機械仕掛けの恋。
5
目を向けた先。
そこには首にまかれた緋色のチョーカーがあった。
ピッタリと隙間なく付いているそれは、下手すると要の目には首輪のようにも見える。
「その首についてるのなに?」
再度問い掛けると、首にあるそれを細く長い指先で触れたかと思ったら、要が今まで見たこともないような顔をした。
(コイツ…今、笑っ―――た?)
初めて見た人間くさい顔。
アンドロイド相手に人間くさいもないのだが、笑えるんだ。
驚いている要に気付かないのか、はたまた彼本人が笑っているのに気付いていないのか、瞼を一つ閉じて目を開けた時には、見慣れたしかめっ面の顔に戻ってしまっていた。
それを少しだけ残念だと要は思った。
「大事な奴に貰ったんだと思う」
ようやく口にした言葉はやはり要には意味が分からない。
「思う、って。名前も分かんないのになんで分かんだよ」
「ああロックが掛かってるんだ。このチョーカーの事を記憶しているかメモリーにアクセスしようとしたら出来なかった。多分、特定のパスワードを入力しなければ、開かないようになっているみたいだな」
「それって重要じゃん!」
「ああ」
「ああ、ってもっと焦ろよッ」
「何故だ?焦ったところで分かるものではないだろう。ならば、焦るだけ無駄だと思うが」
「もしかしたら…名前とかそゆの分かるかもしんねーじゃん」
一人熱くなる要に対し、ひどく冷静なアンドロイドを見ていると、こんなにもムキになっている自分がバカみたいだった。
そもそも知り合ってまだ1日も経っていない相手だ。しかも相手はアンドロイド―――。
偶然、あの場所で要が拾っただけであって両者の関係は、拾った者と拾われた者、それ以外のなんでもない。
製造番号がなくても名前がなくても要にはなんら問題ない。
でも…でも………。
知らない筈だ、初めて会う相手の筈である。なのにどうしてこんなにも彼を…アンドロイドの事を知りたいと思っているのだろうか。
だが、彼を見ていると要の中の何かがざわざわとするのだ。
落ち着かない。
「名前なんて好きに呼べばいいだろう。俺は構わん」
感情なんてある筈もない無機質な声音は、要の耳に柔らかく響いてきた。
『名前か…―――が付けてくれ。俺はお前の付けた名で呼ばれたい』
突然、頭の中でアンドロイドの声音に重なるように一つの声がキンと響いた。
霧がかかった記憶の奥深くから響いてくるその声は切なくて、懐かしい。知っているのに、けれど誰が要に話し掛けているのか思い出せない。
しかし頭の中で声が響くなんて、こんなことは初めてだった。
要はこめかみの辺りを指先で押さえながら目を閉じる。
そして無意識のままに、
「ユアン。」
そう声に出していた。
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