機械仕掛けの恋。
2
目を覚ましてぼんやりする目で最初に見たのは、筋肉に覆われた厚い胸板。
次に身体に巻き付く腕の重さ。
まるで離さないといったように包まれる腕はひどく心地好いもので、要はまた眠ってしまいそうになった。
しかし、要の寝惚けた頭はこの常にない異常状態に一気に覚醒する。
(あれ昨日…確かアンドロイド拾って、それから家に運んで…髪の毛弄ってて俺いつの間にか寝てたのかー…って違う!なんっだよこれは?!)
何故だかアンドロイドの腕の中にすっぽりと包まれている自分の身体。
身体に申し訳程度に掛かっているのは、アンドロイドが身につけていた布切れだろうか。
ベッドに行かず、フローリングの上で寝てしまったためか身体のあちこちがギシギシする。
いやそんなことよりいつまでも腕の中にいるなんて堪ったものじゃない。
要は早く腕の中から抜け出そうともごもご動いてみた。
しかし悲しいかな腕はビクともしなかった。
(ったく!離せよこのぉ)
巻き付く腕を掴んで、離そうと四苦八苦していると頭上から声が掛かる。
「騒がしい」
不機嫌そうな声音。
見ればアンドロイドの硝子玉みたいな蒼い瞳が要を捉えていた。思いのほか強い視線だった。
吸い込まれそうなその蒼い瞳を要はジロリと睨み付ける。
「腕…どかして欲しいんだけど」
アンドロイドの腕を引っ張りながら要が不機嫌に言うと、チラリと視線だけをその場所に向けた。
しかし、それっきり何も言わないし腕の拘束も緩めようとはしないアンドロイドに、要はどうしたものかと考えあぐねてしまった。
全く訳が分からない。
「おいっ!聞い「11時42分54秒」
「聞いてるのか」と言おとした要の声を遮るように、アンドロイドの声がかぶさる。
突然このアンドロイドは何を言い出すのかと思ったが、はたとその意味に要は気付いた。
「43分」
思わずバッと時計を見る。
確かに時計の針は11時43分を差していた。
ああこれでは、今から学校に行ったとしても午後の授業に間に合うかどうか。
遅刻確定…いっそのこと思い切って休んだ方がいいのかもしれない。
「マジか…」
極力休みたくはなかった。
でも今から学校に行くのはさすがに面倒だった。
となると要は開き直って仕方ないと思うことにした。授業のノートは斎にでも見せてもらえばいいだろう。
今日はバイトも休みだったし家でゆっくりすればいい。
たまにはこんな日もあるというものだ。
それに要は拾ってきたアンドロイドのことも知りたかった。
だから、ちょうどいいとばかりに要は学校を休むことにした。
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