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忍者
見惚れる私もどうかしている。(マダラ)
(※ノイズィヘイジィ 番外)

この国で狼を見られる施設は意外と多い。
実は、各地方に一つ、必ず在る。

休職をしてしばらく、ウルフドッグの勉強の一環として狼の生態について調べる機会があった。
海外へ行くのは流石に体調面で不安があるため、北海道の動物園やウルフドッグの牧場へお邪魔した。
ありがたいことに、牧場のウルフドッグはヒト型に見えず、愛らしくも猛々しいもふもふとした獣の姿で見ることができた。
どうやら私の病は、「ウルフドッグだからヒトに見える」というわけではないらしい。

のびのびおいしいものを食べ、本州にはいない動物たちを垣間見て、幸せ満開であったというのに、案内をしてくれたブリーダーさんの何気ない言葉により、私は恐ろしい事実を知ってしまったのである。

突然の怪談節に慄いておられる方もいるだろうが、それ以上に慄いているのは帰りの飛行機でこの事実に震える私の隣に座り私の生み出す震えを飛行機の不具合によるものと勘違いして怯えるおじいさんだ。
申し訳ない。

さておき、驚愕の事実。
私は先の勉強旅行という名目の観光で、初めて「狼の夫婦」というものを見た。
彼らは群れで行動をし、夫婦と呼べるのは群れの中のトップ1ペアのみだという。パートナーとなった相手を生涯愛し、尊び、慈しむ様は、人恋しい独身女性が涙を浮かべるほどと聞く。
そして、具体的にどのように愛し尊び慈しむのかというと、

身を寄せ、目を合わせ、目を閉じ、顔をすり寄せるのである。

聞いたことがあろう。
私もある。
その上、初めにそれを行ったのは私のほうと記憶している。
そうなるともう、件の彼がツガイだの何だのと言い出した原因はどう考えても私にある。

……責任を、取らねばならないのだろうか。

待って!責任を取るって何を?取りようがないでしょ?

恐ろしいことにしかならない予感に苛まれ、震えながら我が家へ帰宅をすると、


「申し訳ない!またひと月よろしくお願いします!」


絶妙なタイミングに定評のある千手兄である。

国境なき何とかの関係でアフリカへ飛ぶのだという。
先日南米から帰ったばかりの千手兄は外科医のくせにどんどんガタイが良くなり、日に焼けて、存在自体が威圧的だ。許容範囲に近づいてくる前に北海道土産の木彫りのクマを投げて退散願う。

残ったのは、件のウルフドッグである。


「知らないやつらの臭いがするな。北へ行ったのか。俺を置いていくな」


身を寄せ、目を合わせ、目を閉じ、顔をすり寄せる。

悲しいかな、相も変わらずヒト型に見える。
なおかつ変わらぬスキンシップ。
馴れゆえの行動だと思っていたため、別段問題視していなかったコレが、よもや、そういう、ああいう、皆まで言うな。
そういえば、己の飼い主である千手兄には、軽く突進したり蹴り飛ばしたりしている程度で過剰なスキンシップを取っていなかった。そういう場面に出くわしていないだけだと思っていたが、そういえば、そういえば、
思い返すときりがない。

しかし待たれよ。

もしかしたら、私の勘違いかもしれない。
現在脳内会議の争点となっているスキンシップは、私が彼をヒト型で認識しているせいで、本来であれば背中やら腰やらに対してアタックしているものが等身上の理由によって顔にすり寄っているように感じているだけかもしれないではないか。
確認を取る必要がある。


『……マダラ、こういうことは、飼い主の柱間さんとはしないのかな』

「……何を言っている。アレはオスだろう。なぜ野郎の顔にすり寄らねばならんのだ……さては、ついにオスメスの区別もつかなくなったのか。仕様のない奴だ……
今回はひと月、共に居られるようだな。この間、オスメスの違いを手取り足取り教えてやろう。
そういえば、俺たちが初めて共にいた期間もひと月だった。
出会いを思い出し、語らいを増やす、これが夫婦円満の秘訣とテレビで言っていた。なかなか会えず寂しい気持ちはよくわかるが、近頃は柱間よりもお前といる時間のほうが長い。
妬くな」


軽いジャブがカウンターパンチで返ってきてしまった。
ちょっとずつ気持ちを推し量るつもりがベストアンサーで返答され、こちらはいつも以上に息も絶え絶えだ。

凄まじい話を事後報告されてしまった気がする。

もう笑うしかない。
今回ばかりは私も悪い。
口に手を当てて呼吸を整えてから、「そう」はなれないと言いくるめるつもりで顔を見る。

相手もこちらを見ている。

その顔の穏やかさに、
私もどうかしている。






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リクエスト、「異種婚どうしてこうなった」です。


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あきゅろす。
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