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機械仕掛けの恋。
11*


 どうしたの?と聞く前にユアンの撫でている手首が、ちょうど斎に掴まれていた場所だと気付いた。
 痕はついていないはずだ。
 けれど、労るように何度も撫でてくるユアンの指先は、ひんやりと冷たい。それが要には心地よくて、くすぐったかった。
 しばらく撫でた後、ユアンは手首を離して「ご飯が出来ている」と短く言った後、キッチンの方へと歩いて行った。
 要はユアンの背中を見ながら、手首に残る指先の感触を追うように、その場所を一撫でしていた。ひんやりとしていた感触はすぐに消え、ほんのり温かい自分の体温に変わってしまった。


 斎は要の家を足早に出た後、止まることもなく歩き続けた。でもそれも要の家が見えなくなる頃には、しだいに緩やかになり、遂には立ち止まってしまっていた。
 急に立ち止まった斎に人がぶつかって、何か言っているが、斎の耳にはただの雑音でしかない。
 考えたくないのに頭の中を占めるのは、先程見た要の首筋についているもので。
 あれは…間違いなくキスマークだ。
 一体誰がつけたんだ?そう思った途端、胸の内がムカムカとしてきて、気付いたら要を問い詰めていた。
 いまだに親友の立場を失いたくなくて、ぐずぐずとしている自分がそんなことを思うなんて馬鹿げていると思う。
 でも、要の側にそういうことの出来る存在がいると、考えただけでも頭がおかしくなりそうな自分がいた。
 前々から要の側に誰かいると思っていた。けどまさか自分同様に要を恋愛対象として見ている者だと思わなかったのだ。
 首筋の痕は明らかな執着。
 斎は抑え難い感情を身の内で持て余していた。

要を自分だけのものにしたい―――。
ずっとずっと自分の側にいてくれたらどんなに幸せだろう、と。

 でもそう思ったところで斎は唇をかすかに歪め、立ち止まっていた足を動かした。

 斎が家の扉を空けて中に入ると濡れた息遣いと肉のぶつかる音が耳に入ってくる。それはいつものことで、もう慣れた"日常"になっていた。
 息遣いがするのはリビングのソファの上。近付くに連れてギシッとソファが悲鳴をあげて、肉音がリズムを奏でる。
 しばらくして、どちらか分からない低い声が唸った。後に聞こえるのは荒い息遣いだけだ。

「父さん、またヤってんの?」
「…斎か。なんだ混ざりたいなら…混ざらせてやるぞ…ック」
「遠慮する。それに、あいにく人形抱く趣味はねぇし」

 父親とその父親に組み敷かれている白濁濡れの美青年を横目に、斎は階段を登って部屋に入った。途中、ソファが軋む音がしたからまたヤっているんだろう。
 斎は部屋に置いてあるコンポの音量を上げ続けた。



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あきゅろす。
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