なにもかも







珍しくまっすぐ見つめられた視線になんとなくいたたまれなくなって思わず目をそらした。嘘ついてごめんなって言ったら大丈夫だよ、って返ってきて、それになんて返していいのかわからなくて、俺は俯いた。

乾いた風が俺と三橋を通りすぎて鳴いた。無表情なそれに連れていかれたら、これまでのこれからの悔やみも俺自身も、すべて消えてしまえるだろうか。

三橋は窺うようにおそるおそるあべくんと呟いて、俺のコートの裾を掴んだ。弱々しくて、でも強くて暖かい。そんな矛盾した感覚を味わいながら、俺は泣きそうになるのを必死で耐えた。


「あべくん、が、いうことは」
「…」
「たとえ!うそ、でも」
「…」
「おれにとっては、」
「…っ」
「おれにとっては!それがっ」
「みはし」
「うっ、」


身構えた体を抱き寄せてありがとうとか、すきだとか言いたいのに、それが出来ないのはまっすぐだからだ。視線もそうだし、俺に対する、気持ちも。少し浮いて見えるのは三橋のそれだからであって、俺がどうこうの問題じゃない。

自分でも疑うくらい消え入りそうな細い小さい声で、もういいからとだけ吐き出す。何がもういいのかなんて聞かれたらきっと答えられない。大体、俺が決めることじゃないだろ。

肺を洗うように深呼吸して、それから深く吐き出して、顔を上げたら三橋がいた。
三橋は尚も俺を見つめて、今度こそ逃がしてはくれない。逃げることなんて許されないのだ。打ち返すことも、見送ることも。


「…あべく、」
「…」
「…き、」
「…」
「きらわないで、」
「…三橋」
「くだ、さい…」
「…嫌わねえよ」


嫌わねえよだと。何を偉そうに、よくそんなことが言えたものだ。ただ受け止めることしかできない俺が、他になにもしてやれないくせに、どこまで強情なんだ。

目の前の三橋と後ろに広がる乾いた青空とがぐちゃぐちゃに滲んでいく。きっと今の俺は相当情けない顔をしている。一番見せたくない奴の前で、だけど逃げられない。


「…あべくん」


一歩踏み出して手を伸ばしてみたら三橋はちゃんとそこにいて、俺は三橋の肩に顔を埋めた。そこで滴は堰を切る。いっそ笑ってくれたら楽なのに、三橋は俺の背中に腕をまわして風の通る隙間を埋める。それが妙におかしくて、俺は三橋の空色のマフラーを濡らしながら、心の中で自嘲気味に笑った。











[阿部×三橋]
2008/12/3
瑞稀.




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