野球の話



(こつこつこつこつ)
(お客さんだよ)
(誰だろう)
(こつこつこつ)
(でも開けちゃだめだよ)
(だってお客さんだよ)
(こつこつこつ)
(でもー)


細い視界に映し出された見慣れた部屋。体重がいつもより何倍も何十倍も重くなったような感覚に、三橋は"戻された"と感じた。
でも開けちゃだめだよ。まるでうまれたばかりみたいにうまく機能しない脳に、夢の中と同じ音が響く。

「…んにちは…」

音がするほうには乾いた日の光が部屋に入ってくるための窓がいた。
秋がきたよ。
風と草木とが一緒になって窓ガラスに悪戯する。

あけてあけて、秋がきたよ。
だめだよ、まだ夏でいたいんだ。

三橋ががんばって起こした重い体に、すっかり暖まったタオルが降ってくる。三橋はそれをぼんやり眺めるとたっぷり時間をかけて、額からだと納得した。
そうだ、風邪を引いていた。
見慣れた部屋だけど自分のものじゃない。ベッド脇からは食べ終わった何も乗っていない食器と薬のからがこちらを見ていた。
ドアの開く音がそれらと三橋の静かな見つめ合いを遮る。

「あれ、起きてたの」
「…」
「起きたばっかりか。気分はどう?」

まだ熱っぽいな、そう呟きながら阿部は三橋の体を優しく倒す。新しく持ってきた冷たいタオルを三橋の額に乗せて暖まったタオルを三橋から取り上げる。
もうちょっとかな、といつの間に計ったらしい体温計を眺めながら言う阿部の名前を、三橋は呟いた。

「…さっき、あきがきたよ」
「…ああ、もう秋だな」

阿部は立ち上がると、窓を開けた。それはとても簡単だった。乾いた涼しい風が阿部の髪に挨拶する。

秋、窓から見える木はまだ緑なのに、もう秋だなんて。三橋には少し、早すぎるように感じた。夏が短いのはきっと秋がくるのが早いからだ。

「…まだ、」
「秋だよ」
「…」

三橋は日に照らされる阿部から目を逸らした。
あべくんはいつでも輝く。秋でもやっていける。おれは、

「三橋、」
「やだよ…おれ、おわらせちゃうの」
「…俺はね、春を追いかける」
「…はる…?」

三橋は顔をあげた。阿部はまた繰り返すと、三橋もそうだろと笑った。

自信なんて言葉を知ったのはいつからだろう。自分には程遠い言葉だ。そう思ってたけど、阿部がいればと思えるのは立派な自信なのだろう。

秋の風はすっかり部屋いっぱいに広がって遊び回っていた。
春を追いかける、それなら秋も悪くないね、三橋もまた笑った。



[阿部×三橋]
2009/12/6
瑞稀.

夏と秋の間ってそれでもまだ暑いよね。病人が部屋で寝てるってのに隙間も開けておかない阿部ってまじ気が利かない!←







第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!