我が敵に捧ぐ鎮魂歌
枝先のいのちだ
勝手な誓いを立てたあの日を最後に数年経過。
彼らは私に助けを求めることなく、山の周囲はますます戦の血や火薬の臭いが強くなる。
半年前から、この山を通る行商人も途絶えた。それほどの戦禍ということだ。
私の身体は老いを知らずに、すっかり戦士の肉体となった。
水面に映るおのれは、眼光のみが炯炯として獣然とした様相が増すばかりである。
こんなに備えているのに、どうしたことだろう…
トリップ後にここまでの放置を食らう者が、いままで居ただろうか。
行商人なくしては得られる新たな情報もない。
このままではただの脳筋山ガールと化してしまう。
避けたい。
とりあえず、目下の目標は彼らとの遭遇率を上げることにあるため、山の見回りもかねてふらふらしているのだが、遠目にうちは父を見かけることはあっても子供たちとのエンカウント率は依然として低い。
もしかしたらうちは父の近くにいたのかもしれないが、うちは父を視認すると数年で培った動物的本能のあたりが警鐘を鳴らし全力逃走してしまうため、定かでない。
うちは父に遭遇しない程度にふらふらしている。
今日も茂みから飛び出てきたところを捕まえたヤマドリの毛をむしりながら獣道をがさがさしていた。つまり完全に油断していたのである。
ひらけた場所へガサッと出た瞬間、たくさんの目がこちらに向けられ、ぎょっと見開かれた。
こちらもぎょっと目を見開いてしまう。
状況を説明すると、うちは:千手=1:5で囲まれた状況に突如として現れた私。
彼らは忍であるため、突然誰かが現れたくらいではぎょっとしたりなどしない。
しかし突然現れた私は、ちょうどヤマドリの首がぶらぶらして邪魔だな・などと思い、その首を噛み千切って顔面血まみれであった。
一方油断しきってした私はそこそこ動揺しており、まだ口内にあった首をプッと吐き捨てながら
「あらなに、どうしたの」
と妙にのんびりした台詞をかましてしまった。
きっと緊迫して、一触即発、という状況だったろうに……あちらからすれば「お前がどうしたの」だろう。
とんでもねえところに来てしまった。
最悪だ。
何が一番最悪って、比率1のうちはが、おそらくうちは弟だからだ。
まだ成熟しきっていない容貌と線の細さ、絵巻物の源平若武者を彷彿とさせる。
それを囲むガタイの良い成人男性という絵面が、もうなんともいえず、犯罪の香り。
枝先のいのちだ
さて、どうしたものか。
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