忍者
譲れないシャンパンタワー(20161224)
(※一昨年昨年続12.24)
「あいつは来ないよ」
リュクスなホテルの一室、妙にふかふかしたソファにてガムテープ等によりご無体な拘束をされてなお、格好つけねばならないのには理由がある。
遡ること数時間前、
今年も「独身貴族底力会」略してドキソのために各々粛粛と金と労力を惜しまず準備を進めていたのだが、
その気配を嗅ぎつけた敵に、あろうことか拉致監禁されてしまったのだ。
敵とはご察しの通り、昨年うちはさんの子守をこのわたくしに頼んだおかげで、ご実家のきれいに整えられていた庭の一部が軍用ヘリに潰され、応客間と己がシャンドンまみれになったことを激しく悔いた千手弟である。
「まさかイイオトナがあのような真似をするとは……俺も油断していた……」
後に彼はそう語っていたそうだ。
まったくもってその通り。
はじめから我々にクリスマスの予定がないと決めつけていたその態度が気に入らなかった。
ざまをみなさい。
それはそれとして、ボーナスをはたいて大はしゃぎしたあの夜がクリスマスイヴ兼誕生日の彼は大変お気に召したらしい。
というより味をしめてしまったらしい。
今年はそこそこ良いところでの食事会でいいか、と思っていたところに
「おい、今年はどうする。着替えは必要か」
とのメール着信。
やる気だ。
しかもやる気ついでにこちらに相談もなく大量のドンペリロゼを購入したらしく、親族を名乗る青年から
「この大量のドンペリは何かと話を聞いたところ、あなたが関係しているようなことを言っている。一体どういうことだ。詐欺の類じゃないだろうな」
と電話があった。
断じて違う。
そしてその大量のドンペリの使い道も私にはわからないので本人に聞いたところ、どうやらシャンパンタワーをやりたい様子。派手好きとはわかっていたが、それにしてもドンペリで?
もったいなくない?
会ったこともない親族の青年と慄きながらも、買ってしまったものは仕方がないので、タワーの準備をしていた矢先の
凶行であった。
敗因は千手弟の高級マンションでタワーを建てていたことだろうか。
情報は筒抜けであった。
千手弟曰く、
「奴も一人では思い切ってはしゃげまい。
普段は割と物静かな男だからな。しかし12.24となれば話は別だ。用意した大量のドンペリや大暴れしたいという欲求は抑えがたいことだろう。必ずや黒子さんを奪還しにここへ来る。そこを倒す」
「倒す」
「ああ」
こっちもなんだかんだでやる気だ。
もしやちょっと楽しんでいるのではないか。
斯くして、冒頭に戻る。
「あの人はね、私なんぞいなくてもやると決めたらやるよ。周囲の人や環境や己の理性がそれをならぬとしても、それら意見を聞き入れた顔をして、本人も聞き入れたと思い込んで、衝動を理性と勘違いするくらいのことをする人ですよ」
苛烈な野郎ですよ、お兄さんから聞いていないの?と笑うと、表情は変わらないがわずかに怯んだ気配。
それを表に出さぬよう、何か言い返そうと薄い唇を開いたその時、
チャイムの音、
「ルームサービスで〜す」
聞き覚えのあるような、ないような、若い男の声だ。
我々が構えた男の声ではない。ドアを挟み
「頼んでいないが」
「そういわれましても〜」
などの問答が行われているのを良いことに、もだもだとガムテープをはがそうとするような物音を、わざと立てる。
昨年のヘリの存在により、うちはさんだけではなく私もなかなか無茶をする冒険野郎との認識を持っている千手弟は、ホテルの備品が破壊される前にどうにかせねばと思ったのだろう。
とりあえず無害そうな声のボーイを速やかに追い返すべく扉を開けた、
のが、
運の尽きだ。
映画などを観ないのだろうか。
ホテルで何かを企てている時にやってくる頼んだ覚えのないルームサービスは大概罠だろうに。
ルームサービスのワゴンの下から滑り出づるは、本日の主役、うちはマダラ氏である。
「扉間、お前、映画を観ないのか。ホテルで何かを企てている時にやってくる頼んだ覚えのないルームサービスの10割は罠だ。後学のために覚えておけ」
格好良く礼服の襟元を整えながら千手弟を小ばかにし、ガムテと格闘するこちらを一瞥、大げさにため息を吐かれる。
状況を楽しんでいるのは明らかだ。
偽ルームサービス侵入も楽しかったとみた。
機嫌が良い。
自分が出てきたワゴンから取り出す箱の中身はやはり、
「助けが遅れて悪かった。……では、始めようか」
譲れないシャンパンタワー
「まずはタワーを作る。手伝えオビト」
「やだぁ……」
ところでボーイの君はもしや、電話の青年。
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happybirthday
20161224
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