我が敵に捧ぐ鎮魂歌
ゆるりと迫る
水辺の住処は、朝冷えする。
身震いしながら寝返りを打つと、顔を向けた方に熱を感じる。
火を消し忘れただろうか。
薄ら眼を開ける。
「起こしたか。まだ日も昇っていない。寝ていろ」
その既視感たるや、筆舌尽くしがたい。
眠気も吹っ飛ぶというものよ。
ゆるりと迫る
「また来いと言うから来たというのに・・・・・あまり歓迎されないのだな。悲しいもんだ」
『いや……はい……言った、けれど、でも、……、……昨日の今日というか、半日前というか、スパンの短さと寝起きドッキリに言葉もないというか』
「ふうん?」
全く納得していない顔で寝起きの私が煎れた茶をしばく青年から、静かに、それとなく距離を置く。
これまでの流れから、偶発的に出会ったとしても、一度別れたら再び会うまで数年単位かかるとみていた。
よもや数時間後に再来とは……やはり住処を教えるのは、よくなかったかもしれない。
先ほど会った時とは表情が少し違うように見える。
一度は顔見知りへの情で見逃しはしたものの、集落へ戻り、一族の長として物を考えれば、私に対する回復の力はやはり喉から手が出るほど欲しいことだろう。
そうと決まれば行動は早いほうが良い。
「説得」も、「私」相手であれば、多数で攻め込むよりも1対1のほうが効率的だ。
万一反撃があったとしても力量の差は明白。
それに、相手は女である。
……と、いうような覚悟やら考えやらが透けて見えるぶんまだまだ若い。
添い寝され寝付かせるように背を叩かれたときは確かに怯んだが、今の相手の様を見て落ち着いた。
亀の甲より年の功。
ほぼ義務的に事を成そうとしている今のこの子を言いくるめることくらいは、できるだろう。
しかし問題は、
『何かお話があるから戻ってきたのでしょう。すぐに起こしてくれればよかったのに……どのくらい前から居たの』
「………………お前が起きる、ほんの、少し前だ」
『…………ふうん?』
この迷いだよ。
なんで寝ている顔をずっと見ているの。
起こして?
どういう意図をもっているの。
そういうことなの?
違うのであればとんだ自意識過剰女になってしまいますからね。
問いただしませんけれども。怖いから。
まあ、微妙に誤魔化すぶん、まだ可愛げがある。大丈夫、対応できる。
これがこの子の何年か、何十年か後であれば、誤魔化すもぼやかすも無く、己の意思をゴリゴリにぶつけてくるようになるのだ。
なぜそうなってしまうの。
そういう成長はやめて。
なんなら始めから育てさせて。
進化ストップ、進化ストップ。
自己防衛本能が思考をおかしな方向へ導くのを抑えるために黙り込んでしまう。
そんな私へ、青年は誤解を解くためか話を変えるためか、いつものように色々と考えながら、視線を彷徨わせそうになるのを耐えて、じっとこちらを見つめ、来訪の理由を述べてきた。
「……茶が、」
『……はい』
「茶が、変わった味だ、うまかった、から、……」
かなり苦しい。
本人もすでに「茶がうまいはねえわ」という顔をしている。
せっかく朝イチで「説得」へ来たというのに茶の話でいいのかと思いはするが、本人が言い出したことだし、今日はそれに乗っかっておいてやろう。
『ドクダミとメグスリノキを煎じたものです。分けて差し上げるから、持ち帰ってお飲みなさいな』
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