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機械仕掛けの恋。



 ユアンと暮らし始めて一週間。
 驚いたことに拾った次の日からユアンはせっせと家事をするようになった。今までそれなりに家事をしてきた要は、ユアンだけに任せるのはさすがに気が引けたため、それとなく「分担してやらないか?」と提案してみた。
 しかし、聞いた途端にあらかじめ用意してあったかのように「必要ない」と言われて以来、要が家事をすることは少なくなった。
 やろうとすれば、絶対零度の眼差しといっても過言ではない瞳で睨まれる。

 例えば、キッチンで夕食を作るユアンを手伝おうとした時のことだ。
 焼き魚の焼き加減に気をとられているユアンのかわりに、まな板に置かれた大根とその隣に置いてある見慣れた道具、要はそれらを見て大根おろしを作るんだろうと当たりをつけた。
 そうして要が大根をすろうとした時、焼き魚を見ていた筈のユアンが「要!」と声をあげ、鬼のような形相で―あくまでのようなだ―睨まれた。
 普段から表情も変わらないし、声を荒げることもないユアンのそれに要は驚いた。
 あまりの迫力に持っていた大根をするりと落としてしまったくらいだ。

 無言で向こうへ行けという視線に気落ちして、おとなしく面白いとも思わない番組を見ること45分。
 呼ばれてキッチンに行くと美味しそうな夕食がテーブルに一組置いてあった。件の大根おろしは焼き魚の隣に醤油をかけて盛り付けてある。
 ユアンに促されて食べた夕食は要が作るものより百倍も美味しかった。
 しかし素直に「美味しい」というのも悔しくて、でも要の様子を窺うユアンに何か言わないといけないのも確かで、要はボソッと感想を言った。
 聞こえるか聞こえないかの「次もまた作って」という要の言葉にユアンは少し笑ったように見えた。

 万事食事がこんな調子であるから掃除くらいは手伝いたい。そう思ってした掃除もユアンに取り上げられてしまった。
 ユアンが要と暮らし始めて一週間も経つ頃には、ユアンがあれよあれよと家事全般を担うことになっていたのである。
 要はちょっとした事しかさせてもらえないが、ここはユアンに甘えることにした。
 下手に手を出して睨まれたくはないからだ。



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