しろつめ草

しろつめ草



ここに来たのも何回目だろう。
裏で忙しく動き回るあいつがギリギリ見えるこの位置が俺の特等席。


忙しいくせに、たまに振り返っては俺がここにいることを確認するように、チラチラとこちらを伺う不安そうな顔に微笑んでやれば、ふわっとした笑顔が返ってきて、そしたら胸が苦しいくらいにきゅうっと締められて、俺に心地よい刺激を与える。
頬杖をついたまま用意してもらったカクテルを一飲みすると甘い香りと微かな苦味が口内に広がった。


時計の下にかけてある暦には31という数字がでかでかと居座っていて、俺に夏が終わることを知らせている。夏はあと数時間で幕を閉じ、そしてその頃には俺も三橋と夜空の下をさ迷っているだろう。
緩めたネクタイを更に下げ、奥を眺めれば、尚も忙しそうな三橋が目に入った。

すきだって伝えあってからもう半年。お互い毎日毎日忙しくて、二人で遠出したいとは思うのだけど、仕事が終わったら家まで送る、という、こんな中学生みたいなことしかできない。そんなこと言っても、三橋が休みの日は俺が仕事で、俺が休みの時は三橋に仕事が入るというすれ違いの中で、これだけは譲れなかった。

こんなことが毎日の連続で、もう半年だ。三橋に離されても何も言えない。ざわざわする店内を背中に、グラスと氷が共鳴する音が俺の耳にやけに大きく響いた。

それでも俺はすきだから。三橋がすきだから。三橋に影ができても、俺はずっと、そう伝え続けるから。


泣きそうになる心を誤魔化すように、俺はグラスを口に運んだ。







ねえ、みはし
"すき"ってこんなにつらいんだね



(リーマン阿部×居酒屋店長三橋)
2008/10/20
瑞稀.





あきゅろす。
無料HPエムペ!