我が敵に捧ぐ鎮魂歌
君たちの味方
「オヤッ」
「!」
「!」
傷があった頬を撫でると、手品のように傷が消えている。
なかなか深い傷だったはずだが…そういう忍術でもあるのかな。
少年たちを見やるが、驚いたように固まっている様子から、そういう術を用いたわけではないことがわかる。
………。
よって考えられるのは、マダラ少年の力…というか意思ではなく、
「ふんふん…マダラ君、私の腹が裂かれたとき、傷口を抑えてくれたり、しました?」
「………した」
「そう」
よもや本気だとは思わなんだ。
野郎、本当に手前の細胞も移植した可能性が高い………血の気が引く。
元居た泰平の世界から私を此方へ連れてくる危険性について考えることが出来ない男ではない。
万一の安全策…ただし己の近くに居る場合に限る。
彼らしい縛りだ。
「…顔色が悪いぞ」
「…む、本当ぞ。大丈夫か」
子どもに心配されてしまった。
数回瞬きをしてから、表情を作る。
「うん、大丈夫!」
なわけがあるか。
気を抜いているわけではないのに、気が付くと身体に絡みついてくるじっとりとした野郎の好意………そこらへんの怪談話より恐ろしい。
しかし不安がっているわけにもいかない。
子どもは、大人の不安を敏感に感じ取るものだ。
例え不安の元凶ご本人であっても…またもう一人も、彼をあのような精神構造にしてしまった一端を担ったと考えられる元凶の元凶であっても…子どもは子ども。
教育者の末端に席を置く者として、子どもの前で斯様な体をさらし続けるわけにはいかない…
………いや、待て。
彼らは未だ子どもだ。
だからこそできることも、あろう。
「…とりあえず、肉も傷むし、今日はもう帰りなさい。
傷、治してくれてありがとうね」
「いや、俺は何も…」
「まあまあ、治ったことに変わりはないから…原因については後々ゆっくりと考えましょう。
それにしても、貴方にはいつも心配をかける。私を心配してくれる人など、今のこの世では貴方くらいなものでしょう。
ありがとう」
「俺も心配ぞ。こんな山で、女が一人…」
「おや、ありがとう。しかしまあ、どっこい生きているし、そのあたりは大丈夫かな…もはやこの山は私の庭と言っても過言ではないよ。次に会うときは住処に招待しよう」
「ワーイ!」
癖で再び頭を撫でかけるが、途中で気づいて手を引っ込めようとすると、柱間少年は頭を擦りつけてきてくれた。
天真爛漫で優しい子だ。
そして距離を適度に保ちながらも、労わるような目をするマダラ少年とて、優しいことに変わりはない。
「きみたちの優しさは、恩として報いるに値します。
何かあればすぐに私を呼んで。山の外でのことは相談にのることしかできないけれど、山の中でのことであれば、解決に力を貸しましょう。
別に、用がなくとも呼んでくれて結構よ。名前を呼んで。山の中であれば、どこでも必ず駆けつけましょう。」
「…どこでもは無理だろ」
「耳を、鍛えましょう」
「すごいな、まるで正義の味方みたいだの」
「………正義ではないかな…」
君たちの味方
全てを変えることはできずとも、私の存在が一つの指針となることを願う。
君たちの健やかな成長、幸せが、私の幸せとつながることだろう。
なんつって
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