忍者
花の声を聴け(マダラ)
(※酸欠デイズ番外)
それとなくもクソもない猛攻に疲れ果て、五体投地でしばらく距離を置いてほしい旨を伝えた。
「お前が酷くシャイだとはわかっていたが、そこまで疲れさせているとは思わなかった。望むようにしよう」
「触ってますよ。耳に触っていますよ。」
「おっと、悪いな」
「おっと、ときたもんだ」
おっと、ではない。
このままでは体内に巣食うピロリ菌がダンスを始めてしまう。
ただでさえ他人と住むなど御免こうむりたいのに、日に日に距離が近くなる。近いなどというものではない。
状況は本編御覧の皆様にはご存知の通りだ。番外編故、これ以上は言うまい。
「よろしいですか、私たちは暮らし始めて然程経っておりませんね。だのにまるで、」
新婚夫婦でもあるまいに、と例えようものなら何が起こるか想像は容易い。
よって、出てきかけた言葉はピロリの住まう場まで飲み込む。
「……まるで?」
「……ともかく、渋々共に住んでいるというのに、然したる仲でもないというのに、急接近がすぎます。場合によっては法によって罰せられますよ。私も妙齢の女ですからね。好いてもいない輩に触れられるのは御免ですよ。郷に入れば郷に従うべきではありませんか。」
どさくさにまぎれてついに言ってやった。
少々早口になってしまったが、言ってやった、という達成感に息を吐く。
こういう輩にははっきりと言ったほうが良いことは、頭では理解していたが、実際口にしようとすると、キレてしばかれるのでは、という恐怖が抜けず、言葉にするのに今日まで掛かってしまった。
さて、相手の反応である。
「……なるほどな」
こちらの言葉を噛みしめるように、視線を下方へやり、小さく頷いている。
わかっていただけたのだろうか。
そんなはずはない。
いや、そうであればありがたいけれど、今までの言動から考えるに、この人の「なるほど」は全く「なるほど」ではなく「ほう、それがどうした」程度の意味合いしか持たない。
何か来る。
身構える。
「……ところで、お前に想い人はいるのか」
突然の恋バナ。
しかしわかる。もうわかる。
ここで返答を間違えると、最悪死人が出ることは。
正直に答えるならばもちろん「いない」が、「いた」としても適当かますと適当に挙げた相手が死ぬ。
また、ここにいない相手の名を挙げたとしても、質問者と性分が真逆であったり、納得できないような相手の名などを挙げれば、「なるほど」ともう一度呟きながらこの家の大黒柱をうっかりを装ってへし折りかねない。
ここはひとつ、うちはっぽいけどうちはじゃない、それとなくうちは、という名を挙げる必要がある。
「……い、んどら、さ、ん……とか……」
「……。」
かなりメタだが咄嗟に頭に浮かんだ、うちはっぽいけどうちはじゃないそれとなくうちはな名前がこの人だけだったのだから仕方がない。
番外編短編なのでメタも今更だ。
……と、こちらで言い訳をしている間に、当の質問者は総てを理解し、納得した顔でニコッと微笑む。
「つまり俺か」
花の声を聴け
「お前が酷くシャイだとはわかっていたが、愛はそう遠回しに告げるものではない。まあ、その奥ゆかしさも美点ではあるが」
「触ってますよ。頬を触ってますよ」
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リクエスト、「ポジティヴ解釈うちはマダラ」でした。
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