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サイハテ観測所(マダラ)
(※追悼文?)

『いくら防寒具みてぇな髪型をしていても、流石にその格好は寒いのではありませんか』


ごう、と吹く風音に負けないよう、黒い背中に呼びかける。
天気が良い夜である。
風があるのはいつものこと、遮るものの無い空はぞっとするほど高く、オーロラが閃き、星が瞬く。
遠く海上では流氷がきゅらきゅらと軋む。
ヒトの居る場所からもココは遠く、光源はこちらの持つカンテラのみだ。
世界の最果てのようなこの大陸に、黒い髪をして黒い服を着た男一人、溶けていってしまいそうである。
ごう、と風が吹く。
振り返らない。


『おうい』

「俺はもう、防寒帽も目出帽子も防風着も羽毛服も安全長靴も防寒靴も防寒手袋要らん身だからな。ずいぶんと着ぶくれて身が重そうだぞ……見苦しいほどだ」

『確かに少し動きづらい。そして間違いなくダサイ。しかし暖かいですよ。守られているような、守っているような』

「守っているような?」

『安心感』


着ぶくれたわが身を抱きしめてみせる。
苦笑した気配。


『守るのも守られるのも、結局は手前のためですからね』

「そして結局、何の為にもならない」

『そんなことはないのですけれども……』

「……そう、たくさんの奴に言われたな。しかし解からなかった。最期まで」

『難しいことですからねえ……理解しようとしてすることでもありませんしねえ……でも、貴方が解からず否定した先へ、あなたはまた、ゆくのだぜ』


長く息を吐く。
水蒸気が瞼に付き、瞬きをするとぱらぱら氷がこぼれる。
応えは無いし、相も変わらず振り返ろうとしない背中からは温度が感じられない。当たり前だけれども。
きゅらきゅらという音が近くなる。
流氷鳴きかと思っていたが、違ったか。


『まあ、もう少しここに居てもよいのですけれども。落ち着いて考えて納得する時間も、たくさんありますよ』


なだめるようなことを言いはしたが後半は近づいてきていた、きうきうきしきしという音に覆われ聞こえたのか、どうか。
大陸の内地からやってきたのか海岸からやってきたのか、よちよちと現れたたくさんのペンギンは、身体に似合わぬ大きな鳴き声を出しながら、私よりも男の方へ進んでゆく。
障害となる男にはうっかりぶつからない限り興味も無さそうにそのまま進み続けるが、ぶつかってしまった何匹かはそこに障害物があること自体に驚き、そのまま立ち止まってぽかんと男を見上げている。
突然ペンギンに囲まれる形となった男もぽかんと、見上げてくるそいつらを見下ろしている。
その絵面が、なんとも。


「……なんだ」

『いえ、そのキュートな生き物と貴方、なかなかにお似合いで』


しばし憮然とした空気を出していたが、


「……ふざけたツラしやがって」


ペンギンに言ったのだかこちらへ言ったのだか、はたまた両方かわからないが、鼻で笑いながら毒づいて、やっとのこと、先の返事を寄越した。


「考えることは、生きている間に充分した。結論も出した。だから行動に移した。もう充分だ。俺は、ゆくぞ」





サイハテ観測所


「……では、お勤めご苦労」

『……はい、良い来世を』






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あきゅろす。
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