機械仕掛けの恋。
10
「ちょっ……!!ッて」
急に引っ張られたことで机に肘をしたたたかに打ちつけた。
要は一体なんだ?!とばかりに眉を寄せて斎に目を向けた。
なのにその斎がどことなく怒っているような雰囲気になっていることに驚いた。
むしろ怒りたいのは要の方である。
肘がジンジンと痛いんだから。
なにやらじーっと首筋を見ているようだが、さすがにシャツの襟を引っ張られたままは良くないだろう。
結構気に入ってるシャツだから尚更襟が伸びるのは困る。
「いつ…「これ、なに?」
要の言葉を遮るように斎が声を出した。
要は言われた意味が分からなくてポカンと怪訝な表情になってしまう。
なに?とはどういう意味なのか、そういえば斎は首筋を見ていたからそこに何かあるんだろうか。
そう思って何度か手のひらで首筋を擦ってみるが、これといって何も感じない。
そうして手のひらを戻そうとした時、ガシッと手首を斎に掴まれた。
痛いくらいの力で要の手首を掴む斎の表情はどこか暗く、何かを抑えるように、けれど目だけは射抜くように要を見据えている。
斎は親友の筈なのに、まるで知らない他人のように見えた。
「え…っと、なんかあるの?」
掴まれた手首の痛みに眉をよせたまま、要は素直にそう聞いていた。実際、斎が何を気にしているか分からないのだ。
なら聞いた方が早い。
「……いや、なんもねぇ。わりぃ俺の見間違いだったみてぇだわ」
少しの間を置いて斎は口の端を上げて笑った。その時の斎は普段から知る斎で、先程までの雰囲気はもうどこにもなかった。
そうして掴んでいた手首を離し、手首に痕がついていないか確認すると立ち上がり「じゃあ俺帰るな。明日は約束通りイチゴミルク奢ってやるよ」と言って、鞄を手に部屋を出て行った。
要は慌てて斎の後を追い玄関に向かった。
「斎!!ノート本当ありがとな」
「気にすんな。俺はお前の親友だぜ?明日学校でな」
「うん」
斎を見送って部屋に戻ろうと振り返るとユアンがちょうど部屋から出てきていた。
多分またパソコンでも弄っていたんだろう。要はユアンに駆け寄り笑いながら「ユアン、またパソコンしてたの?」と聞いた。
「ああ。それよりまだイチゴミルクが好きなのか…?」
「イチゴミルクというより、甘いものが好きなんだ。っていつから聞いてたの?!」
「あれほど騒がしい音を立てれば自然と聞こえてくる」
ユアンはおもむろに要の手首を掬い上げ、すっと撫でた。
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