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我が敵に捧ぐ鎮魂歌
種も仕掛けもありません

自分のくしゃみで目が覚めた。


「…調子はどうだよ」


血の付いたクナイを片手に、子どもらしからぬ目付きをして声掛けてくるマダラ少年に目をやる。
気を失ってどれくらい経過したのか知らないが、闇も深まり、光源は私とマダラ少年の間に置かれた行燈のみだ。
それに群がる山蛾を足で払いながらこちらに近づいてくる彼に、体勢を整えようと身じろぎをしながら言葉を返す。


「寒くて痛い。なぜ私は縛られているのだろう。あの恐ろしい親父さんは近くにいるの…?」


後ろ手に縄か何かで縛られているらしい。
気を失っている間に何をされたのか分からないが、身体中が妙に痛む。肩も、外れているかもしれない。


「意識が無いうちに山から降ろそうとしたけれど、何度やっても川辺に戻っちまうから、親父が業を煮やしてあんたの腹を裂いた」

「えっ」


しれっと恐ろしいことを言われて動揺し、近場の樹に身体をぶつけた。
拍子に外れていた肩が戻り、暗い森にガコッと間抜けな音が響く。


「親父も俺も、あんたは死んだと思った。だが、しばらくしないうちに治っちまった。
只事じゃあない。
今、親父は一族の使える者を集めてこちらへ向かっている。あんたを調べるためだ」

「なあにそれ…なにされてしまうの…解剖とか、されてしまうの…」

「そんなんで済めばいいけどな」


精一杯、感情を殺した顔で言うので、こちらも怖くなってしまう。殺しきれていない感情が私を心配するものであることが、相乗効果を生んで不安倍増だ。


「あんた、本当に何者なんだ。チャクラのチの字も無いくせに、高等忍術の真似事なんか出来ちまうからこんなことになっているんだぞ。」


樹にもたれる私の前に片膝をついてしゃがみこみ、持っていたクナイの刃を私の顔に押し付ける。


「大人が来る前に、俺が情報を吐かせれば、悪いようにはしないと親父は言っていた。俺の一族は瞳術を使う。身体の傷は平気でも、頭の中をイジられたら、忍であっても正気ではいられねェ。耐性が無い奴なんか、なおさらだ。
わかっていることは早く、言えよ」


そんなことを言われても、わからないことのほうが多いし、わかっている内容も内容なので話しようがない。

―――…困った。
何が一番困ったって、この子もそんなことは先刻ご承知で、にも関わらず自身にはどうしようもできず、父親の言いつけを守るくらいしかできないことにとてつもない無力感を覚えていることである。

なんて聡く、強く優しく、可哀相な子だ。


「ごめんね」


クナイの押し当てる力が強くなり、少し血が出る。


「ご察しのとおり、私にも今の私のことはほとんどよくわからない。
しかし、それでは何の解答にもならない…最終的に、貴方の一族の大人たちは、私をなにかしらの術で酷い目に合わせることでしょう。
<そういう生き物>として納得してもらえれば良いのにね。」
「気に病ませてしまって、申し訳ないと思っています。でも、貴方が気に病む必要はないのよ、大丈夫」

「…だから、大丈夫じゃねェんだよ」

「うん、だから」
「私は逃げます」


クナイの傷を気にせずに、マダラ少年には可哀想だが軽い脳震盪を起こすくらいの頭突きを食らわせた。
お互い痛いが致し方ない。
目論み通り気絶した少年に逃がした疑いがかからないために、自身を縛る縄を千切って近場に放る。
夜の山に子どもを放置するのは心配だが、しばらくしたら大人がやってくるらしいし、大丈夫だろう、おそらく。


さて、逃げ場は限られているが、私はチャクラもないらしいし、宵闇にうまくまぎれられるよう努めてみることとしよう。
最後に少年の頭を少し撫でてから、その場を離れた。




も仕掛けもありません




「…つーことが、ちょっと前に、ちょうどこの辺で遭ったんだけどよ…柱間、おめぇ知らねぇか」

「なんぞソレ…新手の物の怪か何かか。それにしてもマダラ、話が上手いの!」


とある河原で友人となった少年たちは、組み手の後の休憩中に、どういう経緯かは知らぬところだが、今までに遭遇した不思議な出来事を披露しあっていた。
先行で話したマダラ少年の語りの上手さに、柱間と呼ばれた少年は素直に関心する。
本当にあった話だとは、思っていない。
そして、それを察しないマダラ少年ではない。


「おい!作り話じゃねェぞゴラァ!」

「あっはっはっは!」

「このやろう…」


歯ぎしりをして凄み、血気盛んな少年らしく、相手の胸倉を掴もうと一歩踏み出そうとしたところで、背後の森から何かが、何かを引きずってこちらへ向かってくることに気が付いた。
音がするまで気が付かなかったことに、少し動揺する。
気配を、チャクラを、察する修行はもちろんしており、ある程度の感知は可能だと自負していたからである。

それは共にいた友人も同じらしく、互いに目配せをする。
音は徐々に近づくが、恐怖は無い。
この友人と一緒であれば、なんでもできるような気がするからだ。
どんな強敵でも、化け物でも、かかってくれば良いと身構える。

しかし、


「…アッ」

「アッ」


現れた音の主は、強敵でも化け物でもなく、大きな猪を引きずりその猪の返り血を拭う、件の話の女であった。



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あきゅろす。
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