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我が敵に捧ぐ鎮魂歌
敵は何処

我が家の池はさほど深くない。
たとえ池に落ちたとしても生臭くなるだけで、シラフの状態では溺れることも難しいくらいの水深だ。

野郎が掴んだ私の帯が解け、池に落ちる直前に見た、マダラさんの悔しそうに歪む顔でかなりの溜飲が下がったことも、ここで述べておきたい。
その顔、つまりは野郎と一緒でなければ彼方へ行くことは無いのだろう。

勝利を確信した上での、着水。



―――…良かった、思っていたより水は生臭くない。
案の定、膝立ちして腰が浸かる程度の水深だ。
しかしどうして、流れがあるの。

水から顔を上げ、髪を掻き上げる。
流水音と木々の葉が風でこすれる音、肥えた土と緑が呼吸をする匂い。


良い森だ、ちくしょう。


冷静になるにつれて、身体の痛みがぶり返してくる。
目の前を流れていこうとする自身の解けた帯を引っ掴み、川から上がって、手近な大岩に寝転んだ。
陽の光で暖まった岩が、適度に温くて心地良い。

………野郎は近くに居ないのだろうか。

目をつむり、私が痛みで前後不覚となっていた時にかけられた言葉を思い出す。


「俺が、お前をお前にすることができて、誇らしい」


ぶったまげだ。
色んな細胞組み込まれて完全体にでもしたつもりなのか。フランケンシュタインの怪物か、私は。
会ったら、一言二言、言わねばならない。

…いや、しかし。
野郎に再びまみえるというのは、私にとって幸となるのか不幸となるのか。
帰り方が解らない為会わねばならないが、彼は容易にはアチラへ帰してくれないだろう。

修復が完了しかけているであろう、肺のあたりに手を置いて、丸くなる。

彼方がコチラになってしまった。
早く、帰りたい。




は何処




木漏れ日の気持ち良さと心身共に疲弊していたこともあり、そのまま眠ってしまったようだ。
誰かに揺すられて目を覚ます。


「おい、アンタ…こんなところで、そんな格好で…あぶねぇだろ。起きろよ」


そういえば、ほとんど前がはだけた状態だったような。

見られて困りはしないが、見たほうが困るだろうから、起き上がりつつ手早く身を整える。

寝ぼけ半分で言うことを聞いたが、さて、私を起こしたのは誰だろう。
襟元を整えながら横に立つ相手を見上げる。
そして、


―――…聡そうな少年の顔を認め、大体を察し、絶句することとなった。



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