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貴方の名前を、どうか教えて(マダラ)
(※現パロです)

豪く男前な面構えをしたこの男、秋の空と乙女心に並ぶ勢いで不安定な心を持つと知ったのが三十分前のこと、
ついでに申し上げると、出会ったのは一時間前だ。

金のない研究職崩れの私が満足するまで飲みたいとき、しばしば他所の、良い感じに酔い潰れて人数が一人増えても疑問に思わないだろうと思われる宴会に這入りこみタダ酒をいただくことがある。以前好きな小説家の本に書いてあったのを実践したところ、思いのほかうまくいき、味を占めての再犯である。

今回這入りこんだ宴会は、どうやら結婚披露宴ウン次会らしい。
男は新郎の兄だという。
どうせ酒を飲むなら良い男の近くで飲みたいというのが乙女心というもの。この宴会、よくよくみると面白いくらい美形揃いであったが、不自然に周囲が遠巻きにしている場があり、その中心に居た、これまた上物がこの男であった。

空いてていいや・くらいの気持ちで横に座り、相手の酒杯に酒を注ぐと、ちらとこちらを横目で見て

「だれだこいつ?」

と言う顔をしたが、すでにだいぶん酔っているので

「まあいいか」

とコップをすぐ空にし、こちらに酌を返してくれる。
良い男の酌ほど酒のすすむものはない。
上機嫌で一気に飲み干し、調子に乗って声をかける。


『この度はおめでとうございます』

「……ああ、……そうか、そうだな……おめでたい……」

『おや、なにか御不満が?奥さんきれいだし、話を伺った限り料理も上手で気風も良いらしいではありませんか。最高かよ?ってなもんじゃあありませんか』


手酌をしながら勝手なことを返すと、畳を拳で叩いて激昂し出す。


「外見が良く料理ができて気風が良い女が良い妻になるとは限らねえだろうが!!!」
「もし、実は子供嫌いでネグレクトかましたら!?ご実家にあいさつに行くの嫌だわ、などと言ってイズナに長らく会えなくなったら!?異常な性癖があったらどうする!?イズナは我慢強く、献身的で優しい。どんなわがままも抱き留め受け入れしかしそのうち限界が来てノイローゼになり病床で怒り狂う俺を、
「それでも兄さん…俺は彼女を愛しているんだ…」
となだめるのだろう……そうなる前にあの女、殺したほうが良いのではないか……」

『ははは、わかるぅ〜』


ところどころ物騒だが、寂しさをこじらせているのだろう。
気持ちは理解できる。


「わかってくれるか。ではどこに沈める?東京湾あたりにするか」

『わかるゥ〜わたしも親友が結婚した時、二次会で新郎の両手の薬指をうっかり装ってへし折りましたもん!』

「なるほど、日本海もいいな」

『でも、そんなことしてもなんだかさみしくなっちまってね……むなしいだけでね……』


酔っ払いの会話であるため双方手前の言いたいことだけをぶつけ合う状態。
このままだと寂しさに狂った新郎の兄が新婦を海に沈めるという新しい種類のVシネマになりかねないので、自戒を込めてたしなめる。


「…………。」

『…………なんだかしんみりしちまいましたね。飲みましょう!』

「……ああ」

『あーちくしょう!さみしーなー!夜風がつめてーなー!』


ここで申し上げねばならないのが、この後この会話を六回繰り返したということである。
酔っ払いゆえ致し方ないとはいえ、回数を増すごとに新郎兄の過激さと、それをたしなめざるを得ない私の虚しさは増すばかりだ。
だから皆、この男を避けていたのかとぼんやり思ったが、なんだかもう、ここまで来たら乗りかかった舟ではないけれども、最後まで付き合ってやるぜ、という私がモテない理由の一つである、この、男らしすぎる精神で相手をし続けている。

そのうち空は白ばみはじめ、誰もいない河川敷で二人きりでべろべろになってお互いがお互いを支え合い、その身体のよれ具合がまさに「人」の字。
そのうち立っているのもしんどくなって、座りこんだ。


「……寒い」


と新郎兄がいうので、かわいそうに思って後ろから抱きかかえてやったというのに


「俺の後ろに立つな!」


と振り払われた。
素面であれば傷ついてしばらくこの事案について思い出すたびに新編日本古典文学全集や国歌大観のページを千切っては口に詰め込むところであるが、すでに皆さんご存知の通りべろっべろなので


『立ってません〜座ってますゥ〜!後ろに立つなって何だよ!ゴルゴかよ!』


と小学生のような返しをして脇腹をド突くことだってできてしまう。


「グッ……そもそもなぜ後ろから抱きしめられねばならん……抱きしめるなら正面から来い!!!」

『それもそうだ!そのほうがあったかいもんな……ちゃんと受け止めてくれるのでしょうな!?』

「よかろう!」

『ヨッシャ!』


旧知の、気の知れた友ともしないような真似をしていることに酔った頭でも気づいているが、なんだかここ最近で一番楽しい気持ちになっているし、あたたかいし、まあいいか!

相手の背中を何気なしに、なぐさめるようにぽんぽんと叩く。

タガが外れたように崩れ落ち、名前も知らない女にしがみついて声を殺して泣く、





貴方の名前
どうか教えて



しようがないから、友達になろう。





(千歳さんへ、Thanks160000over!)



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