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酸欠デイズ
瞳に極彩色
(※友人視点)

「心配をするな。細胞の持ち主も信頼できる男だ。
それでもなお不安だというのならば、俺の細胞も少し入れておくか」


畳みかけるように精神的打撃をかましつつ、抵抗の間も与えずに忍術的な、我々には理解しがたい力で強制的に治療を開始したマダラ様に、青子ちゃんは荒い呼吸を繰り返す。


「何を、訳の分からないことを…ちょっと待ってください、後生ですから、ちょっと離してください…!」

「早く治せと言ったのはお前だろう、…安心しろ、優しく、する…」


素なのかワザとなのか知らないが、聞きようによってはだいぶいかがわしいことを、少し声をかすれさせながら言うものだから、もう色々と、気が気ではない。
青子ちゃんもついに余裕がなくなりつつある。


「ウ、ウワァ…ちょっと、本当に…勘弁してください…やめてくださいよう…ウウウウウ…」


眉間にしわを寄せて呻く彼女。
さすがに友人として微力ではあるが助け出すよう努めたほうが良いだろうか。
あわあわそわそわしだした私に、今になって青子ちゃんが気づく。

目が合う。


「…助けて」

「ウッ…青子ちゃん…」


<手前のことは手前で>

が信条の青子ちゃんが、疲弊しきった顔で、声で、助けを求めている。
進退窮まった友人の様子に、流石の私も申し訳なさでいっぱいになる。
この状態、元はと言えば私が原因だ。
私が助けないで、誰が助けるというのだ。

腹を決めて一歩、踏み出そうとした瞬間


「おい」


甘さも優しさも思いやりも全くない声をかけられる。


「邪魔立てしたら、」

「はい」

「アレを、コレするぞ」

「はい」


私とマダラ様にしかわからないジェスチャーで釘を刺されてしまっては、もう私に手出しするすべはない。

ああ…ごめん青子ちゃん…
私はアレをコレされるのは嫌です…

そんな私に、初めから期待はしていなかったかのように、一人、拳を握りしめる友人への治療は続く。


「やめてください…治療を即座に中断して話し合いをさせてください………、いッッツてぇ!!!痛い!」

「痛むか…悪いな、耐えてくれ…
負傷した際、内臓を少し削っただろう?体内の欠けたものを急激に治そうとすると痛むものだ…」

「やめてください!嫌だということをしないでください!痛い!本当に痛い!クソッ!痛いッ!怖いッ!」

「大丈夫だ、俺がついている…」

「………ッ!」


件の痛みは相当なものらしい。
痛みのみならず、噛み合わない会話も理由だろうか。
もはや言葉も出ず、対抗する力も無く、瞼を固く閉じて耐えるように唇を噛む、
そこから、ツ、と一筋伝った赤の鮮やかさ。

思わず見惚れていると、それをなんとも自然な流れで、さもその行動が当然であるかのように舐め取る男を相手にして、我々には初めから勝ち目などなかったのだろう。

舐められた本人はスッと薄目を開け、

凄まじい目付きでマダラ様を、そして私を睨みつけた。

すごく、怒っている。

ほぼ瀕死に近い状態の、しかも文人にも関わらず、物凄い気迫を出す青子ちゃんを、マダラ様は初めて真顔で見つめ、彼女の頬を撫でながら、ぎりぎり聞こえるくらいの声で何か呟き出した。


「………かなりご立腹の様子だな。
やむを得なかった…事前に詳細を説明したら、治させもしなかっただろう…しかしこの様子だと、このまま痛みが引いたら、逃げそうだ………」
「抵抗が無いうちに、行くか、なァ、青子…」

「―――…ッ、ふっ、…ッ」


ふざけるな、と唇は動いたが声にならない彼女の、乱れた服を手早く着付けてやり、あまり揺らさないように気遣いながら抱え上げる。
いわゆるお姫様抱っこ、というやつだ。
しかし抱えられている青子ちゃんはマダラ様の腕を、痛みをこらえつつ抵抗の意を示すために血がにじむほどに爪を立てて掴みあげているので、人攫い感が否めない………

まあ、実質、人攫いなのだけれども。

そんな彼女を困ったように笑いながら見つめて、額を合わせるマダラ様はとても幸せそうだ。

額を合わせたまま、庭の池へ向かう。

―――…帰る方法について以前話を聞いたような気がするが、詳細は覚えていない。
覚えていないが、水が必要とか、そんなことを言っていたような気がする…
庭の池から行ってしまうのか、青子ちゃんは…

なーんて感慨深さがある反面、人生最大の禍がこの世界から消え去る喜びのほうがデカいというのが、正直なところだ。
ヤッター!

そして件の禍であるが、額を合わせたまま、こちらには聞こえない声でずっと青子ちゃんに何か話しかけている。
何を言ったのかわからないが、とある言葉で青子ちゃんがゆっくり脱力していったのがわかった。
それを此方の世界への諦めと取ったのか、そのまま池にマダラ様が足を踏み入れた瞬間、

最期の足掻きとばかりに青子ちゃんがマダラ様を力いっぱい突き飛ばした。

予想外に強い力だったからか、二人の身体はぐらりとバランスを崩し、距離が空く。

このまま彼女が池の外に着地すればよかった。
だが相手はうちはマダラである。
バランスが崩されたまま手をのばし、青子ちゃんの帯に手をかける。
引き寄せられ、青子ちゃんは再び池のほうへ戻ってしまう。
………ここで、青子ちゃんにとって幸か不幸か、今となっては解らないが、天が彼女に一応味方したのだろう。

帯が解けた。

二人は距離を空けたまま、池へダイブ。
最後に見たのは彼女の、アドレナリン全開でかっ開いた眼に、水に反射した光が入り込んで輝く様で、ありました。


瞳に




その後の行方は、杳として知れない。




(酸欠デイズ、了)


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あきゅろす。
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