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酸欠デイズ
君を絞め殺すなら簡単な事だ

気が付くと野郎の腕の中だなんて、ゾッとしない話だ。

とっさのことで鈍りきった身体は動かず、今もマダラさんの腕に支えられ覆いかぶさるようにして腹部を撫でられ、客観的に見ればまるでワルツでも踊っているようだろう。

まあそんなことはこの際どうでも良い。


「此方の最先端医療…とは言いませんが、それなりに良い病院で診てもらっても、ちょっとやそっとでは治せないと言われている部分があるのです。
それを戦火止まぬ世出身のあなたが、全て治してやるなどとおっしゃる…」


顔の横に垂れ下がる野郎の髪を無造作に掴んで引き寄せる。


「笑えませんが」

「冗談ではない。怒るな。詳細は言えないが、治せると言ったら治せるので、お前が首を縦に振りさえすれば、今すぐにだって治してやれるぞ。
先払いで良い。」


本当だろうか…なんだか胡散臭い。

学生時代に専門書を買いすぎて食べるものが薬学部の実験動物しかなかった時に
「ラット以外も食わせてやるから」
と近づいてきてよくわからない実験を手伝わせようとしてきた准教と同じ目をしている、気がする…

そもそもそんなにうまい話があるわけがない。
しかし、

無意識に胸部に手がのびかけていることに気が付き、その手を握り締める。

傷は別に良い。
胃もそのうち治る。
子宮云々は嘘だ。

肺、
ヘタクソが刺したせいで心臓ではなく、代わりに傷がついた肺。
………これが治るというのは、魅力的な話だ。
しかも先に治してもらえる。
うまくやれば、治させるだけ治させて、野郎だけ彼方へ送り返すことも可能ではなかろうか。
それだ。


「………本当に治るのでしょうね」

「無論だ」


ふふん、勝利を確信した顔で返しているが、戦いは未だ続いているのだ。
マダラさんが勝利に酔い、気を抜いていたその時が私の勝機。
しかも治る。
嬉しい。


「………解りました。行きましょ、うっ…ッ」


同意の言葉を口にした瞬間、加減もなく抱きすくめられ、息が詰まる。
痛いし苦しいし、何事なの。
治される前に死にかねない。
死ねば楽になる的な、そういうお話だったの。


「ぐ…う、…っマダラさ、…!」


以前のようにもがくが、力は緩まらない。
それにしても、これがこの人の加減のない力―――…逃げられるだろうか、その時に。
痛みと息苦しさなどに不安が追加され、もうどうにもならないと思ったが、直後、不安大高騰と知る。

猫科の動物のように首やら髪やらに顔を埋めていた野郎が、ふと、こちらと額を合わせ、目を合わせ、にこりと微笑みかけてきた。

こちとら、微笑み返す余裕はない。


「マダラさん…ッ!苦しいの、で、」

「ああ、悪いな…つい、嬉しさ余って」


悪いと言いつつ力は抜かず、更に強まる。
つい、で殺されてたまるものか。


「事が、思うように運ぶのも」
「欲したものが手に入るのも」

久しいことだから加減がわからん、と、笑みを深めるその目は


君を
絞め殺すなら
簡単な事だ


(その頃友人はトイレへ退避)



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