよりも早く支度したらどうだ?要。遅刻しても知らないぞ」

 ユアンに言われて時計を見た要は、慌て残りの食事を腹に詰め込んだ。
 本当に早く出ないと遅刻してしまいそうな時間だった。
 バタバタと部屋の中を走り回って、鞄を引っ付かんでユアンから弁当を受け取って急いで靴を引っかけて履く。
 しかし急いでいる時に限ってなかなか履けないのがもどかしい。
 扉越しにユアンに「いってきます!」と声を掛け走るように要は学校へ向かった。
 バタンと閉ざされた扉。

「変わらないな、かなめは」

 ユアンは懐かしむように目を細めた。



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