酸欠デイズ
卓上戦争-前半戦-
震える声で挨拶かましてきやがる友人に思うことも言いたいことも多々ある、が、今回ばかりは感謝しなくもないので、私史上最高の笑顔で出迎えることとする。
「あら!久しぶり!どうしたの?お早い帰国だこと!全部私にブチ置いてアチラへ行ったことに今更ながら後悔しての帰国なの?」
「いえ…その…そうじゃあないんです…お盆…お盆近いから…一時帰国して…そういえば…と」
「そういえば!
まああなたにとってはそういえば程度のことかもしれませんよね…相談されて即日海外逃亡とは、さすがの私も想像だにしませんでしたからね。
しかし<そういえば>でも思い出してくれて嬉しいわ。積もる話もありましょう。
さあ、中へお入り…」
一通り嫌味を言いつつ、半身引いて招き入れる。
そこで友人は中にて共に居る、我々にとっての<禍>と、目が合ったようだ。
「ギッ」
と咽喉を潰したような声を出して立ちすくみ、一歩踏み入れた敷居からゆっくりと後ずさろうとする。
「いやいやいや、ちょっと顔見にきただけだから!お土産渡したかっただけだから!お元気そうで何よりですお二人とも!では!お邪魔しました!」
「いやいやいやいや、させませんよ。積もる話もあると言っているでしょう。大したもてなしはできませんがお茶の一杯でも飲んでいくのが、出向いた側の礼儀ってもんじゃあありませんか。
ねぇ、マダラさん?マダラさんもそう思いますよねぇ?」
逃げんとする友人の襟ぐりを掴みながら話を振ると、しばしの沈黙の後、やむを得ない、と言わんばかりの声で返答がきた。
「………そうだな…ようこそ俺たちの愛の巣へ」
「何を言ってるんです?」
卓上戦争 -前半戦-
友人とマダラさんを客間に置いて、台所にてお茶を煎れる。
………とは言っても、夏場なので作り置きの麦茶を注ぐだけなのだけれど、私抜きで話したいこともあるだろうから、茶菓子を無駄にゆっくりと探しつつ、耳をそばだてる。
客間からは
「すみませんごめんなさいお邪魔するつもりは本当になくて申し訳ありませんすみません」
やら
「子どもはまだだが」
やら
「アッ…では相思相愛ではあるということで…?」
やら
「無論だ。あとはアチラへ連れ行くだけだな…」
やらと不穏なことが聞こえ出したところで勝手口から逃げ出そうとも思ったが
「ハァさいですか…アッこれ、お土産です…つまらないものなんですが―――………ヒッ」
という声を最後に鈍い音と何かがばら撒かれたような音がした。
さすがに放っておけないのでガラス戸を開けて様子をうかがうと、トイ●ト●リーなどでお馴染みの、おもちゃの兵隊が客間中に散らばっている。
バカのお土産らしい。
「片づけておきなさいよ」
「………はい」
台所へ再度引っ込み、頭を抱える。
友人の到来は、私にとって良いものとはならない可能性を、先の会話から感じ取ってしまったからである。
今日が私の命日となることに変わりはないのだろうか。
…今までの出来事から薄々察しつつも目を逸らしていたことを、直視しなければならないのやも、しれない。
でも腹を括りたくない!
勝機が見えない!
勝機どころか、もはや何も見えはしないのだが、このままでも何の進歩のないことは解っている…ので、
しようがあるまい。
帯板の入った帯をスパンッと景気づけに叩いて背筋を伸ばす。
面倒事は短期戦でケリをつけてしまいましょう。
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