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酸欠デイズ
墜落する倫理と撃墜の心理

恐ろしい人だと、出会う前の知識から理解しているつもりではあった。

しかし、共に生活をしている中においては、想定を超えるほどの行動をするわけでもなかったため、評価を誤っていたことを知った。
私に優しく、執拗に、甘い、その真意を、理解させるに十分な狂気を眼に宿している、この男。

今更ながら、ちょっと大変なことになってきやがったな、と、生唾を飲む。

息を吸う。

―――…よし、とりあえずひとつひとつ対処するしか、方法はあるまい。

気合いを入れてもう一度、身体をよじる。


「そいつは何よりです、が、折角手中に収めたものをそのまま握り潰すおつもりですか。
今の私が、大変壊れやすいものだと、お忘れですか。
最後まで気を抜かずに、」
「早く治していただきたい…」


眉をひそめて、我が人生で最も色っぽいと思われる声で詰る。
なにぶん馴れないことなので完成度は低いが、今までの共同生活から考察するに、野郎にはこのくらいでも十二分に


「わかった」


功を奏する。



墜落する論理

撃墜の心理



御機嫌よう皆さん、青子ちゃんの友である。

何の役にも立てない私は、せめて邪魔にならぬようにと精一杯に気配を消したり、やたらに厠へ立ったりしていた。
通算8回目の厠から戻った時には、ついに青子ちゃんのぼろ雑巾のような身体を治療する段階に入っていた。

彼女が刺されたのは、背後からであったと聞く。
普段ガードが堅い青子ちゃんが、うつぶせとはいえ半裸で素肌を晒し、触診を受けている様に、同性の私がなぜかどきどきする。
触診をしている人物の顔を覗おうとしたが、本人の髪がうまいこと表情を隠しているため、よく見えない。

―――…想像していたよりも、傷口はエグい。
てっきり背中の、肩甲骨の下のあたりのみだと思っていたのに、防御創なのか、肩から上腕のあたりにも深い傷跡が見られる。

こんな、内臓にまで達したらしい傷を、どうやって治すのだろう。

調度、青子ちゃんも同じような不安を覚えたらしい。


「失礼、今更なのですが、マダラさん貴方、私の身体をどうやって治すおつもりですか」

「…あまり、手の内を曝したくはないんだが」


手の内にしまっておきたいような方法なの…?
私が不安倍増なのだから、当人は更なり、だろう。
うつぶせのまま触診しているマダラ様の手を掴む。


「不安なのです、どうか」

「………そうか、そうだな、
全てを教えるわけにはいかないがヒントくらいなら教えてもよかろう」


掴まれた手を解きつつ、言葉を選びながらゆっくり返答する。


「彼方の知人に、植物のように、切れたり欠けたりしてもある程度は再生が可能な男が居てな………
その細胞を、用いる」


カンッ

テレビから、未だ続く甲子園の打球音が鳴る。
どうやら九回裏で負けていた高校が追いついたらしい。
延長戦突入。

………現在、私と青子ちゃんはおそらく同じことを考えている。


やべえ、アカンやつだ。


即座に青子ちゃんが、精一杯の瞬発力で現状回避を図る。
前を隠すこともせず立ち上がりマダラ様から距離をとろうと、

したが背中に触れていた手に少し力を入れられただけで身動きが取れなくなってしまう。

悔しそうに傷のないほうの腕を振り上げて拳を床に叩きつけ、青子ちゃんは叫ぶ。


「クーリングオフ!!!」

「何を言っているのか、さっぱりわからん」

「勘弁してください!見知らぬ男の細胞を移植されて大丈夫なわけがありますか!私に馴染むかどうかもわからないではありませんか!血液型やら拒絶反応やら、諸々問題がありましょう!」


もっともな反論である。
しかしマダラ様はそんな反論もどこ吹く風で、ふふんと笑い、本格的な拘束をしつつ、彼女に顔を近づけて今作もっとも恐ろしい台詞を口にした。


「問題はない。
なぜなら、二次創作的ご都合主義が、俺たちに味方するからだ…」




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あきゅろす。
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