ラジオから実況者の興奮した声が響いて阿部は盛大に舌打ちをした。
けれどこんな時、おもっていた通りにいかないのはいつも自分だけではないのだと実感して、安心したりする。打たれた投手とその捕手と、今日の阿部と。根本的な部分は違えど結果は同じだ、なんにも変わらない。

阿部はいつもの位置に車を止め、アパートの階段を一歩一歩ゆっくり上る。ここで横になっても寝れる、に千円賭けられるくらい、阿部は疲れていた。
小脇に抱えたパソコンが重い。


玄関の小さな段差にもつまずきそうになりながら、阿部は漸く辿り着いた狭いベッドに倒れ込んだ。バフッという衝撃に一瞬息を止め、身体中の力を抜きながらこの日一日をかけて溜まった二酸化炭素を一気に吐き出す。

薄く頼りなく無心のまま、阿部はポケットの携帯に手を伸ばす。カチッと鳴いて映し出されたディスプレイに受信メールフォルダを開くと、みはしれん、と呟きながらいくつかある新着メールのひとつを開いた。


From三橋 廉
Subお疲れさまです。
もうすぐ春だけど、こっちはまだ寒いよ。
からだに気をつけて、おやすみなさい


どうしてこう詰まった毎日が続くのに、自分はよく切らさないで生きていられるなと、阿部はつくづくおもう。


To三橋 廉
Subおつかれ
こっちは暖かくなったり寒くなったり
三橋こそ、風邪なんか引くなよ。布団は肩までちゃんとかけて寝ろ。
おやすみ


それでもこうして迎えてくれるものがいるからこそ、明日も明後日もがんばろうとおもえる。三橋のメールは件名の一文だけで、潰されそうな心の重みを簡単に取り除いてしまう。
毎日規則正しく送られてくるメールを楽しみに、きっと明日からだっておなじことを繰り返すのだろう。


送信を完了した携帯を閉じて伸びをすると、阿部は電気をつけてパソコンを開いた。



おれだけの

小さなオアシス

何度も救われた



2009/03/29
瑞稀.




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