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春嵐到来。(200000over)
(※ノジヘジ番外)

春嵐到来。

天候不順や月経前症候群等によりアクタガワ的不安が突如として私を襲った。
自身のウルフドッグをアポなしで預けに来た千手兄が訪れなかったら、家じゅうの雨戸を締め、顔を覆って風呂場の浴槽に籠っていたことだろう。

速やかに、再通院となった。

待合室では虚空をギンと凝視する人や、耳を押さえたまま唸る人、滅茶苦茶元気に観葉植物相手に同じ話をしている人がいる。

季節の変わり目、この界隈は混み合う。

目を閉じていると聴覚が過敏になり、院内の総ての会話が聞こえてくるような気がしてくる、というより実際看護師さん方の然程大きな声で話しているわけでもないちょっとした噂話も聞こえている。

衝撃の事実。

オモシロネタすぎて不安も若干吹き飛んだ。







吹っ飛んだと思ってからの記憶が曖昧だが、顔を上げるとすでに診察室のキャスター付きの椅子に座っており、目の前には扉間先生がいた。

後ろで横開きの扉が閉まる音がする。
左手がなにやら誰かに握られていたかのように温かい。


「……吐き気は無いか」

「……?……ええ、はあ、……あ、こんにちは、先生」

「こんにちは。少し具合が悪そうだから、俺の兄が、ここまで連れてきた。覚えているか。今は外だが、マダラもいるぞ」

「………今は休業中でして」

「そうか。そうだな。しかし、一人で居ると、あまりよくないことが頭に浮かんだりするだろう。少しずつ、仕事に復帰した方が、休んで誰にも会わなくなるよりは良いかもしれないな」

「……なるほど、確かに……、……ん?マダラが外に?ああ、そうでしたねすみませんオッケー!大丈夫です任せてください今回も1か月ですか」

「……。」


話をしている間に現実感が戻ってきたため、詰まっていたものが急に全部出てきてしまった。
千手先生はゆっくりと瞬きをしてから、カルテに何か書き込もうとしたが、ペンでカルテを二度トトンと叩いた後、再びこちらに目をやる。


「……そういえば、先日俺のところにもドッグセラピーなるものの研修受講を募集する便りが着てな。門外漢ゆえ詳細はわからないが、やはり毛並みの良いものに触れるとヒトは安心するものらしいな。しかし、黒子、まだ、その……マダラは……?」

「……はあ、成人男性に……見えますが……そうですね、ドッグセラピーは相手がドッグゆえ成り立つものであって、あの子相手ですと、良い男相手の緊張感ある時間でしかないのですが、まあ、最近はそれも慣れてきていて……いえ、最近と言っても最後に会ったのは花の咲く前でしたので……あれ、最近何をしていたのでしたっけ……」

「そうか、そうだな。おおよそ状態はわかった。そうか……、……良い男なのか」

「………わりと、ええ」


応じると、今度こそ無言でカルテにたくさん何かを書かれた。
何を書かれているのかいつも気になって見ようとするのだが、ドクターフォントなので何と書かれているのか不明である。
年賀状をいただいた時も微妙に読めない字があった。
偏見だが、医者は総じて字が下手だ。わけがあるのだろうか。
まあ、千手兄弟の字がクソ汚いことはこの際どうでもよい。


「先生、偶然耳にしたのですが、今度お見合いするらしいですね。私、お見合いって書物でしか見たことがないので他人事ながら最高にわくわくしています。春になってからずっと風が強くてなんとなく不安だったのですが、話を聞いてからちょっと良くなった気がします。結果教えてくださいね」


あからさまに動揺した千手先生は使っていた高そうなモンブランのボールペンをへし折り、勝手に犯人と推測した実兄をしばくために立ち上がった。




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あきゅろす。
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