わあわあと騒ぐ観客に向けてなにかを言えば、更に声があがる。舞台にふたりで立って人の笑顔を引くセリフを調子よく続け、それにまんまと引っ掛かる。
真面目にみていれば爆笑のそんな光景も、よそ見していれば適度に耳に障らない冷蔵庫の声みたいなものだ。


阿部はディスプレイに数々のフォルダを開いてはそこにカタカタと打ち込んでいた手を止め、すっかり冷めたコーヒーを口に運んだ。
きっとテレビの声など届いていないのだろう。コーヒーの味もそこそこに、阿部は三橋のぼーっとした横顔に吸い寄せられるように倒れ込んだ。おでこだけ器用に、はっとする三橋の膝に乗せて、阿部はゆっくり目を閉じる。


「うお!」
「…」
「あべく、きゅうけい?」
「…」
「…コーヒー、いれなおす、よ?」
「…いい」
「…こばら、すいてな」
「もういい、明日やる。電池切れ」
「ぃ…でんち…?」
「そ、」


阿部は体を仰向けに切り替えると、今度は膝にちゃんと頭を乗せて三橋を見上げる。こいつどっから見てもかわいいな、とそんなことをぼけっと考えながら阿部は、電池切れ、と繰り返した。


家に持ち帰るのは絶対嫌で、だって三橋がいるから、三橋がいるなら三橋といたいと思うのは必然だ。かといって三橋だって朝が早いのだから遅く帰るわけにも行かず、待たなくていいと言っても、ちがうと待ち続ける三橋を想って、やはり持ち帰るしかないのだ。
ひたすらパソコンを睨む俺を横に、見てもいないテレビを眺めて、三橋はどんなきもちなのだろう。そんなことを考えたらもうどうでもよくなった。明日の朝やればきっと間に合う。だって、俺だって三橋がすきなんだ。


「みはし、キスして」
「ぅえ?」


他に誰がいるはずもないのに、キョロキョロと忙しなくあたりを確認して、三橋はゆっくり触れるだけのキスを落とす。離れていこうとする三橋の両頬を両手で優しく引き戻して、今度は深く口付けた。


「三橋、すきだよ」
「おれも、…ひひっ」
「は?なんで笑うんだ?」
「だって、あべく、しあわせだ、」






それは珈琲の味


それなのに全然にがくない




[阿部×三橋]

2009/3/9
瑞稀.






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